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16.鞘。

 俺はメレアインの鞘を見て、表情には出さなかったが内心ハッとした。


 俺は全部を作る。だが往々にして剣を作るとなると、ついついおざなりにしてしまうのが鞘だ。その重要性は分かっているのに、刀身を専門的にとばかり作って来た俺は鞘を一番遠い存在だと感じてしまっている。


 俺は試しに剣を一本作ったと思っていた。だが、こうしてメレアインの作って来た鞘だけを眺めるとどうだろうか? 俺が作った剣が、これから一番お世話になるはずの鞘をないがしろにしていたと痛感せざる負えない。


 剣は、抜身の状態より、鞘に収まってる時間の方が圧倒的に長いのだ。


 剣を持つ者の人生に於いて、その剣を抜いている時間と言うのは、死生をかけた非常に重要な時間であろう。だが逆に客観的にみて、その剣を抜いている時間と言うのは長い人生において一瞬でしかない。


 常日頃の風雨により錆びるのを防ぎ、抜身の暴力的な一面を隠して周囲への脅威を少しでも和らげてくれる。ひょんな切っ掛けで起こりうる事故も防いでくれるのは鞘のお蔭なのだ。


 俺は、メレアインの『どうですか?』と言った顔を見る。そしてエレントールは言う。


「あ~、鋼抜鍛雷殿。我が妹メレアインは、鍛冶師になりたいと言うのに、どうしてか、誠に不思議でならないのだが、鞘や柄ばかり作るのである。しかし、いかがであろうか? 是非、我が妹を弟子にしてほしいのだが……私は、実に見事な物だと思うのだが……」


 なんと、柄も作るのか……。俺はメレアインを再度見て『それも見せてくれるか?』と目線で催促する。するとメレアインはそれを察して別の袋からそっと作品を提示する。俺は鞘の驚きもあってか、それを見て一瞬で虜となった。


 ……美しい。俺はつい指で装飾をなぞってしまう。


 ドワーフ特有のデザインというのは基本的にデカい、強そう、直線的という感じだ。そればかり見て来たからなのか? いやしかし、それでも俺は散々エルフの細工も見てきている。だが、それでも彼女の作品は衝撃的で、どうにも不思議な感じが俺の心を打つ。


 彼女の織り成すデザインと言うのは、緻密にして繊細、有機的な曲線美とエルフ的であっても、それでいてどうやって導き出すのか、複雑にして大胆でありながらも何とも絶妙なバランスの装飾達。


 こ、これが黄金比と言う奴か……?


 俺は彼女の許可を取るのも忘れて、思わず手に取り細部を確認し、遂には寸法や重量も測ってしまう。すると俺はまた度肝を抜かれる。


 ガード、グリップ、ポンメル、そして鞘……。その殆どが俺のいつも作る刀身の寸法と寸分違わず一致するのだ……!


 長い事鍛冶師をやっていると、周辺装備と互換性を持たせる為に、自然と寸法は規格統一されてくる。彼女は驚く事に、その俺の癖までも熟知していたのだ。そこで彼女は更に、ダメ押しとばかりに新たな袋を取り出す。そこから出て来たのは……


 俺でもめったに作らない日本刀の、鍔、巻柄、そして鞘だった……。


 鍔はハバキやセッパまでも付属している。指標となる物(刀)が無いのに、まさかと俺は、祖国脱出時にたまたま持ってきていた刀を引っ張り出し分解する。そして俺の目は丸くなった。


 目寸法ではあるがこれもまた、ぴったし合っているではないか……!


 奇跡か? 流石に刀まで規格統一はしていない。癖は出ているが、まさか彼女はその癖までも読んで寸法を予測したのか? そんな馬鹿な……。


 ばらした刀の刀身にメレアインの鍔、ハバキ、セッパ、巻柄を取り付ける。そして……どこで手に入れたのやら、この辺にはどこにも自生していないはずの竹で出来た目釘の位置まで一致しやがった……。あ~何て事だ……。


 俺の手は、力んで隠してはいるが、震えていた。まさかまさかと最後に組み上げた刀を、(こしらえ)の鞘へと納めてみる。……なんともはや……納まりの良い……。


 因みに刀の鞘は、刀身が中で鞘の内側に触れない様にできている。錆を促進してしまうのを防ぐ為だ。それもこの鞘は極めて良…………


 ──俺はまるで彼女に告白されている気分になった。


 俺の耳タブがカッと火照るのを感じる。俺は居てもたって居られなかったが、まず深く深呼吸をすると、静かにエレントールに言った。


「エレントール。悪いが、彼女は弟子には取らん」


「「──ッ!?」」


「──な! なぜ!?」


 メレアインは肩を落とし、エレントールは驚いて俺に問う。だが俺は、メレアイン仕様に納めた刀を彼女の前に突き出し、胸を張って堂々と回答した。


「──むしろメレアインとは、この鍛冶屋を共に経営して行きたい!」

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