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0.転生から伝説となり、祖国脱出まで

 とある製造業で寡黙に淡々と真面目に働く工員が居た……。


 脳筋、底辺、ブルーカラーと蔑まれたが、彼はそんな物だと不満もなく、むしろ自分の居るべき場所だと満足して働いていた。


 語るほどの“何か”も殆ど無い当時の彼は、唯一と言ってよい程に危機管理が得意であった。彼は、現場での作業はおろか、日常生活においてもそれを徹底していた。


 車が一台も走っていない交差点に於いてでも、渡る時には当たり前の様に指差呼称をする程の徹底ぶり。お蔭で彼は、名誉の無事故無違反皆勤賞である。だがしかし、そんな彼にもどうしようもない事はあった。それは


 ──ピンポイントでの隕石直撃であった!


 奇妙な事に、周囲10万世帯の家の窓を割ったその災害は、唯一死者をその彼にのみ留めた……。


 理由を紐解けば、彼は他者の意思によって異世界へ、ドワーフとして転生させられたからであったからなのだった!


 ☆


 ──だが残念な事に、転生後も暫くそれほど語る話はない。


 しいて言うならば、父も()()、立派な髭を蓄え、大酒呑みで声がでかいと言う事だろうか。とにかく、彼は名のある鍛冶師の息子として転生した。


 これは非常に幸運な事である。


 この異世界の人間社会でも、製造は元の世界と同様、決して位の高い仕事ではなかった。しかしドワーフ社会での鍛冶師は、超が付くほどのエリート扱いだったのだ。


 ドワーフはみな鍛冶師とか彫金師とか、金属に関わるイメージだが、ドワーフだって飯を食わないと生きてはいけない。実は、この異世界でのドワーフの大半は農業や畜産、それらに関わる食品加工業等の従事者だったのだ。


 それだって立派な仕事に代りはない。


 だが、ここのドワーフ達は、金属に関わる仕事は鉱夫でさえ、王に直接仕える位の高い、偉い仕事だと考えていた様なのだ。しかも彼は名のある鍛冶師の家系に産まれた。


 ドワーフの鍛冶師はその殆どが世襲制である。名があれば一層である。何故ならば、その家系に代々伝わる一子相伝の鍛冶秘術があったからだ。つまり彼は、それを学ぶ権利を、産まれながらにして唯一持っていたのだ。


 故に、彼は非常に幸運な名家に転生したのである!


 ☆


 だが、幸運にも色々な形がある。その捉え様は人それぞれ。人によっては幸運は地獄にもなる。


 彼は物心つくとすぐに、両親とその弟子達の元で働く事となった。それは決して楽な事ではない。非常に酷暑な環境、危険と隣り合わせの環境、きつい肉体労働とまさに3Kである。


 毎日、体中のミネラルを絞り取られ、体力と筋力の限界を突破せねばならない。集中力も必要だ。僅かなミスも即命取りとなる。


 つまり彼は、超エリートの鍛冶師として地獄の様な、スパルタ英才教育を幼少より毎日受けるのであった。だが彼は乗り越えた。


 彼は下積みで20年、修行して30年、そして世襲・相伝してから槌を打ち鳴らし続けて50年! 遂に、ドワーフの王に認められる程立派なルーンスミスとなったのである!


 ルーンスミスとは、鍛冶師の中でもエリート中のエリートである。通常、魔力を帯びない金属製品の製造から、一歩先に行って魔力、すなわちルーンストーン等を扱う魔術付与系装備を製造する超エリートである。


 この階級の鍛冶師となると、ドワーフと歴史的に仲の悪いエルフでさえも、敬意を表する程、例の少ない事なのである!


 そして彼は、ドワーフ族には稀に見る、長命種(寿命が長い人)と判明する。そうと分かると今度は、更にもう100年上乗せで自己鍛錬しだしたのだった!


 なんと忍耐強く勤勉で野心旺盛な奴だ!


 ☆


 彼の200年にも及ぶ修行は功を奏した!


 この異世界には魔鉱石と呼ばれる、魔力の根源、魔素、すなわち魔法の素粒子を多く含有する宝石が存在する。魔術師であれば、誰もが知り、自分の持つ魔力を越えた、大きな魔術を使う場合に必ずと言ってよい程必要となる魔法の宝石である。


 その価値は一級品ともなると、途轍もない金額で取引される程の宝石である。通常の宝石の価値からおよそ10~100倍の値で取引される程だ。


 彼が一子相伝した、彼だけにしか扱えない秘術は更なる自己鍛錬により、その魔力の宝石、つまり魔鉱石を鋼材として扱う能力を得た!


 魔法の宝石を、武器や防具で扱われる鋼材とする能力……! くどい様だが、宝石が、槌で打たれ、引き伸ばされ、鍛えられ、そして武器や防具となる能力!


 ──宝石を槌で打ち延ばす!?


 なんて事だ! 賢者はこれを魔鋼と呼び、彼はそれを編み出したのだ!


 一般的な鋼から、ドワーフやエルフの得意とするミスリルに、伝説だ幻だと語り継がれるオリハルコン、アダマンタイト、ヒヒイロカネ。そして200年の月日を要して編み出した彼オリジナルの秘術、魔鉱石を鋼材にした魔鋼……!


 それにより彼は、歴史上類の見ない、ドワーフやエルフの王でさえ跪いた程の、そしてルーンスミスの中でもその頂点に君臨する、唯一絶対の生きる至宝……


 『レジェンド・オブ・ザ・ルーンスミス』となったのであった!


 そんな彼の名は、性を鋼抜(こうぬき)、名を鍛雷(たんらい)と言う!


 レジェンド・オブ・ザ・ルーンスミスの鋼抜鍛雷! ここに爆誕!


 ☆


 ……だがある日、鍛冶師界の頂点を極めし鋼抜鍛雷に苦難が訪れる。


 事の始まりは、オークの侵略によってドワーフと人間の貿易が滞ってしまう所から始まる。それによってドワーフ王国は、財政から始まる国難に見舞われてしまったのだ。失業率は80%を超え、特権階級は横暴を働く……そして遂に、


 共産主義革命が起きてしまったのだ……!


 資本主義と保守主義を排除しようとする、政権を奪ったドワーフ共産党は、その象徴でもあったルーンスミスにも目を付け、強引に廃止してしまう! 残念な事に、努力して得た鋼抜鍛雷の居場所はなくなってしまった……。挙句には、彼を政治犯として逮捕しようとしだしたのだ!


 ──目的は彼の秘術であるのは明白だった!


 彼は意を決して、僅かな道具だけを携え祖国脱出を試みる! 彼を引き留めようと大軍が動員される! しかし、もはや伝説となった鋼抜鍛雷を止められる者など存在しえない!


 ──彼は、彼を引き留める為だけに動員された10個師団の包囲を突破した!


 だがドワーフ共産党は諦めず、戦力を倍にして猛追跡を行う!


 しかし、後にドワーフ人民最大の敵とされるドラゴン、ルーデリオンが突如として大空に現れた! 元々ドワーフ嫌いなルーデリオンは、平安を妨げられ途轍もなく憤怒していた! 容赦のない爆炎! 打ち震える山々!


 ドワーフ共産党は結局全軍を差し向けるも、大空よりまるで、逆さにした火山の噴火の様なルーデリオンに、もうどうする術も無く、彼らは遂に追跡を断念したのである。


 鋼抜鍛雷は祖国を大脱出した!


 かつてのドワーフ王国、現ドヴァウフ社会主義共和国連邦は、オークとルーデリオンに国を挟まれ、外界との接触が無くなってしまうのであった……。


 ドワーフ共産党は後にこれを、強引な政策から貴重な技術流出と天災が起きた事の戒めを込めて、ルーデリオンと鋼抜鍛雷の名から『憤雷の災禍』と呼ぶようになるのであった……。


 ☆


 ……鋼抜鍛雷はその後西へ、エリノールの大森林を越え、流れに流れて人間世界西マグナビス地方のウェスランド七王国が一つ、公爵領一国分しかない貧しいウェデックス小王国へとたどり着いた……。


 鋼抜鍛雷はそこで荷を下ろす。


 彼は、ここで小さな鍛冶屋を始める決心をしたのであった……!

個人的に気分転換で書いている小説です。

更新は気まぐれで書きたい時に書きます。

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