97話
オリビアのおつかいは確定したとして。
問題はその旅路だ。
馬車を用意しようと思い、オリビアにそう伝えたのだが。
「心配の必要はありません、今日中には着くと思います」
「え?」
結構な距離だ。
馬車で1週間と少しかかる時間を、今日中に走りきると言うのだろうか?
「マスターの実験も兼ねていますので」
「実験?」
「はい、新たに発明された機能の実験です。
ゴーレムの外装をドールに取り付けることで、能力向上のテストをしたいと」
よく見れば、オリビアの足元には見慣れない物が取りつけてあった。
ロボットの装甲のような形をしているが足の動きを阻害しないような形状になっている。
「・・・まあ、それは後で神威に聞いてみるよ。
そのシステムの試験運用のためにも、走るって事だね?」
「はい」
「分かった、でも無理は駄目だよオリビア」
「分かっています、八霧様」
カテドラル前の石畳に手を着くオリビア。
その格好は、短距離走の選手が走りだす前のような形をとっている。
「では、行ってきます」
グッと、オリビアの身体に力が入ると。
一瞬で、風と共に駆け抜けて行った。
「速い・・・!流石は神威」
ドールマスターの一片を垣間見た気がした。
ドールにも様々な可能性があるんだな、とそう思う。
それに、あの速度なら今日中に着くというのも納得だ。
下手すると、自動車よりも速いんじゃないだろうか・・・?
――――――――――――――――――――
「さて」
前から進めていたある準備を始める。
リルフェアさんからは許可を貰ったし、在庫も十分に作った。
「八霧、これ何?」
神威が高く積まれたビールケースのようなものを指差す。
「全部ポーションが入ってるんだ。お店を開こうと思ってね」
「薬屋?」
「うん」
前に話していた、薬屋を開くという話。
カテドラル近くの空き家を改装して薬屋にしようとしていた。
リルフェアさんが用意してくれたんだけど。
・カテドラルに一部利益を還元してくれれば場所を提供する
・免許に関しては私の採択で受理できるので問題無し
との事だったので、晴れてお墨付きで薬屋を開ける状態になった。
とは言え、物がなければ店が出来ないのは当然で。
細々とポーションを生産していた。
そして、開店しても十分なほどの量を確保できた。
(まあ、店の方の改装はこれからなんだけどね)
開店するにしてもあと1か月ほどは掛かりそうだ。
テネスさんが居てくれれば、明日にでも開店できたんだろうけどなぁ・・・。
そんな事を思いながら、自分の部屋とその扉の前に置かれた大量の薬瓶を見る。
自分の事ながら、よくこんなに作ったものだ。
初級ポーションから上級ポーション。
毒消しや麻痺治し、疾病耐性。
作れるものは全部作ってみた。
そして、分かった事がある。
全部、こっちの世界の素材で出来る事だ。
これは嬉しい誤算だった。
最悪、作れないポーションが出てくる事は覚悟していたんだけど。
その出来ないポーションは今の所ない。
「八霧、嬉しそう」
「うん、ここまでやって、十分な成果と情報が集まったからね」
「・・・でも、この量、どうやって売るの?」
そうだ、それを考えてなかった。
店を開く許可と場所は貰ったけど・・・そうか。
「僕、店番の経験は無いな」
まずい、接客業なんかしたこともない。
初めての土俵に上がることになるかも知れない・・・。
「店長を、代理の人にしたら?」
「代理?」
「ん・・・慣れない人がやるよりは、いいと思う」
確かに、神威の言う通りだ。
慣れない僕がやるよりは、誰か信頼できる人に店を任せた方がいいかも。
僕は、薬を作るくらいしかできないし。
と言っても、すぐに代理に立てれるような人物が思い浮かばない。
しばらくは、僕一人で―――。
「トーマさんが戻るまでは、忙しくて手が回りそうにないなぁ」
目途が立っても、しばらくは開店しない方がいいかもしれない。
2足以上の草鞋を履くのは不可能だ。
過労で倒れるだろうし。
――――――――――――――――――――
「なるほど、加速度は良好ですね・・・流石マスター」
オリビアは前傾姿勢のまま、加速しつつそう呟く。
端から見れば、馬以上の速度で走るメイドが、道を駆け抜けていくように見える。
「しかし、制御が難しい。加速力の代わりに機動性が落ちてますね」
スタミナを消費している感覚も無く、爽快に走れるのだが。
速度の代償としてカーブが難しくなっている。
(・・・もう少し、改良の余地がありますね)
そう思いながら、オリビアはコンドアの街へと向かう。
砂煙を巻き上げながら。
その最中の事だった。
「!」
オリビアの身体が急に止まる。
目の前から歩いてくる男女の二人にぶつかりそうになったからだ。
「おわぁ!?」
「きゃあ!!」
「っと」
身体でブレーキをかけ、目の前で止まるオリビア。
その顔を、男女2人がまじまじと見ていた。
――――――――――――――――――――
少し前、首都とコンドアを結ぶ街道でアセルとエミーナが走っていた。
私はアセルと一緒に、首都近くからコンドアの街に向かっていた。
首都に来た理由はコンドアの街へ運ぶ手紙の依頼があったからだ。
それを受け取り、コンドアの街へ・・・。
行こうとした筈だったのだけど。
「なんで!あんな奴がここにいるのよ!!」
「知るか!!」
コンドアの街に向かう途中、道端で泣いている少女を見かけた。
その少女に話しかけたが最後・・・だった。
「『バンシー』が何で昼間から泣いてんだよ!しかも道端!!」
「常識が通用しないのが魔物でしょ!バカアセル!」
「ひどいな、おい!」
後ろから空中に浮遊して追いかけてくる色白の美少女。
長い黒髪を触手のように動かしてこちらを追いかけてくる。
『バンシー』。
黒い髪をして、ボロボロの服を着た美少女風の魔物だ。
普段なら廃墟や人の住んでいない豪邸を住処にしている大人しい種族なんだけど。
・・・たまにいる、凶暴化したのが私達の後ろから追いかけてきている。
話しかけた私達を敵とみなし襲い掛かってきている。
「Bランクの魔物なんて、俺達じゃ無理だぞ!」
「分かってるわよ!次の街まで何とか―――」
後ろから目の前に目線を向けた時だ。
土煙が目の前に現れた。
「おわぁ!?」
「きゃあ!!」
咄嗟に回避しようと体を動かすが。
ぶつかる直前でその砂煙は止まった。
そして、よく見ればその砂煙の中には。
メイドが立っていた。
「ま、魔物!?」
即応で初級魔法『小火球』を唱えるが。
目の前の女性はそれを見て服に付いた埃を払っていた。
「私の名前はオリビア、貴方たちの言う魔物には該当しませんが」
「い、いや、だけどな」
慌てて剣を引き抜いたためか、アセルは鞘ごと剣を引き抜いていた。
「なるほど、バンシーですか。
中級ダンジョンから出る、レイスの上位種ですが」
「な、何を言ってるんだメイドさん!逃げた方がいいって」
アセルのその言葉に頷いて返す私。
Bランククラスの冒険者で互角の存在だ、メイドが勝てるわけが―――
「何故逃げるのです、倒せばいいのでは?」
そう言うと、メイドの片手が変形する。
それは、神官や僧侶が持っている鈍器、メイスの形状をしていた。
「腕が、変形した・・・?やっぱり、魔物じゃないの!」
「あなたの言う魔物の定義が分かりませんが、私はドールです。
人間であるマスターに使役されているので、魔物ではないかと」
「人形・・・この、美人が?」
アセルが呆気にとられたように、メイドを見る。
「このバカアセル!美人なら何でもいいの!?」
思わず頭を引っ叩いた。
「痛ってぇ!!」
「・・・申し訳ありませんが、敵は待ってくれませんよ」
目の前のバンシーの身体が揺れる。
こちらを睨む赤い二つの目が、ぎろりとこちらを睨んだ。
読んで下さり、ありがとうございました。




