25話
少しだけ、緊張する。 なんてったって真面目な喧嘩をしたのは三年ぶりだ。
毎回毎回あっちから折れて、思えば俺から謝った事なんて一度も無かった。
教室に入るとクラスのみんなの視線が身体に刺さる。その中で泣きそうな顔でこちらを見つめる男が一人。
彼は目線を一巡させて俺に話しかけるか迷っていた。
俺も勇気を出して彼に話しかける。
「智仁」
「…………あの、結斗、さっきは……むぐっ?!」
何かを言う前に智仁の口を塞ぐ。何か聞くのが怖かったというのもある。だがそれよりも何か余計な話を聞いて激昂してしまうかもしれない自分が嫌だった。俺も父さんと変わらない。
俺は智仁の口を塞ぎながら一つ深呼吸をすると思い切り90°の角度で頭を下げた。
「さっきは八つ当たりしてごめんっ!」
「息ができないんだよアホッ!」
「すみません!」
慌てて手を離すと、智仁はぜーぜーと息を切らして息を整えた。そうしてハッとすると言いにくそうに表情を変える。
「いや、でも俺も……ごめん、お前にも色々事情があるのに」
「いーや!今回は俺が全面的に悪い!……心配してくれたの嬉しかったよ。ありがと」
「……落ち着いたら話して」
俺はそれには何も答えずに笑いかけた。話すつもりなんてさらさらなかった。
「……と、言うわけで、」
智仁の右手を取り、反対側に向き直してクラスメイトの方を向く。
「みんなー!俺たち仲直りしましたー!いえーい!」
そうすると固く張り詰めていた雰囲気がほころびたように解けた。
「おっ、やーっと仲直りかよ。コイツ結斗と喧嘩してからずーっと死にそうな顔してたんだぜ」
仲の良いクラスメイトが智仁を茶化す。
智仁はドスの聞いた声でそれに答えた。
「……おい」
「うわ、こえー顔」
「そんな……!俺、俺には心に決めた王子と言う人が……っ!」
「お前も乗るな!」
笑う。俺も笑う。みんな笑う。 これで元通り。これが俺の普通。
俺が上がる舞台はこうでなくちゃいけない。 暗いステージは嫌だ。光がなきゃ誰も俺なんか見てくれないんだから。
照明を点けなきゃ、無理矢理にでも、俺の演技をみんなに見せるための照明を。




