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18.蹄鉄の話。

 俺はルーン製錬炉で蹄鉄用鋼材の製錬にかかる。


 蹄鉄とは、馬の蹄(足)の先に備え付ける補強材、いわば靴みたいなものだ。


 野生の馬や、広い草原から選択的に食料を食べる事が出来る馬は、これを付ける必要が無い程蹄は頑丈だと言う。だが、人に飼われた馬は飼料の栄養が偏りがちで蹄は弱くなる。しかも狭い厩舎で寝泊まりする為、尿に蹄が晒される事になると、尿がアンモニアになり、更に蹄をダメにしてしまうのだと言う。


 この話は昔、ドワーフの農家から聞いた。ドワーフは馬に乗らないイメージがあるかもしれない。生前の俺はそうだった。だが実際は農業従事者が多く、ドワーフの大好物であるビールを生産する為の、広大な山岳麦畑があったのだ。


 それを耕すのは、貧しければ牛、ロバ、そして山岳用に足腰の強い小柄な馬、と言うわけで蹄鉄が必要だったのだ。


 俺は駆け出しのころ、散々それを作らされた。当時俺は、武器や防具作成なんてのは雲の上の話に思える程に、日常生活に必要な製品を永遠と、ひたすら永遠と作り続けていたのだった。


 これはもう体に染みついていて目をつぶってでも作れる。そして、ルーンスミスとして長年培っていた鋼材の技術を駆使して、更なる蹄鉄を作成するのだ。


 俺は製錬した鋼材が冷める前から、アンビル(金床)の、角見たいに出た方で鋼材をU字の形にする。


 領主の奴め、幸運な奴だ。作成した蹄鉄に、こっそりルーンでも刻んでやろう。馬の脚が健脚になるように、自然治癒力を高めるルーンワードでもこっそりと。


 そう言えば少量だがミスリルも残っていたな。圧着しよう。表面はアダマンタイトと人工製錬オリハルコンでコーティングでもしてやろうか。ふんっ。何時までも摩耗しない蹄鉄に不思議がる顔が浮かぶようだ。これはあいつ用だ。


 ……俺は、どうせ大量に必要になるだろうから、その後とにかく大量に蹄鉄を作りまくる。と、ほれほれ、そうこうしているうちに邪魔が来るぞ。


「鍛雷殿! 日も高く昇って来た事ですし、私はそろそろ領主の所に行ってこようと思う!」


「一々そんな報告は要らん。勝手に行け」


 エレントールは散々剣を振り回した癖に、汗一つない涼しい顔で城へ向かった。


 俺は作業を再開する。そう言えば、この世界には、蹄鉄にまつわる話は幾つかあるようだ。


 一つは、どこかの鍛冶屋が魔王と契約し、蹄鉄をドアに飾っておけば悪魔は入ってこないと言うものだ。鍛冶屋なんて、まるで俺みたいな話じゃないか。


 その話とは、魔王軍空軍を総指揮する傲慢の魔王ルシフェルが、タレダルの神々(この世界の神々)と戦闘になって完膚なきまでに負け、しかもお気に入りの剣を叩き折られたそうだ。


 ルシフェルは、その剣と共にプライドまでも叩き折られていた。


 そしてどこぞのドワーフに、お気に入りの剣の修復を依頼した。プライドが高く、傲慢なあのルシフェルが、敵方であるドワーフに修復依頼したのはあり得ないと言える程に驚愕すべきことだ。


 だが当初、敵であるルシフェルの剣なんぞ直してやるかと突っ張るドワーフ。だが、あのルシフェルが、主人に叱られた犬かの様にしょげきっていたのにいい加減見かねて、手元にあった蹄鉄を手に取りその時の思いつきで適当な条件を出した。


「この蹄鉄を飾った家は襲わない、魔族にも襲わせないと約束しろ。お前のプライドに誓ってこれに約束できるか? 出来ると言うのなら、その剣を修復してやらんでもない。しかし、その約束を破ったならその剣は、お前のプライドと共にまた折れるからな!」


 ──当時、神の御業とも言えるその剣を修復できるのは俺しかいない。


「ハンッ!」


 我ながら、もっと有効的な約束をすべきだった! 馬鹿馬鹿しい! 今の所奴は約束を守っているようだが、また何をやるやら知れたもんではないわッ!


 そして俺の声に、不思議そうに顔を覗かせるエレアイン。

 

「ん? あ、いや……。ああそうだ。この蹄鉄を村の連中に『魔除けのお守りだ』と言って配って来てくれないか?」


 素直に首を縦に振るエレアイン。


「まだ熱いから気を付けろよ」


 俺がそう言うと、彼女は楽しそうに鍛冶場を後にした。

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