93話
トーマの話に戻ります。
カテドラルにエリサを残すことにした。
理由は俺よりも、八霧の方がエリサにとってはいい刺激になると思ったからだ。
それと、旅をするなら少数の方がいい。
下手に目立てもしないからな。
「行くの?」
「ああ」
拠点内で転移石を握る俺。
「「トーマ様」」
シスとフィナの声が響く。
「なんだ?」
「お気を付けて」
「気を付けてください」
「ああ、お前達も・・・リルフェアや神威を頼むぞ」
二人の頭に両手を置き、ぐしぐしと撫でる。
「ふぁ・・・はい」
「ん・・・了解しました」
「留守はお任せください、トーマ様」
「ああ、オリビアもあまり無理するなよ」
二人の撫でる手を止める。
「神威も、ドール達の司令塔としてしっかりするんだぞ」
「うん」
頷く神威。
「それじゃぁ、行って来る」
転移石を握り直す。
思い浮かべるのは、泊まっていた宿。
「あ、トーマさん!」
「エリサ、と、メル?」
八霧の後ろにいたエリサとメルが俺の前に出てくる。
「どうかご無事で」
「おじさん、また会おうね!」
「ああ・・・二人共元気でな」
軽く手を振ると、俺の身体は光に包まれた。
――――――――――――――――――――
昨日のうちに、リルフェアに許可を取っておいたのが正解だったな。
転移石は、正常に作動した。
だが、転移先に問題があった。
いや・・・正確に部屋に飛ばされたのだが。
目の前に広がっていたのは、着替え中のセニアとラティだった。
下着一枚姿で、俺の前の前に立っていた。
「きゃ!?」
「うぉぉ!?すまん!!」
出口を探してキョロキョロする。
丁度真後ろにあったので、そこから急いで外に飛び出した。
「はぁ、はぁ・・・心臓に悪い」
びっくりだ、まだ心臓がバクバク言っている。
女性に慣れているという訳でもなく、下着姿なんてほとんど見た事が無い。
だが、セニアとラティは綺麗な肌をしていたな・・・。
って、何を考えているんだ俺は。
大事な仲間だ、邪な考えで見るのはおかしいだろう。
そう考え、頭を振った。
いかん、俺はラティの護衛。
変な目で見るのは駄目だ。
「あの、トーマさん?」
「え?」
ドアを少し開けて、顔を覗かせるセニア。
「もう終わりましたよ」
「あ、ああ・・・その、悪かったな」
「いえ、いつ帰ってくるか分からない状況で着替えた私達にも非がありますし」
そう言って貰えると助かる。
部屋に戻ると、二人共私服でその上からエプロンを着ていた。
・・・俺のいない間に何があった。
「実は、ギルドの依頼で炊き出しと言うのがありまして」
「そのお手伝いに、行こうかと」
「炊き出し?」
「はい、この付近で一番大きい街『コンドア』で、行うそうなんですけど」
セニアが、依頼書を見せてくる。
「炊き出し、ね」
求む、働き手。
コンドアのスラム街で貧民への炊き出しを行うので、手伝ってほしい。
中には暴れだす者もいるので、腕の立つ料理上手な冒険者を求む。
「料理なら得意ですし、魔物と戦う訳でもないので安全かと」
「確かに、そうだな」
暴れるというのが気になるが、まあ・・・。
依頼書に判を押されている時点で契約は締結されているんだ。
やるしかないだろう。
「荷物は?」
「特に必要ないはずですよ」
なら、無駄な荷物は宿に預けておくか。
話によると、コンドアの街には騎士団が3つ在中しているらしい。
一つは聖槍騎士団コンドア支部、一つは聖剣騎士団に所属する複数の騎士団、
そして地元に根付いているコンドア会という下級騎士団だ。
最近は聖槍騎士団と聖剣騎士団の仲の悪さが表面化しつつあり、
町全体にも、多少険悪なムードが流れているとのこと。
・・・何事も無ければいいんだが。
まあ、そう言う訳にもいかないのがお約束というものだ。
荷物を纏めて馬車に乗り、移動を開始した。
コンドアの街へはここから丸二日くらいの距離なのだが。
俺の予想は的中、まさにお約束だ。
後、数時間でコンドアに到着するという距離で、
道の外れで言い合いをしていた騎士の奴らがいた。
「・・・なんでしょうか、あれ」
「ただの喧嘩だ、恐らくな」
関わらない方がいい、喧嘩は当人同士の問題だ。
そう思ったのだが、片方の騎士が放ったボウガンが、
俺達の乗る馬車を操る御者に命中した。
「ぐ、ぬぁ!?」
御者が痛みで手綱をあらぬ方向へ動かし、馬車が転げそうになる。
「まずい・・・!」
小脇にラティを抱えて外に飛び出した。
セニアは俺に続き綺麗に地面に着地した。
同時に馬車は音を立てて転倒した。
「あいつら、見境なしか」
争う騎士達を見るが、どうやら馬車を狙ったわけではなさそうだ。
流れ弾が不運にも御者に当たったといった方がいい。
俺達に目もくれずにボウガンを騎士に放っている。
「どうして・・・騎士達があんな・・・!」
ラティはショックを受けたようで、目の前の出来事に驚いていた。
「仲が悪いって聞いたが、街の近くでこんなことをするのか?」
下手したら、住民に被害が出る。
現に、俺達の乗った馬車と御者に被害が出ている。
「ラティ、御者と馬の治療をしてくれ。
セニアはラティの護衛だ」
「はい。トーマ様は?」
「あいつらに、説教してくる」
国や街を守るはずの騎士がこんなところで喧嘩していい訳がない。
――――――――――――――――――――
馬車が転倒するしばらく前の事。
我々は聖剣騎士団所属『フランベルジュ同盟』。
コンドアの街を拠点とする、下級騎士中心の騎士団だ。
俺の名前はセルジュ、フランベルジュ同盟の幹部だ。
幹部っていうけど実際フランベルジュ同盟は総勢40名程度だから大したことはない。
今日はコンドアの街の外れで訓練をしていたのだが。
何故か、同じ聖剣騎士団の『炎の剣の会』の奴らが俺達の場所に来た。
フランベルジュ同盟はその名の通りフランベルジュの紋様が入った鎧を着ている。
炎の剣の会は、剣に炎を纏わせたような紋様が入っているのだが。
その二つが似ていると、いちゃもんを付けに来たのだった。
「フランベルジュ同盟の皆さん。
今日こそ、紋様の取り消しをお願いしたいのですが?」
いかにも貴族といった風の男がそう言う。
ブロンドでウェーブが掛かった髪を揺らす長髪の男。
騎士鎧も豪華な装飾が入っている。
「バンドック殿、フランベルジュ同盟は昔からこの紋様を使っていた。
変えるとしたら、新進気鋭である炎の剣の会の方かと思いますが」
うちらの団長『ゴドウィン』がそう言う。
数々の戦場を潜り抜けた元傭兵騎士でその腕と人格を買われて、
フランベルジュ同盟の団長に返り咲いた人だ。
フランベルジュ同盟は歴史こそあるが、規模の小さい団。
聖剣騎士団入りしてからも長いし、信頼だってされているのだが。
目の前の男はそんなことはお構いなしらしい。
「この私が頼んでいるのだ、それを断ると?」
「ああ、俺もフランベルジュ同盟を任された身だ。
紋様は騎士にとっては誇りそのものだ、変える事は出来ない」
この話、平行線になるなと俺は感じた。
前に俺達の詰め所にこいつが来て同じことを言った時もそんな風だった。
だが、今日は違ったようだ。
「そうか、では・・・」
バンドックが右手を上げると。
後ろに控えていた炎の剣の会の騎士が一斉にボウガンを取り出した。
「! どういうつもりだ、バンドック殿」
「バンドック・エグラーナの名において、フランベルジュ同盟に決闘を申し込む」
「決闘?笑わせるな、ボウガンを向けておいて決闘も何もないだろう」
フランベルジュ同盟の騎士達も剣を抜く構えを見せる。
俺も、盾を構えた。
「歴史は勝者が作るものだぞ、ゴドウィン」
ああ、そうか。
バンドックの親父はこのコンドアの街の地主のようなものだ。
決闘がどんな形で終わっても、もみ消せる。
「・・・団長、どうします?」
俺がそう聞くと、団長は笑った。
「戦うさ、最後まで騎士らしくな」
読んで下さり、ありがとうございました。




