19話
それを見つけたのは、荷物の整理をしている時だった。
引越しまで数ヶ月、二度とこの家に帰ってこないことを考えると、この時期から荷物の整理を始めないと間に合わない。
なんせ十八年分の生活の軌跡を全て処分しなければならないのだ。
新居の大きさからして持って行ける荷物はキャリーケース一つと、ダンボールが5、6箱くらい。
引越し直前では間に合わないだろうし、時間のある今のうちにある程度のことはしてしまうことにしている。
「……ん?」
父親と共同の書斎の本棚の中にしまわれているのは一冊のアルバム。父さんは俺の写真なんて撮らないし、俺もアルバムなんて作る趣味は無い。
古びたアルバムを興味本位で開いてみる。きっとこれは父さんのものだろうから、見たのがバレたらまた怒られてしまうだろうが、知的好奇心には逆らえない。
「…………」
それには父さんの学生時代のものらしい写真が貼り付けられていた。
友人らしい者とのツーショット、クラスの集合写真、当時の彼女だろうか、母親ではない女との写真もある。ペラペラと流し見するように眺めているとある1枚の写真が目に入った。
「私立星城学院演劇部/文化祭」と下にラベルが貼られた写真には煌びやかな洋風の衣装を着た若き日の父さんとその仲間達が映されている。
「これ……」
なんの因果だろう、諦めかけた火が再び燃え上がるような感覚がした。
星城学園は自分の通学する学校の名前だ。それがここに残っているのなら父さんはあの学校のOBと言うことになる。
「二十年前……演劇部……」
学園の新校舎ーーつまり今自分たちが使っている校舎のことなのだが、それは今年で二十周年を迎える。
新校舎設立と同時に旧校舎は不要になった様で、ありえないことだがグランドピアノなどの値の張る備品もそのままになっているくらいなのだ。当時の演劇部だって備品を残してくれているかもしれない。
そもそも演劇部を復興させたのは自分で、部活自体は入学以前に廃部になっていたのだから。
もし、自分の学校の旧校舎が当時のまま残っているのなら。
キラキラした舞台で輝きたい。
誰かの心ににキラキラしたものを残したい。
あの王子様と同じように。
だけど自分にはまだ力不足だ。そんな実力も魅力もない。
それでもあの衣装があれば、昔自分が心動かされたように、誰かの心を動かせるかもしれない。
実際には着れる物ではないだろう。
それでも、お守りが欲しいのだ。
どんな理不尽にも耐えられるような心の支えが。




