4月2日 4
生まれてから今日に至るまで、王宮の横に存在するということ以外は全く知らない場所だった神殿。
ここは、王族や高位の神官、そして『聖女』様といった限られた存在しか立ち入ることの許されない聖域。
まさか、自分がここに足を踏み入れることになるとは思いませんでした。
馬車は神殿の正門入り口だろう大きな門を通り、そのまま大きな建物内に入ると、そこで止まりました。
建物はまるで大きな倉庫のように広く、何台もの馬車が止まっていました。
「ここは神殿の入り口で、馬車乗り場でもあります。ここからは歩いての移動になりますから、着いてきてください」
そう『聖女』様が言われると、慣れた様子で専属神官の方の手を取り降りられました。そのまま、専属神官の方は私に手を差し出され降りるのを手伝ってもらい、三人で真正面にある立派な扉へ入りました。
中は白を基調としたシンプルながらも気品さを感じる作りで、窓にはめ込まれているガラスはなんとなく一般的に見る物よりも厚みがあるように思えました。
私たちはそのまま真っ直ぐ歩き、数分して第1聖女の間と呼ばれているらしい広間らしき場所に着きました。
そこには、私たちが立っているよりも少し高い位置に作られている場に数名の白いドレスに白いベールを着た女性と、初老の神官の方が座っておられました。
白い衣装をまとったおそらく『聖女』様と思われる方は4名、ベールに隠れているのと距離があるためか表情や年齢まではわかりませんでした。
神官の方が、立ち上がりこちらに歩いて来られ、どうしたら良いかわからず、つい『聖女』様、セレスティアーナ様にすがりつくように見てしまいました。
セレスティアーナ様は微笑みかけ、神官の方に対し、
「教皇様、この方が新たに誕生された聖女様になられます、名はマリアンヌ様。
証拠は彼女の首元にあるネックレスを見られれば、お分かりかと」
そう言われて初めて、儀の時のネックレスのことを思い出し、首元に触れました。
そこには、私が触れた瞬間に形作られたネックレスがあったのです。
私は、自分でつけた記憶も、着けられた記憶もなく何度目かの混乱に陥りました。
そんな私の様子を見てか、教皇様は笑いながら、
「うんうん、どうやら彼女は何故ネックレスを着けているのかわからないようだね?
セレスティアーナ様、貴方がこっそり着けられたのでは?」
「教皇様、わかっておいででおっしゃってるのでしょう?マリアンヌ様のネックレスは触れられても誰かが勝手に着け外しはできませんのよ?
疑われるのであれば、ご自身で確認されては?」
「はははっ、いやぁ、すまないすまない、では一応、毎回のルールに従って確認されてもよろしいですか?マリアンヌ様」
急に話しかけられ、返事が裏返って出てしまい、ますます教皇様に笑われながら、ネックレスに触れられました。
石からチェーン部分にかけ良く見ながら触られ、チェーンを一周して触られて、手を静かに下されました。
「うん、これは間違いないね、本来ネックレスにあるはずの着脱用の金具もないし、何より、汚れが一切見られなかった。」
「汚れ?」
「それはおいおい知っていきましょうね、では、本物であるという確認も取れましたし、『聖女』様方、最後の登録の儀をお願い致します。」