19.仕組まれ壊れた鍬。鍛え直す約束。
いかんな。
ついつい同業者であるメレアインを弟子の様に扱ってしまった。彼女はハキハキと頼まれごとを引き受けてくれたが、いかんいかん。気を付けないとな。
俺は、蹄鉄を作る手を一旦止めて、彼女の作りかけの鞘が見たくなってしまった。完成してから、彼女の手によって見たかったのもあったが、どうにも気になって仕方なかったのだ。
俺は、不用心にも机の上に放置された鞘を見つける。そうか、エリノール王国ではわざわざ用心が必要ないのだな。……しかし危ない。ここは人間世界。人間族は、見方にもよるのだろうが、善にも悪にもコロコロ気が変わる。
ある意味魔族より信用できん。
と、いけない。俺も元々は人間だったな……。ふんっ。
しかし、う~ん。やはり美しい。完成しているじゃないか……。手を加える場所はまだあるのか? 裏を見ても申し分なし。
と、早かったな。いや、思えばもう夕刻前か。
「鍛雷殿! いやぁ~! アルフレッド殿は中々のイケメンですな! 私はこの森の番人となりましたぞ! これからも妹共々よしなに! あ~そして、これからちとまた本国に帰ります。というのも、この国、いや我が国、ウェデックス王国はエリノール王国と同盟する事になった次第。この国にも空軍が出来るますぞ!」
「空軍? ふん。そうか……」
「では、急ぐ故これにて! 妹にそうお願い申し上げる!」
お、もう行くのか。まるでカツオみたいな奴だな。ずっと泳いでないと死んでしまうんじゃないか? せわしない奴だ。
さて、作業に戻るか。俺はそっと鞘を戻して盗まれない様に気配で監視しながらも、蹄鉄を作る作業を急いだ。と、すぐにまた気配を感じる。ぬっ。
俺はすぐに表へ出る。
「あの~……」
「アハハ! ヤマアラシ!」
「こ、これっ! また! このっ! あっちいっとれ! アホがっ!」
「わ~!」
「……なんだ。また子連れの農夫か」
「いやぁ~すまんすまん。子供は制御不能でぇ……」
「分かってる。用件を聞こう」
「あ、いや、この鍬さ見てほしんだけども……」
「鍬……か。どれ」
折れてる。柄の木を見るに、まだそこまで使い古されていない。しかし構造が……なんて酷い鍬だ。
「たまに通る商人から買うんだけども、どうもすぐ壊れちまってなぁ……なんとかなんねぇか?」
「なるほど」
商売も商売だな。商魂たくましいとはよく言うが、わざと壊れやすい商品を売るのは小さい奴のする事だ。みろ、この建付けの悪さ、ガタガタだ。しかも屑鉄不純物だらけの鋳造品、叩いて鍛える暇もないのは分かるが、このあえて柄の首を細くして折れやすくするのは如何なものか……。
「村の農具はみんなこうなのか?」
「えぇ……オラたち自由農民だからな。道具さ自前で用意しねぇといげね。でも金さねぇしな。いつも安もん買ってこれだ」
「ふんっ。安物買いの銭失いと言う言葉を覚えとくんだな」
「へぇ……」
「お前ら農家だろ。道具の良しあし位学んどけ」
「だけども、ずっとこの農具だしな……良い鍬なんてどれも見た事ねぇ……」
「なるほど。だったら俺が見せてやる。村中の農具を全部持ってこい。俺が鍛え直してやる」
「おっ! ありがてぇ! ──あ! でもそんな金ねぇ……」
「そうか、なら何か食うもん無いか? 何時までもドラゴンの燻製じゃ飽きる。出来れば酒が良い」
「ド、ドラゴン!? ひぇ……お! ならうちのドブロクさあるぞ! うちのドブログはつぇ~ぞ! ドラゴンも殺せるかもしれね! カハハ! 今持ってくるでの! へぇへぇ!」
「ふんっ!」
竜殺しの酒か。良いじゃねぇか。
しかし蹄鉄に農具か。基本だな。鍛冶屋は生活に根差してこそ真価を発揮する。見習い時代に徹底して叩き込まれた思想だ。……これに釘に建材、補強材なんて始まったら、忙しくなるな。
さて鍬か……。木材が必要だな……。




