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王子様を待っているキミへ  作者: 今野ひなた
39/50

39話

絶好調、と言う言葉が似合う日がある。 今日はそういう日だった。


声も出て、体も痛くなくて、気分もいい!部活にも精が出るというものだ。


「ううん、今日の放課後は会いに行けないって話をしようと思って。部活の通し練習があるんだ」

「そう。……練習する場所って体育館だっけ?」

「うん。第二の方だよ?おっきい方は運動部が使ってるから。……はっ!見にきてくれてもいいよ?!!うん、そうだよ!見にきなよ!今の俺すっごく上手いから多分惚れるよ!惚れ直すよ?!」

「気が向いたら行く」

「王子の気が向いたらは来るって事だから気合い入れて待ってるね!」

「はいはい。もう授業始まるから切るよ」

「はーい、頑張ってね。ところで王子のとこ次の授業なに………って切れちゃった」


無情にもほとんど一方的に電話は切られてしまう。

授業によっては何科か特定できると思ったんだけど。


「ま、いっか。俺も授業いこ」


俺は浮かれた気分で携帯をしまい、教室へ向かった。





「ふっふっふーん♪」

「ご機嫌だな」

「あったりまえじゃーんっ!放課後だよ?部活だよ?王子が見に来るんだよ?!」


確定ではないがアレは見に来てくれる雰囲気だった。期待したっていいだろう。


「それ昼休みも聞いた。よかったな」

「うん!もー帰りのHRがすっげー待ち遠しかった!さっさと部活いこーぜ!」

「おー、待て待て。俺5分くらい用事あるから」


腕を引っ張って体育館へ引っ張ろうとすると優しく腕を解かれた。


「えっこんな時に?それは俺より優先すべきこと?」

「お前より全然大事なこと。現文の課題出しに行ってくる」

「そういうのは授業内に終わらせろよ……」

「終わらせられなかったから今持ってんだろ」


真面目な智仁が課題を遅らせるなんて珍しい。


「じゃあ教室で待ってるから早く行ってきてよ。1分で帰ってきて」

「一緒に来てくんないの」

「現文の先生って生徒指導じゃん。俺が行ったらぜってーネチネチ言われる」


一緒に行ってもいいのは山々だが、素行の悪い自分のことだ、見かけられた瞬間長いお説教が待っているだろう。


「あー……。わかった、じゃあ悪いけど待ってて」

「うーっす」


気の抜けた手を振って机で帰り支度を始める生徒に混じりながら携帯をいじる。

智仁はそれから教室に人が一人もいなくなるまで帰ってくることはなかった。


「……遅い。おっっそい!!もうみんな帰っちゃったよ?!メッセも帰ってこないし!職員室って階段降るだけっしょ?!アイツ何やってんの?!」


智仁が居るであろう職員室からこの教室までは階段を隔てるにしても5mもない。数十分もかかる筈がないのだが……。


「はー、連絡だけ入れて先部活行っちゃおうかな……。もう練習始まる時間近いし……」

「……あれ?」


ふわりと揺れる黒髪に目を奪われる。


「王子?」

「……結斗」


彼は目を丸くして驚く。


「やっぱり王子だーっ!!なに?なになに?今から俺に会いに行く感じ?って言うかこっちの塔にいるって事はもしかして商業科?でも同じ三年なのに会った事ないって事はまさか年下?!!」

「落ち着いて。そんなに一気に話されても答えられない」

「ごめん、じゃあ、えっと……」

どれから話そうか、頭の中で整理をして居るとため息混じりで彼は答えてくれた。

「これから教室に残ってる人が居ないか風紀の見回りに行くんだよ。部活に行くのはその後」

「放課後もやるんだ?!知らなかった……大変だね」

「1人が担当する教室は少ないからすぐ終わるけど。サボる人が殆どだから 知らないのも当然かも」


風紀委員の知り合いは片手程度には居るが、そんな話は聞いたことがない。王子の言う通りサボタージュする人がほとんどなのかもしれない。


「ほら、君も早く部活行きなよ。ここの教室だけ確認すれば僕の今日の仕事終わりなんだから」

「そうしたいのはやまやまなんだけど職員室行った智仁が帰って来なくて……」

「ふーん。迎えにいけば?」

「……生徒指導の先生がいるから行きたくない」

「だからってずっと待っててもしょうがないでしょ」

「でも……怒鳴られるのやだ」

「なんで変な事する度胸はあるのに肝心なとこでダメなの?……じゃあ一緒に行ってあげるから。絡まれたら話そらしてあげるし」

「い、入れ違いになったら?」

「すぐ下なんだからないでしょ。行くよ」

「うぅ……はい」


手を引かれて階段を上る。


「……やっぱやだなぁ」

「すぐだよすぐ。ほら、もう着いた」

「えー……無理無理無理って、アイツいないっぽい?」

「先生が?」

「いや智仁が。さっき誰ともすれ違わなかったよね?どこいったんだろ」

「うーん、置いてかれたとか?」

「まさか。俺が置いてくことはあっても逆は絶対ない……とは言い切れないんだよなぁ……。やっぱ先部活行くかぁ」

「待って、あっち」

「ん?って……いたぁ!」


曲がり角から現れた茶髪に駆け寄ると、驚いた表情をされる。


「お前マジでどこ行ってたつーかなんでそっちからくんの?!目的地職員室だよね?!」

「帰るついでに世界地図戻してこいって頼まれたんだよ。すぐ終わるとおもってたけど以外と長引いたな」

「そういうのは連絡しろ?!本当待ちくたびれたんだから!ね、王子っ?」


同意を求めるために後ろを向くとそこから彼は居なくなっていた。


「……あれ、王子?」

「何?さっきまでいたの?」

「うん、お前を一緒に探してくれて……あれ?さっきまで隣にいたよね?」

「いや知らないけどさ」


二人でクエスチョンマークを出していると携帯から通知を知らせる電子音が鳴り響く。


「ごめん、携帯……。王子?」

『委員長に呼び出されたから行ってくる。部活は見れたら見る』

「委員会いったのか〜〜」

「委員会?」

「風紀だって。お前もこういうマメに連絡するとこ見習えよな〜〜」

「その用事は口で言った方が早くね?それにしてもその王子様、随分急いでたんだな。一言もなかったなんて」

「そうだな〜〜。ま、いいよ。早く体育館いこーぜ。俺衣装着替えなきゃだし」


そう、今日からは衣装を着てでの、限りなく本番に近い練習。


「そっか、お前衣装あるんだよな。もう一人であれ着れるか?」

「着れるよ?!ちょっと時間かかるけど……。そう!ほらこんな話やめてもう行くぞ!」

「着替え手伝ってやるから怒るなよ」

「怒ってねえよ?!」


王子の行方は気になったが、今はそれよりも練習だ。

智仁と並んで体育館までの廊下を歩く。

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