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王子様を待っているキミへ  作者: 今野ひなた
24/50

24話

友達が俺みたいに苦しんでいる時、俺が友達の立場だったら何をするだろう。

答えはわかっている。


『何もしない』

『気づかないふりをして見ているだけ』


だって、たかが子供の分際で助けられるわけないだろう。

子供は無力だ。大人がいなければ何も出来ない。だってこの世の中は大人の都合のいいように作られているから。

だから、子供がいくら騒いでも、抗議しても、助けてって叫んでも誰も聞いてくれない。


それがわかっているから俺は見て見ぬ振りをする。せめて子供の世界だけでは等しくいられるように。


そんな選択をする俺が智仁のことを責めるだなんてとんだお門違いだ。

むしろ最初から諦めている俺より、立ちあぐねながらも何かしようと頑張っている彼の方がよっぽど相手の事を考えている。俺に彼を責める権利はない。助けようとする気持ちだけで、味方でいてくれるだけでありがたい事なのに。

それを俺は。


そこにあるのは後悔と自己嫌悪。重い石の様にのしかかるそれに押しつぶされそうになっていると頭上からの声が俺を現実に引き上げてくれた。


「あれ、珍しいね?こんな時間にいるなんて」

「王子……」


貯水槽の陰から顔を出したのは王子だった。今日も本を読んでいたんだろうか?でもこんな時間から?


「サボり?感心しないな。ちゃんと授業は出なきゃだめだよ」

「えっそれ王子が言う?」

「僕はいいの。授業出なくても、学校に来なくても」

「ふ、不良だ……」


今は丁度一限が始まって半分くらいの時間。人のことは言えないが完全に遅刻だ。今日の出席は絶望的だろう。


「基準低くない?ところでアンタはなんでここに居るの?」

「ちょっと友達と気まずくなって逃げてきただけ。すぐ戻るよ」

「喧嘩でもした?」

「別に喧嘩でもなんでもないよ。ただの八つ当たり」


隣に座るように促される。大人しく腰をかけると目前には秋晴れが広がっていいる。


ここから見える空は広くて、なんだか自分が小さい存在に思えた。


「で、どうしたの」

「……昨日、学校休んだんだ」

「へぇ」

「授業サボって遊びに行っただけなんだよ、ほんとほんと。なんもなかったんだ、なのに怒るとかアイツ酷くない?!確かに連絡付かなかった俺が悪いけどさ、あんなに怒る事ないよね!しかも携帯確認したら不在着信50件くらい入っててこえーーよ!って話!なんか思い出したらイライラしてきた、やっぱ俺から謝る必要なくない?!ないよね!?」

「心配されてるんだよ」


智仁は昔、俺がやらかしたことが多分トラウマになっている。

だから俺から滅多な事で離れないし、俺に尽くして、いつも心配してくれている。俺と一緒に悩んでくれる。だから本当の事は言いたくなかった。


「知ってる!……知ってるから、心配なんかかけたくない。絶対俺より悩むし」

「…………でもさ、友達の方はきっと話してほしいって思うんじゃないかな」

「なんで?」


できることなんてないのに。

重い話なんてうざったいだけなのに。

わからない。

首をかしげる俺に王子はそんな事もわからないのかと笑った。


「だってさ、大事な人が苦しんでるのに何も出来ないなんてきっと歯痒いよ。確かに何も出来ないかもしれないけどさ、それでも何かできるかもしれない。それを探すのは悪いことじゃないよ」


それは、一度だけ経験があった。

本当に限界で、全てを諦めていた頃。

俺は智仁の言葉で全て投げ出すのを思いとどまった。もし、彼が俺に仮初めでも希望をくれなければ俺はここにはいなかっただろう。


「ま、でも難しいよね。あ、そうだじゃあ話したいことができたら代わりに僕を頼ってよ。直接でも電話でも君の都合のいい時でいいからさ」

「王子を?」

「うん。だって僕は君を助ける気も、同情する気も最初からない!」

「それそんなはっきり言う!?」


悩んで、困っている人間の前でそんな事を。初めての経験に思わず大声で突っ込んでしまう。


「だって最初から期待できないなら何だって話せるでしょ?」

「え?」

「僕は何もできないけど愚痴ならいくらでも聞ける。溜め込みすぎると疲れちゃうからさ、そう言う時に僕を使ってよ」

「そうだね。王子だったら気を使う必要ないし?でも本当に王子ってデリカシーと言うものをどっかに忘れて来てるよね!……でも、ありがと。ちょっと元気になった」

「その戻った元気でさ、智仁くんと仲直りしてきなよ。きっと心配してる」

「だいぶ酷い事言ったし、許してくれるかな」


俺だったらあんな酷い事をを言われたら三ヶ月は口をきかない。


「大丈夫だよ。だって君はあの子に大切にされてる」


十分わかっている。それはもう痛いくらいに。


「あの子は君の側にいてくれるよ。大丈夫」

「……根拠は?」

「勘!」

「それは信じられそうだ」


そうして2人で顔を合わせて笑った。

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