23話
今日は学校を休んだ。
今日も学校を休んだ。
「おっはよーーっ!」
二日ぶりの学校は爽やかな風が吹いていた。
今日は秋晴れ!寒くもなく暖かくもなく過ごしやすいいい日だ。
そうでなくても久しぶりの外なのだ。多分雨が降っても雪が降ってもいい日とか言うと思う。
クラスメイトは休んでいた俺を見かけると次々と声をかけた。
「おはよう」「風邪だって?」「馬鹿でも風邪引くんだな」「久しぶり」
どうやら担任には風邪だと伝わっているらしい。……まあ無難だろう。
「まだ来てないけどさ、近衛が心配してたぜ?何回電話しても出ないって」
「ああ……」
知っている。今日初めて携帯を見てその履歴の多さに若干引いた。
過保護なのは知っていたけれど流石に1日七十件もかけてくるのはお前は俺の何なんだよと思った。
その親友様は時間ギリギリだというのにまだ登校してきていない。
早く顔を見せてやりたいと彼を待ちわびていると、やっと智仁が息を切らしながら教室の扉を引いた。
「おー近衛!結斗来てるぞ」
「よーっす」
「お前ー!家行っても誰もいねえし先行くなら先行くって言えや!」
「いや約束してねえだろ」
智仁はズンズンと俺に一直線に向かってくるといきなり怒鳴り込む。口煩い友人の言葉を耳を塞ぐフリをしながら流しているといつの間にかその声が止んでいることに気付いた。
「智仁?」
「お前」
俺の腕を視界に入れた瞬間、智仁は俺の服を掴み教室から引きずり出した。
「ちょっと来い」
「え、なになに?!」
押し込まれたのは使われていない空き教室。俺をそこに突き飛ばした智仁は教室の扉を乱暴に閉めるといきなり俺の腕を掴んでカーディガンの袖を思い切り上に上げた。
「……なんだよこれ」
「転んだだけだよ」
「取るぞ」
「ちょっと!」
リストバンドの下には包帯が巻かれている。智仁はそれを無理矢理引っぺがすとその下にあるものを見て唖然とした。
「……転んだだけだ」
「転んだ傷がこんなになるわけないだろ」
そこには自分でも痛々しいくらいの真新しい円形の火傷痕が散らばっている。病院すら行っていないのだ。たった二日で治るわけがない。
「……お前、一昨日から何してた」
「……」
「これ、普通の火傷じゃないよな」
「すぐ治るよ」
「そういうことを言ってんじゃねえよ」
俺の過去を知っている彼は、もう大体の予想がついているのだ。苦虫を噛み潰したような表情からありありと伝わってくる。智仁は父さんのことが嫌いだ。でも俺はそうじゃない、父さんは道理にかなったことをしているだけだ。父さんは悪くない。
「……何かあるんなら相談してほしい」
善意が神経を逆撫でさせる。白々しい!全部わかってるくせに!
だってお前はあの時見てたじゃないか!だったらされたことも、何で学校に行けなかったかも、全部わかってるはずだろ!?最初から助けてほしいなんて思ってない。
そして、何も出来ないなら触れないでいて欲しかった。
「……ってかこういうとこに連れて来たってことはわかってんでしょ?聞けばいいじゃん、父さんが帰って来たか?なんて。それとも何?見てるだけしかできないから聞くの怖かった?大丈夫だよ、お前にはもう期待してない」
「ーー結斗、俺は」
「だってお前は!結局王子様になってくれなかったもんな!」
一番、彼には言ってはいけないことだと気付いたのは衝動的に口に出してからだ。
謝らなければ、そう顔を表に上げた時、目に入ったのは彼の傷付いた表情だった。
「……結斗」
「ーーッ、」
その先を聞きたくなくて咄嗟に友人の横を通り教室から出る。智仁は最後まで何か言いたそうだったが、俺のことを引き止められたりはしなかった。
いっその事このまま俺に愛想をつかせてしまえばいいのだ。 そうすればもう傷つけなくて済む。
(でも、)
本当に智仁が俺から離れていってしまったら俺はきっと生きていけないだろう。
だって今まで俺は、あいつに生かされて来たのだから。
あいつに依存して生きて来たんだから。




