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キャンディはチョコレートを愛さない  作者: コーチャー
キャンディは砕かれていた
9/21

キャンディは砕かれていた②

 梅の花がぽつぽつと淡い桃色を描いてはいても、山々や街路樹はまだまだ冬の色を残しているせいか余計に寂しさを覚える。四之山駅から高校へと向かう道なりもどこか冬には明るく春には華やぎがない中途半端な具合である。


 同じように登校している生徒たちも似たようなものでぼんやりとしている。一週間前に期末テストの返却が終ってしまい授業は消化試合になり、先月の末に三年生たちは巣立っていった。そのせいかどうにも生徒数もまばらで気が抜けたような時期といえる。


 阿呆のように口を半分あけて歩いていると、鋭いブレーキ音を立てて自転車がすぐそばで止まった。


「なんだその体たらくは」

「いいじゃないか。期末テストも終わって春休みまでのモラトリアムくらい惚けていても罰は当たらないだろ?」


 声の主――野口和彦のぐち・かずひこに訴えると大きなため息が帰ってきた。


「京平。そんな調子でいるとあっという間に青春は終わってしまうぞ」

「いいじゃないか。春を謳歌する者もいれば夏を楽しむ者もいるだろう。ひょっとすれば冬が一番に来るということもあるさ」

「やっぱりお前は爺むさい。もっと普通に若者らしくしろよ」


 若者に若者らしくしろとは難しいことを言うものである。僕は和彦に不満を表情で表す。


「ああ、それくらいがいいな」


 人の不満顔が面白いのか和彦は愉快そうに笑った。


「それはどーも」

「いいってことさ」


 そう言うと和彦は自転車のペダルを強く踏み込むとあっという間に僕を追い抜かした。


「珍しく急ぐんだな」

「日直だ」


 僕らの通う四之山高校へと続く道を和彦は風のように突き進んでいく。僕はそのあとをとくに急ぐわけでもなく歩いていく。アキレスと亀のパラドクスが一瞬頭に浮かぶが、アキレスである和彦にすでに追い抜かれている時点でパラドクスは発生しないに違いない。


 亀である僕が高校の門にたどり着くとボランティア部が募金のお願いと書いた募金箱を持って立っていた。

 ボランティア部の中にクラスメイトのものが混ざっていたのでポケットの中にあった百円を心づけとして入れておいた。募金箱を持っていた男子生徒は一年生だったのか大きな声で「あざーす!」と叫ばれて僕は苦笑いをした。


「朝から元気だよね」


 背後から柔らかな声がした。僕はその声が修善寺しゅぜんじなずなのものだと直ぐにわかった。


「ボランティアだからね。元気がないよりも元気な方がいいんじゃないかな」


 僕は彼女のほうに振り返らずに答えた。アキレスと亀のパラドクスであれば前を進んでいる僕は後ろにいる修善寺に追いつかれることはないはずである。


「元気がないのも嫌だけど、元気すぎるっていうのも嫌じゃない?」


 パラドクスはあっさりと打ち破られて修善寺が僕の隣に追いついた。


「そう? 元気な方が普通はいいんじゃないかな」

「朝から大きな声で挨拶されたり、高すぎるテンションでこられたらシンドイなぁってならない」


 確かに妙に押しが強い人と話すような時はひどく疲れる。


「まぁそうかな」

「そういう意味では三木くんはちょうどいい塩梅だよね。熱くも冷たくもないし」

「人のことを白湯みたいに言うね」


 僕の答えが面白かったのか修善寺は目を細めて笑った。

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