12.ルーンスミス、刀身にルーンワード付与。
──鉄は熱いうちに打て。
刻むルーンワードは、刀身表に『戦わずして勝つ』とし、刀身裏面には『戦わずして人の兵を屈するは善の善なるものなり』と決めた。俺は直ぐに作業に取り掛かる。ルーンワードも一応ドワーフルーンスミスの秘術であるから、伝統的に読みにくく言葉を刻む。
まず古エルフ語に翻訳し、次いで古エルフ文字からルーン文字へ転写したのを刀身に刻む。
ここまですれば、読めるのはハイエルフの賢者くらいだろう。
道具は、展延性(粘り強さ)の高い人工製錬オリハルコンの合金比率を上げたアダマンタイト魔鋼合金のタガネ(鏨)だ。
俺は仮組した剣をばらし、それで刀身にルーンを刻む。
アダマンタイトは展延性にやや不安があり、降伏点に達するとすぐ破談、折れやすい。例えるなら、切削する為、硬さ重視にしたダイヤの魔鋼と合金したアダマンタイトのタップダイスが、80年もたせたとは言え、この間折れた例だ……。
通常アダマンタイトの原材料ボルツは、ダイヤと比べて高い靭性を誇っているが、天然アダマンタイトは俺の製錬したダイヤの魔鋼より展延性が足りない。だから合金していたわけだが80年で折れた……。
エレントールの野郎が……いや、これは想定内だ。仕方がない。
だから、ケツを槌で打ち付け金属(伝説の金属)に溝を掘るタガネにはもう少し粘りっけ(展延性)を持たせたいと考えたわけだ。そこで合金したのは人工製錬オリハルコン。
人工製錬オリハルコンの色は金。因みに天然オリハルコンはやや青色を帯びた銀色だ。この世界での人工と天然のオリハルコンは全然別物だと思っていい。
β-Ti3Au(金チタン合金)のチタンがミスリルになったのが人工製錬オリハルコンだ。これはボルツを魔鋼化したアダマンタイトに硬度で負けるが(アダマンタイトを130とするとこいつは80くらい。因みにモース硬度10のダイヤが100で、モース硬度9のサファイアが23くらい、今作ってる剣の刀身はせいぜい5くらい)、しかしこの人工製錬オリハルコンはとんでもない展延性を誇っている。
──簡単に言うと決してと言える程に“ぽっきり折れない”のだ。
折れないと言ってしまうと少し語弊があるが、正確にはとにかく破断しない。降伏点に達しても、いつまでもいつまでも曲がったり広がったり伸びたりする。そりゃ~もうネバネバだ。まぁ……曲げられるもんならな。これをアダマンタイトに合金したのはなかなか苦労したが、このタガネはそれでできている……!
フフン。俺自慢の道具だ。
価値にしたらどのくらいだろうな? ちょっとした王国なら買えるんじゃないか?
秘密だぞ?
俺はそんなタガネを使って俺の鍛造した鋼の刀身に楽々と文字を刻む。深すぎては駄目だ。刀身強度が落ちてしまう。だからやさしく槌を打つ。
──ガンガンガンガンッ!
俺は『フゥ~』と削りカスを息で吹き飛ばす。次はルーンワードを発動させる。
下準備としてある程度下地を綺麗に削ってピカピカにすると、次は魔鉱石、魔法の宝石の粉末を作る。今は安物の魔鉱石しかないが、発動後には十分効果を得られるだろう。
魔鉱石、魔法の宝石には種類や等級がある。伝説的に最高級の魔鉱石は鼻くそ位で金貨5000万枚(5000億円)くらい値段が付く事もあるが(俺の記憶だとアルフヘイム共和国で1例だけあり)、再安物だともはや宝石とも呼べない鉱物(その辺にある石)でキロ単価金貨2枚くらいだ。
これから使うのは数十グラムで金貨10枚くらいの安物を使う。
魔鉱石は純度にもよるが、粉末状にするとある特定魔法で燃焼を引き起こす。安物でも集まれば黒色火薬みたいに燃え出すが、それは大気中での話だ。なんらかの固形及び液状の物質の傍で燃焼させると、その物質の魔鉱石化に魔力のエネルギーを取られてしまう為、銃器の様なものを作るのは性能的にもコスト的に難しい。……可能だが。
それはともかく、俺はまず、必要分の粉末状魔鉱石をとある粘土に混ぜ、粉末が均等になるよう良くこねる。そして刀身に刻まれた文字の溝にそれを練り込んだ。余分な分や、はみ出した分はヘラでキッチリ取り除く。
次にルーン製錬炉に刀身を入れ、ある一定の温度(温度は秘密)までに加熱する。そしてほのかに赤く熱せられた刀身を取り出し、赤くなった粉末魔鉱石を練り込んだ粘土を、両面同時になるよう人差し指と親指で挟み込んで触ってなぞる。素手で。
すると、粉末魔鉱石を練り込んだ粘土が激しく燃え上がり、残る刻まれた文字は銀色にメッキされるのだ。少し熱かった。だが火傷はない。
俺は再び文字を指でなぞる。すると刻まれた文字は、それぞれぼんやりと僅かに様々な色に輝き、最終的にはやや黄色めの白へと統一された。
──白か。カリスマだな。
輝く色の変化中、他の色もあった。おそらく持ち手は、ルーンワード付与以外にもステータスが全体的に向上するだろう。よ~し、これで付与は完了したぞ。
この剣の完成は間近だ……!




