15話
最近、結斗の様子がなんだかおかしい。何も言わずに突然居なくなったり、今まで部活に一番に来ていたのにいきなりギリギリで来るようになったり、朝遅刻しなくなったり。
(なんかあったのかな……)
そういえば変になり始めたのは王子様とかいう男に熱を上げ始めてからのような気がする。
いつもの病気か何かかと思ったがもしかしたら何かあるのかもしれない。
例えば、そいつから喜んでカツアゲされてるとか、変に束縛されてるとか。恋愛関係ではなかったとは言え、過去に前例があるから否定は出来ない。
「じゃあ、ちょっと行ってくるねっ!」
「今日部活あるだろ?間に合うのか?」
「そこら変はちゃんとするから大丈夫!」
「ならいいけど。……どこいくの?」
「秘密ー!」
「…………」
昔だったらなんでも教えてくれたのに。行く場所でも、食べたものでも、日常の何気ないことまで全部。
(……ムカつく)
今だってどこに行って何をするのか教えてくれなかった。俺はアイツに関してのことは何もかも知ってなきゃいけないのに。だって知ってなきゃダメなんだ。また取り返しのつかないことになる前に。
きっと今なら追いつけるはずだ。
(どこ行くんだ……)
一階、二階、階段を踏む音が校庭から届く運動部の声を上書きするように人が少ない校舎に靴音が響く。それから遅れて、俺の少し重い音。先を行く足音は丁度屋上のあたりで消えた。
(屋上、あそこ鍵かかってなかったっけ)
扉が閉まる音を確認して、俺も4階へ上がる。立ち入り禁止で鍵がかかっているはずの扉は、取っ手から壊されていた。
最初から壊れていたのか、はたまた結斗が壊したのかはわからないが、特に開けるのに手こずった音がしなかった事から本人は頻繁にここに出入りしている事がうかがえた。
扉の中から小さく声が漏れる。遠い上に扉を挟んでいるためよくは聴こえないが声色は楽しそうなものだ。もしかしたら中にはもう一人居るのかもしれない。
(相手は……もしかして例の王子様とか?)
確認しようと音を立てないように扉を開け隙間を作る。肝心の相手は丁度死角に居るのか目視できないがなんとか結斗だけは視界に入れる事が出来た。
「……で、……から……」
何か話してはいるみたいだが内容までは流石にわからない。どうにかして聴こえないかと彼を目視しながら考えているとあるものに気がついた。
(……台本?)
薄いブルーの表紙がついた手作りの小冊子。それは確かに俺が作ったものでおそらく次の舞台で使う脚本だ。
(そっか……自主練してたのか。アイツも頑張ってるんだな)
どこの男かもわからない奴の逢瀬ではなかった事にホッとするも、なんで素直に教えてくれなかったんだと胸の奥からムカムカした気持ちが湧き出てくる。
偶然を装って声でもかけてやろうか、そう考えていた時、スラックスのポケットから電子音が流れてきた。
(やばい……っ!)
扉の外にも聴こえていたのかおそらく結斗のものであろう足音が近づいてくる。
顔を合わせた時の言い訳も考えていなかった俺は咄嗟に屋上の手前に設置された掃除用具入れの中に隠れた。
「………だれ?」
屋上の扉が開けられ、人影があたりを見渡す。バレたらどうしよう。いっそのことさっきの時点で声をかけていた方がまだ自然だったのではないだろうか。ロッカーに入ってるところなんて見つかったら完璧に不審がられる。
音が外まで漏れてしまいそうなほど煩く叩く心臓を押さえつけながら時間が過ぎるのを待った。
「…………変なの」
そう呟かれた後にタンタン、と階段を降りる音があたりに響く。どうやら帰っていったらしい。一気に気が抜けたせいか今更汗がどっと吹き出してきた。
「あっぶなかったー……」
お騒がせの元凶であるスマホを確認すると部活の後輩からの連絡。画面には可愛らしいスタンプと共に『部長も副部長も居なくて困っている』との内容表示されていた。
「こんなストーカー紛いのことなんてしてる暇なかったな……」
そろそろこっちも戻らなければ。
ケータイをスラックスのポケットの中に戻し、自分も結斗の後に続いた。




