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キャンディはチョコレートを愛さない  作者: コーチャー
キャンディは砕かれていた
18/21

キャンディは砕かれていた⑪

 最終的に僕らのクラスはすべての競技で優勝を逃し、唯一の好成績は和彦の卓球での四位であった。クラスメイト達はそれなりに喜んだものの個人競技の成績ではいまいち盛り上がらないらしく簡単に拍手を送ってホームルームとなった。


 朝から見ることがなかった担任は、球技大会中にくだらないいたずらがあったことを少しだけ語ったが、早くも春休みのほうに目が向いているのか。テストもなく授業も短縮されている今の時期が一番事故が多いという月並みなコメントでホームルームをしめた。生徒たちのカバンに無差別に入れられた飴のことは担任にとってもおそらく入れられた側にしてもたいして影響がなかったからに違いない。


 それでも担任が話に出すくらいだと思えば、和彦が言っていたように相当数の人間が入れられたに違いない。


 担任の様子から想像を膨らませていると前の席にいた修善寺がこちらに振り返っていた。髪型はもう戻したのかポニーテールからいつもの髪型に戻っている。その姿を見てどこかで安堵した。それが顔に出ていたのか修善寺は首をかしげて「どうかした?」と尋ねた。


 僕は何でもないよと、適当にごまかして「スリーポイントすごかったね」と彼女を褒めた。彼女は少しだけ恥ずかしそうにはにかんで「熊谷さんがマークにつかなかったらあと三本は入れられたのに」と悔しそうに言った。確かに彼女がマークについてから修善寺は一本のシュートも撃つことができなかった。


「それでも見せ場があるっていうのはいいことだよ」

「三木くんも見せ場があったよね」


 彼女が言っているのはバレーで二組に勝ったことを言っているのだろう。だけどあれば三セット目くらいからは相手チームのミスに助けられた印象が強い。それでも鈴木が適切な指揮をしてくれたから勝てたのだとは思う。僕はと言えば彼の指示に従ってぴょんぴょんと飛んでいただけだ。


「おかげで三試合もでたからもう足がボロボロだよ」


 そう言って僕は自分の失言に気付いた。


「……あのときの?」

「うんまぁ……」


 小学校が一緒だった修善寺は僕が骨折を隠していたことを知っている。それは僕にとってあまりほじくり返したくない過去の一つだ。修善寺はひどく心配そうな瞳をこちらに向けて、何かを言いだそうとしていた。


「そういえば、修善寺さんはこれ知ってる?」


 僕は強引に話を変えるためにカバンの中に入れられていた。砕かれた飴をとりだした。修善寺はそれを見るやいなや「それ私も入ってた」と驚いた顔を見せた。慌てた様子で修善寺はカバンからビニール袋に入った飴を取り出した。


 それは僕のカバンに入っていたものより数が多く。余った分を入れましたと、言わんばかりだった。


「なんか多くない?」

「え、三木くんのはそれだけだったの?」

「流石にこれを食べる勇気はないよ。修善寺さんはそれ食べる気だったの?」


 多いほうがいいとは思わないが、露骨に差をつけられるとなんだか負けた気がしないでもない。


「私もそんなつもりはないけど、そっちの数が少なかったから」


 確かに僕のほうは一つの飴が砕かれた感じだけど、修善寺のものは少なくとも十個くらいの飴が砕かれているの違いない。これは僕が見た柳や鈴木のものと比べても多い。だけど、もっと他の被害者のものと比べると多いのか少ないのかは分からない。


「犯人はとても大雑把な人間だったんじゃないかな。大袋からざぁーと流し込んで入れて小分けしていったら多い少ないがでとか?」

「でもこれって元々小分けの小さな袋に入ってるやつでしょ? それを一度開けて小袋に入れなおしてさらに砕くとかすごい几帳面じゃないかな。絶対A型の人だと思う。私なら絶対無理。あきちゃうもの」

「なるほど、なら実際にあきたんじゃないかな。最初は修善寺さんのくらい入れてたけど、小包装を空けるのも砕くのも面倒になってあとのほうは一つだけ入れて砕いた。これなら少しは手間が省ける」


 修善寺が言うようにA型の犯人かは分からないが、入れている量に多い少ないがあるというのはおかしい気はする。


「手間を省きたいなら最初に飴をまとめて砕いてからそれぞれの袋にいれればいいのにそうしてないあたりが絶対、A型。効率が悪くてもきっちりしようとするのもきっとそう」


 親の仇がA型なのかと尋ねたくなるくらいの発言ではあるが、僕の知る限り修善寺の両親は健在で元気なはずである。だが、修善寺が言うように確かにビニール袋に入れてから砕くというのは手間がかかりすぎている。どうせ砕くなら彼女の言うようにまとめて砕けばいいのである。


「修善寺さんが言うように犯人がA型だとして、そこまできっちりしてる犯人だと動機が分からないよね」

「どーき? 暇だったからじゃないの? 試合が早く終わったとか」

「修善寺さんが言うようにこれってとてもきっちり準備してあるよね。飴を用意して、袋もいるし、飴をつぶす何か棒もいるかもしれない。そう考えたら理由なくこんなことするかな?」


 修善寺は腕を組んでしばし考えてから腕を左右に伸ばして「さっぱりわかんないね」と微笑んだ。

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