21.彼女が木と話すのなら、俺は鉄と話す。
時々ウッドエルフがわからなくなる。
「メレアイン。木を切ってはいけないのに、なんで間伐はするんだ? 間伐だって、木を切り倒している事になるだろう? 枝打ちや剪定ならまだしも……」
(※間伐は密生しすぎた木を敢えて切って適切な空間を作り他の木を活かす事。枝打ちや剪定は余計な枝や枯れ枝、もしくは意図した枝を落とし、保育したり形を整えたり、風通しを良くする事)
するとメレアインは俺の裾を引っ張り、ぽっかり日の差す空間を指さした。そこにはまだ新しい切り株に接ぎ木がしてあったのだ。他にもまだ芽を出したばかりの小さな木が萌えていた。これは種からだろう。エレアインは笑顔の瞳で語る。俺はそれを読む。
「ん? 間伐する際は必ずその木に敬意をもって枝を預かり、死せる骸に接ぎ木をしてその命を繋ぐだって? 木も生ける人、死せる事もある。でもこうやってその命を繋ぐのは私達の仕事であり生命の輪廻はこうやって輪となって広がって行く……。ふぅ~ん……」
ウッドエルフはたまにこういう風に話す。まったく、実直な奴らの中で生きてきた俺には翻訳機が必要だ。それに『目を見て話を読む』ってのも、俺はいい加減慣れたが、これは幻惑魔法の一種だろうか? もしそうなら、石頭なハイエルフが聞いたら禁忌だなんだと騒ぎ立てるに違いない。だが、彼女は話を続ける。
「同じ場所に多くを密生させるのは、森を深くし闇を作り、闇はその地から源を奪ってしまう。そうなれば、生命達は麓へ旅経つしかなくなる。ドワーフや人間であっても、その地のもたらす大地の恵みで皆を賄いきれなければ新たな地へ旅立ち生活を切り開く。森も同様、本来悠久の時が適切な世界を作り上げるけど、私達ウッドエルフはそれの手助けをする事によって輪廻の輪の一員としてその存在意義を見出している……ってか」
う~ん……。彼女は笑顔でなんだか難しい事を目で語るが、つまり『適切な森の管理なんだからOKなんだよ』ってことなんだろうな。超訳するなら『林業馬鹿にするなよ? 適切な林業は自然破壊ではなく、むしろ自然保護なんだよ』と言っている様に思える。まぁ……俺は森の事は専門外だと言ってコメントは差し控えよう。
俺は3トンくらいの木材(殆どがオーク材)を背負って彼女と共に帰路につく。彼女はその後も笑顔で色々話してくれた。
要約すれば、枝打ちは爪切り、剪定は髪を切るのに似ているとな。樹木は多くをできないから、ウッドエルフは彼らの保育者となって要望を聞き、それを代理するんだとよ。
「どうやって木の要望を聞くんだ? 木は話さんぞ? え? 木も話すだって? こうやって幹に耳を当て、息を一杯吸ってから静かに止める。そして静寂が静寂でないと気付いた頃、少しすれば風がその声を運んできてくれるって? ──ハッ! 俺には真似できそうもないな! 俺は『鉄』と話すのが専門なんでな!」
彼女は満面の笑顔になった。俺はつい昔話を始める。
「昔が懐かしい。王国が傾く前は、貿易が盛んでな。仕事も山済みで『ブラックだ! ブラックだ!』とブーブー仲間と文句言いまくったもんだ。だが、今思えばなんだか満ち満ちていてな……。あれが充足感って言うんだろうか? あの時は何でもできる気がした。……昔は、語らずとも槌の音だけで会話したものだ」
……よし。これだけ木材があれば、家を建てるとかでもない限り当面は大丈夫だろう。すると農家達が集まって水車小屋を覗き込んでいる。鞘は大丈夫だ。実はしれっと古びた樽の中に隠しておいたのだ。俺はそれを取り出して、してやったり顔で彼女へ渡した。
「メレアインは用心を覚えないとな」
彼女は首を傾げた。俺は笑った。
「ハッハッハ! よしお前ら、農具を見せてみろい!」
「あ! ヤマアラシだー!」




