1.剣を作りたいのだが、まず色々と準備をだな……。
ヤバいなこれ。無茶苦茶難しい。
始めに『作者はにわかです』と注釈を入れておこう。
「私は貴方の叙事詩が書きたいのですっ!」
「知らん!」
邪魔だったので、エリノール王国からやって来たウッドエルフの使者を鍛冶場から蹴り出した。
さて、ただ剣を作ると言ってもコンセプトを考えなければならない。本来であれば、使う人の特徴を生かしたバランスの剣をオーダーメイドするのが俺流だ。
威力重視なら重心を切っ先に寄せる、振りの速さを重視するなら持ち手近くに重心を持ってくるなど、考慮すべき点は沢山ある。
また、職業によっては付与する術も考慮しないといけない。コストパフォーマンスが非常に悪化するが、使用主の力を最大限発揮できるように、もしくは弱点を補うようにルーンや魔術を付与するのも考慮する。
なので、本来であれば製作依頼主の要望を聞かなければならないのだが……。
今はこの地に落ち着いて、俺なりの鍛冶場を整えたばかりだ。設備のテストも兼ねて、出来るだけ一般受けできる剣を簡単に作ろうと思う。
材料は、主体としてミスリル、刃にはアダマンタイト、バランス調整にオリハルコンを使う。付与するルーンは『風の様な速さ』で、最高級魔鉱石(魔力の宝石)を粉末状にしたものを、刀身に刻んだルーンワードに塗布し術を込める。グリップにはドラゴンの表皮を鞣してひも状にしたものを……
──冗談だ。
貴重な材質ならなおさら受注製作でないとな……。と、言う事で、普通に鉄で剣を作ろうと思う。始めに言うが、鉄だって馬鹿にならない。と、言うより詳しくない人からするとややこしい。
単純に『鉄』と言うと、代表的な材質でコスパが良いイメージだ。だが『鉄』にも色々ある。簡単に言うなら、一般的に使われる『鉄』は、『鉄元素』と『炭素等』の『合金』であると思ってよい。
その『合金』の『鉄元素』と『炭素等』の割合で、その『鉄』の性能と名称が大きく変わる。
鉄鉱石から高炉を使って製錬した炭素含有量が多い硬いが脆い鉄つまり『銑鉄』。そこから炭素含有量をある程度減らしたのが『鋼』となる。だが、『鋼』にも色々あって、炭素含有量の割合、別元素を合金して特殊な鋼、ステンレス鋼等となるものもある。
単純に炭素含有量が少ない鉄だからと言ってよい鉄とは限らない。純度が高すぎる鉄は脆く錆びやすくて加工に向かない。これ以上はググってくれ。あまりファンタジーで科学考証するのは野暮ってもんだ……。
──回りくどくなったが、俺がこれから扱うのは『鋼』だ。
鉄鉱石から鉄、そして鋼に製錬する過程は様々な方法があり、高炉と呼ばれる還元炉を使って銑鉄、転炉(この世界にはある!)を使って鋼を製錬する。
──もしくは『ルーン技術』を使ってさっさと作るか。
俺は製鉄屋じゃない。一人でもできる一番楽な方法を取る。それがルーン技術だ。ルーン技術は誰にでも扱えるお手頃な技術ではないが、俺にはそれが扱える。
だが炉はどっちにしたって必要だ。何故か? 様々な溶解温度の金属を、超高温で溶解する『陽熱のルーン(太陽温度のルーン)』の熱から、建屋や機材、そして自身を守るのに必要なのだ。
そして『陽熱のルーン』は扱いを間違うととんでもない事になるので、溶鉱炉には制御装置となるルーンを取り付ける。そのルーンとは『耐熱のルーン』や『収奪のルーン(魔力を奪うルーン)』等々だ。
──これを『ルーン製錬炉』という。
残念ながら、流れて来て間もない俺に作れるルーン製錬炉はまだまだしょぼい。だが、鉄を熔解する位なら行けるだろう。だから『設備のテストも兼ねて』なのだ。
ルーン製錬炉に物質的な燃料は要らない。必要なのは俺の魔力か魔力の宝石等、とにかく魔力だ。今回は俺の魔力を使う。原材料は鉄鉱石と木炭と空気(酸素)だ。
鉄鉱石と木炭は、たまたまこの村を通りかかった怪しい女運搬屋から買った。
「その鉄鉱石を何処へもっていく?」
「おや? ドワーフとは珍しい。久々にみるな……」
「そうかなのか? で──」
「あ~因みにこれは街の鍛冶屋へ売りつけようと思って鉱山の製錬場からくすねてきたやつさ」
「俺が買っても良いか?」
「金次第だな」
「これでどうだ?」
俺はわけあって流れてきている。だから貨幣はあまり持っていないが、鍛冶屋に売りつけるならとっておきのモノがある。
──それはミスリルだ。
ミスリルは金なんか比較にならないほど高価だが、その端材が手元にあったのだ。
「──え!? これミスリルじゃね!? いいの!?」
「おう」
「やった~!」
女は小指の先ほどのミスリルを手にすると、鉄鉱石をてんこ盛り積んだ馬車ごと置いてどっかへすっ飛んで行ってしまった。よくミスリルって分かったな? あの女、中々の目利きが出来ると見た。
そして、荷馬車もついでに手に入った。
鉄と鋼の製錬て超奥が深いですね……。
高炉と呼ばれる炉で、コークスと石灰石(還元剤)と共に鉄鉱石(酸化した鉄)を投入して高温で還元する。するとスラグ(要らない奴)と銑鉄(炭素含有量4、5%の硬いが脆い鉄)になる。
その銑鉄を今度は転炉か平炉へ突っ込む。転炉に突っ込んだ場合は空気か酸素などのガスを吹き付け主に炭素を燃やしてある程度脱炭する(炭素含有量0.04%~2%に調整)。ほかにケイ素、リン、マンガンも取り除かれ鋼となる。
とはいえ転炉も平炉も比較的近代技術。ドワーフならありか?
因みにタタラ製鉄を調べたら凄かった。こんなのどうやって発見したんだ?
まとめると炭素含有量が多い鉄は硬いが折れたりしやすい。含有量が無さすぎると脆くて錆びやすく扱いづらい。丁度いいのが0.04%~2%含有する鋼と。