10.領主様と殴られた役人、そして契約。
「──お前たちはここで待て」
ウッドエルフ……エレントール対策に開け放ったドアの先から、領主らしき声が聞こえてくる。ついでに甲冑の擦れる音、チェーンのチャリチャリと言う音、馬の嘶き、木製の何かを地面に立てる音等が聞こえてくる。
俺は構わず刀身にフラーを掘る作業を続ける。
数までは分からんが、間違いなく高級な甲冑を来た騎士以上の人物と、槍か何かの長柄武器を持った兵士が数人いると俺は予想した。
「殿下! ウッドエルフはまさにウッドエルフでありまして、ドワーフの方は、頭も髭も例えるならまさにヤマアラシ! 毛と言う毛はまるで針の様でございまして……!」
そう言いながら最初に顔を覗かせたのは目に青タン(青いあざ)のある例の殴られた役人だった。
俺は無視する。すぐに殴られた役人が頭をすっこめると次には若い偉そうな男が警戒心ゼロでズカズカと入ってきて建屋を見渡し言った。
「おお~! すげぇ~な……。あのボロボロだった水車小屋が見事に改築されている……。前見た時とそこまで日にちは経って居ないはずだが……と、これは失礼した。俺の名はアルフレッド。この地を治めさせてもらっているウェデックス王国のシャーホン伯爵だ」
「…………」
俺は無視した。
すると殴られた役人が金魚の糞みたいに続いて入って、眉をひそめ顎を上げ、上から目線で偉そうに言い放つ。
「このお方はウェデックス王国王太子殿下であらせられますぞ! 無視するとは何たることかっ!」
「──そう言うのいいから」
「え!?」
偉そうな男、ウェデックス王国シャーホン伯爵アルフレッド王太子殿下は殴られた役人の有難いご説明を遮った。……ほう、こいつ。
だが俺は無視を続け、手元の作業も続ける。役人はそれに激昂する。
「──こ、このっ!」
「よせ。お前は外で待ってろ」
「──えぇ!?」
殴られた役人は遂に外へ追い出されたようだ。なんで追い出されたのかまるでわかっていない様子だった。
しかしこの王太子殿下、意外と隙が無いぞ。俺が武器を作っているのにも拘らず平静であるし、なおかつ仕草に兵の影が潜んでいる……。
「ふぅん……」
王太子殿下は俺の様子をうかがう声を上げながら建屋内を歩き回り、特に水車小屋の動力伝達部分を眺めた。
「これは……なるほど……。──そう言う訳か」
この人は仕組みに納得したようだ。
その後、王太子殿下は椅子を引き寄せじっと座ると、数分間両者無言の時間が続いた。
俺は敢えて無視している。
それで人となりをザックリ探れる。俺は武器や防具をオーダーメイドで作成する。この無視で相手がどう動くか探りを入れるのだ。これで不愛想だと短気を起こして出ていけば、そんな奴に危険な武器を売らないで済む。
ここでじっと待つか、根気強く話しかけるなりしてくるなら、忍耐、胆力があり冷静になれる人物であるとわかる。王太子殿下は俺の手作業を暫く興味深そうにじっと眺めていた。
そろそろ俺から仕掛ける。
「──何か御用ですか?」
「ん、──この施設は国有財産だ」
ああ、しまった。そうだったのか……。俺はその国有財産を勝手に改築して不法移民し武器を作っている。……これは流石にやばいか?
「だがしかし……暫く財政難で修理もおろそかであったし……なるほど君は鍛冶職人と言う訳か……しかも中々の……そうか……」
ここに留まるにはどうすればいいか……納税でもすればいいのか? そこで王太子殿下は何かを考え、思いついた様に発言する。
「おおそうだな。よし良いだろう! 移民を認める。是非ここに留まってくれ! 貴重な職人さんだ。しかも暫く免税とする」
お……? 俺は意外なコメントに驚きを隠す為、フラーの掘り終えた刀身のカスを払い、剣の仮組を行った。
「──だが地元民の要望にはちゃんと応える事。頼むぞ。それに近いうちに王国中の関所と通行税を母上に頼んで撤廃する予定だ。俺の予想では商人がわんさか入ってくるだろう! それに備えてくれ。──あと、俺の馬の蹄鉄が大分すり減っている。製作依頼だ。金貨1枚と……銀貨2枚でどうだ?」
「承りました」
「すまんな……ここに置いとくぞ。この国はまだまだ貧乏でな。ちょっとケチ臭いが……」
「ただ、今モノがありません。少し時間を頂けますか」
「無論。数日でいいか?」
「はい」
「よし分かった。だが貧乏もこれまでだ! これからは盛大に繁栄するぞ! ハハハ! ──ところで俺の部下を殴ったウッドエルフを知らんか?」
おっと。
「……知りません」
「そうか……」
(まぁ多分エリノール王国だろう)
「もしまた会う事があったら言伝を頼めるか?」
「……如何と」
「そうだな……『この裏の森、サウスオークウッドのレンジャー(森の番人)に任命したいから、もし良ければ城に来るように』と、伝えてくれ」
おおっと……? おいおいマジか……あいつが俺の鍛冶屋のお隣さんになるのかよ……!
「──えぇえっ!?」
するとドアの外から殴られた役人の驚き声が聞こえてくる。王太子殿下は開いたドアの外を眺める。
──蹄鉄か。
手に入れた馬車馬のも作らないとな。そう思った俺は立ち上がる。すると王太子殿下は突然
「──ちょっと待ってくれ。馬の蹄を見に行くんだろう? その間その剣を見ても良いか?」
「ご自由に」
まだ未完成だが殆ど出来たようなものだ。……そうだ、この王太子殿下にくれてやろうか?
「アルフレッド王太子殿下」
「──ん? なんだ?」
(なんだこの剣……ものすっご振りやすい……!)
──ヒュンヒュンッ!
やはり。
屋内である事を忘れず、小手先で剣を振るその音。普通ブンブンと言う音だろ。なのに小手先であるのに乱れないこの風切り音。こいつ、まぁまぁ出来るな……。よし、俺は決心した。
「その、貴方の剣に付与する『ルーンワード』は如何なさいますか?」
「──ん? ……な、にッ!?」




