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王子様を待っているキミへ  作者: 今野ひなた
18/50

18話

「ってわけで〜〜、俺たち超ラブラブなんだ♡」

「うわぁ……」

「羨ましい?」

「いや妄想もそこまで来てしまったのかと……」

「妄想じゃなくて現実!」


部活が終わり校門を出ると外はすっかり夜。バイトもないと言うのもあり、俺は友人に夕食の買い物に付き合ってもらっていた。


夕食のメニューも自分で毎日考えるとワンパターンになってしまうので一緒にメニューを考えてくれるのは助かる。それに一人の時間は少ない方がいい。


「もしかしたら家に呼ぶとこまで進展しちゃうかも……!そしたらオムライス作らなくちゃ」

「なんでオムライス?」

「ひよこさんが可哀想で食べられないっ!ってやつをやって可愛さアピールをするチャンスだからだよ!」


オムライスが食べられないのは可愛いとネットで見たことがある。それを信じるならば王子からの好感度アップは確実とも言えるだろう。


「可哀想で食べられないっていうか作るのお前じゃん。最初から食う気満々じゃん」

「その頭の足りなさが可愛いんだよ!わかってないなぁ!」

「お前スルーしたら泣く癖にツッコミしたらキレるのマジでなんなの」

「可愛いだろ」

「めっちゃウザい」


辛辣だ。でもそんなこと言っても智仁は俺のことが大好きなので傷つきはしない。


茶化してやろうかと頭の中で考えていると目の前に猫が横切った。演技が悪いとされる黒猫じゃなくて三毛猫だ。


運良く食べ物にありつけているのか、小さくても、丸々とした身体つきをしている。


「あ、そんなことよりねぇ、ほら見て!猫」

「本当だ。三毛猫だからメスかな」

「メスなの?」

「三毛猫のオスが生まれる確率は限りなく低いから。三毛猫は大体メスだって思っていい」

「へ〜〜博識。やっぱ脚本書くのってそういう雑学とかいるの?」

「いやこれは一般常識……ってアレ、」


その件の三毛猫が路地裏で小学生の集団に囲まれている。


いじめられているわけではなさそうだし、好意的に思っているのだろう。

近くには子猫より一回り大きな猫が様子を伺っている。模様が似ているからお母さんだろうか?


「あ、小学生に構ってもらえるなんていいな。でも怖がってる、人馴れしてないのか」


騒ぐ子供たちにしびれを切らしたのか、三毛猫が隠れていた隙間から顔を出して駆け出した。見えていなかったのだろう、目の前に車が来ているのに気がついていない。


「!、やば……」

「結斗?!」


気がついていた時には走り出していた。

トラックの前に行く前に身体を掴んで引き寄せる。運転手の方もこんな小さな猫なんて視界に入ってなかったようで減速もせずに通り過ぎていった。俺と通り過ぎたトラックの距離は数センチ。


T字路の死角にいたとはいえ俺にすら気づかないのはどうなんだ。携帯を見ながら運転していたあの運チャンには言っても無駄な話だろうけれど。


「……大丈夫?」

「……にゃー」

「お前がトロくて俺も助かったよ。どこも怪我はない?」


もう少し早く走られていたら最悪轢かれていた。俺の健脚と三毛猫の脂肪に感謝だ。


「おい、結斗!お前何やってんだよ!」

「人助けならぬ猫助け?」

「そうじゃなくて!猫如きでなんでお前まで飛び出していくんだよ!死ぬかもしれなかっただろ?!」

「ほら、みろよ」


俺の手から離れた子猫が近くにいた別の猫に近づいて行く。寄り添った二匹は住宅街の垣根の間に消えて行った。


「あの猫、三毛猫だからお母さんかな。迎えに来たんだ」

「それが何……」

「お母さん猫っぽいのがいたからさ、死なせちゃダメだと思って。猫如きじゃないよ。誰かに大切にされてる奴は死んじゃダメだよ。猫でも人でも、それは変わらない」


「……お前だって」

「俺はアレじゃん、…………別にさっき死んだってよかったよ」


死んだって良かった。流石にこの男の目の前でそんなことはそれこそ死んでも口に出せないけれど、死んでいたら楽になれたかもしれない。


「そういうのやめろよ。ウザい」

「うん。ごめん」

「本当、いつか死にそうで怖いんだよ……頼むからもうやめてくれ……」

「大丈夫だよ、もうしない。だってさ。俺には王子がいるから」


きっともうすぐ俺は救われるから。


「だからもう大丈夫」


大丈夫なんだよ。自分に言い聞かせるようにもう一度呟いた。

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