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キャンディはチョコレートを愛さない  作者: コーチャー
キャンディは砕かれていた
11/21

キャンディは砕かれていた④

「京平。今年度最後のイベントだ。ここでかっこいい姿を見せて女子からの好感度を上げようぜ」

「球技大会の主催者である生徒会長とは思えない意気込みをありがとう」


 上下長袖の青色ジャージにマイラケットを手に笑う野口和彦のぐち・かずひこは気合に満ちているのか朝からテンションが高い。一方でのそのそと教室で学校指定のジャージに着替える僕はといえば三月十四日という重苦しい日付に押しつぶされそうな気持ちであった。


「球技大会は一応は生徒会主催だが、実質は体育委員会の仕切りだからな。俺は気楽なもんさ」

「その割には昨日は生徒会室に連行されていたよね」


 半袖短パンに丸坊主という野球少年のような出で立ちでやなぎが茶化すと和彦は「人気者はつらいんだよ」と仏頂面で答えた。三月中旬とは言え柳の姿は見ていて冷え冷えするが、本人は気にもしていないようだった。


「柳は何に出るんだよ?」

「僕はサッカーだよ」

「サッカーだと? 一部の経験者が幅を利かして残りの奴らはお飾りか引き立て役にしかならん競技じゃないか」


 和彦のサッカーに対する歪んだ感想に柳は不敵な笑みで応じた。


「わかってないなぁ。サッカーで勝とうなんて僕が思うはずないだろ。僕はこのとおり背は低いし運動神経も平凡なんだから」

「ならどうしてサッカーにでるんだよ?」

「うちのクラスのサッカー経験者は一人だけなんだ」


 十一人中一人しか経験者がいないから平凡な柳でも活躍できるという論法なのかと和彦と僕が顔を見合わせると柳はわかってないなぁと言いたげに首を左右に振った。


「簡単にいえば一回戦で僕のクラスは負ける」

「負けたら活躍もできないけど?」

「京平も和彦イズムに犯されてるなぁ。僕の狙いは負けることなんだよ」


 負けることで何かいいことがあるだろうか。息を切らせて走り回ることはなくなるだろうが、今日のほとんどを退屈な時間で埋めなければならない。それに和彦が言うようなモテるチャンスもないはずである。


「負けて楽をしようとは情けない」

「和彦は浅いなぁ」


 柳はため息をつくと僕らにだけ聞こえるような小さな声を出した。


「負ければ次の試合はないからあとはほかの競技を見るだけだ。つまり、女子の試合が見放題なんだよ。巨乳で有名な一組の大野さんのバスケも美脚で有名な七組の七瀬さんのテニスだって見に行ける。和彦たちがむさ苦しい男たちと戦っているあいだも僕は楽しい観戦ができるってわけだよ」

「柳……。お前は本当にエロいやつだなぁ」

「見た目は純朴な青年なのにどうして中身がド変態なんだ」


 僕と和彦が一歩下がると柳は共感が得られなかったことが予想外という顔をした。


「おかしいなぁ。同じ運動音痴の京平は賛同してくれると思ったのに」

「柳。別に京平は運動音痴というわけじゃないぞ」


 和彦が僕を指差すと柳はひどく驚いたように目を大きくした。


「まぁ、どうかなぁ」


 僕は答えを断言できずにあやふやな返答をした。確かに僕は走るのが遅いので柳の驚きは当然である。

「コイツは小さいときに足の骨を折ったのを二週間も我慢してたんだ。それで変なふうに骨が引っ付いて足が遅いんだ。だから上半身だけのスポーツならそこそこできるぞ」


 小学生のときである。僕は遊んでいて足の骨を折った。それはひどく痛かったが、小さな怪我をするだけでも怒られていた経験から親にひどく怒られると思った僕は骨折を隠して生活をした。それは結果としてバレることになり、僕の足も完全には治ることはなかった。


 いま考えてみれば、最初から正直に言えばよかったのだが、当時の僕はそう思わなかったのである。


「ただ、上半身だけのスポーツなんてほぼないから運動音痴と言っていいけどね」

「なら、どうしてバレーなんて選んだのさ?」


 柳が腑に落ちない表情でこちらを見つめる。


「ああ、バレーならネット前で手を挙げて飛んでればそれっぽく見えるからね」

「ものすごい詐欺」

「詐欺じゃないよ。処世術といってほしいな」


 僕らがそんなことを言い合っていると赤色のジャージの女生徒がこちらに駆け寄ってきた。四之山高校のジャージは学年ごとに色が異なるためすぐに彼女が一年生だと分かった。


「会長! もう開会式が始まります。早く体育館まで来てください」

旗市はたいち。別に俺が挨拶しなくてもいいだろ? 体育委員会の後藤あたりやらせればいいじゃないか」


 和彦は抵抗するが、正論を通す旗市に連れられて体育館の方へと連行されていった。

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