92話
カロの刀を振る姿を見た複数の男達がいた。
お互いに顔を見合わせると頷き、セラエーノとカロに近づく。
「やあ、セラエーノさん」
「・・・また来たの?」
カロが話しかけてきた人物達の顔を見る。
その姿は騎士、それも。
「聖剣騎士団か?」
「ああ」
プレートアーマーに彫られた紋章には剣のマークに茨が絡みついたもの。
ゼロームで聖槍騎士団の次に規模の大きい騎士団。
「我々トワイライト騎士団の案件、考えて貰えたか?」
「前も言ったけど、嫌よ。武器を大切に扱う人には作るけどさ。
強い武器が欲しいだけの人に武器は作らないよ?」
そう吐き捨てるセラエーノ。
「金ならいくらでも出すと、団長のハンもそう言っているのだぞ?」
「金の問題じゃない、作って欲しいのなら自分の武器と腕を磨いてから来なよ」
ハンマーを騎士達に向けるセラエーノ。
「貴様、騎士のいう事が聞けないのか!」
「ただの鍛冶屋の癖に・・・!」
「待て、すまないなセラエーノ。部下が失礼なことを」
頭を下げる一人の騎士。
金髪ショートの、女性だった。
「しかし、キネ隊長!」
「我々が頼んでいる立場なのだ、断られたら下がる他ないだろう?」
「無礼討ちも出来ますが」
後ろにいた大柄な騎士が背中に背負う大剣を引き抜いた。
「ハドン、止めるんだ」
「あーあ、きったない武器。
刃こぼれはしてるし、ほら、血で錆びも出来てる」
いつの間にか、セラエーノはハドンの傍に立っていた。
そして引き抜いた剣を触るとそう呟いていた。
「こんな汚い武器、よくぶら下げられるね。
恥ずかしくないの?」
「ぬぅ!?貴様ぁ!!」
ハドンが汚いと言われた大剣を両手で振りかぶった。
そしてそのまま叩き下ろす。
「斬れないって―――」
白刃取りで大剣を止めるセラエーノ。
止められるとは思ってなかったのか、ハドンは驚きの形相でセラエーノを見ていた。
「言ってるでしょうが!!」
両腕に力を籠めると、大剣にひびが入る。
そのまま、大剣を砕くセラエーノ。
「お、俺の大剣が・・・!」
「馬鹿だね、ろくな整備もしてない武器で、鍛冶屋を殺せると思ってるのかい?」
「くそ!!」
今度は腰に下げた剣を引き抜こうとするが。
「止めろ!ハドン」
キネの剣がハドンの喉元に突き付けられる。
「それ以上は、命令違反と見なすぞ」
「ぐ」
今度の制止は効いたようで、ハドンはキネの言葉に従った。
「いい?私は好きな武器しか作らないんだ。
作って欲しいのなら、もっと武器や防具を大事にしてから来なよ」
「すまない、セラエーノ殿」
もう一度頭を下げるキネ。
それを尻目に、セラエーノは溶鉱炉の隣に腰を下ろした。
「私の作ったものは皆、私の子供。
だから、子供がないがしろにされるのは許せない」
そう言いながら、セラエーノは溶鉱炉の中を鉄棒で掻き回す。
「・・・そうか、私達にはその『子供』を預けれないという事か」
「その通り、それに・・・あなた達の団長ハンにも悪い噂があるじゃない?」
「何・・・!!貴様、ハン団長を愚弄する―――」
「止めろ!私も思うところがある」
部下を制し、そう言うキネ。
「最近は特にそうだ、団長は聖槍騎士団と争うつもりなのか?」
「?」
「昔はよきライバルとして互いに切磋琢磨しあう同志だったんだ。
聖槍騎士団も聖剣騎士団も」
「それが、今じゃ?」
セラエーノにそう返されたキネは一度言葉を噤んだ。
「まるで、戦争でも始めるんじゃないかと、そう思っている」
「同じ国に所属する国なのに、潰し合ってると?」
「道理が通らんぞ、キネ殿。騎士は国に忠を尽くす存在。
その者同士が争うとは」
カロにそう言われ、キネは俯いた。
ギュッと拳を握りながら。
「聖堂騎士団の事は分かるか、セラエーノ殿」
「私はこの国に来て数週間だけど、名前くらいは聞いた事があるよ。
なんでも、エリート部隊なんだって?」
「ああ、騎士団から聖堂騎士に任命されるのは誉な事。
もちろん、騎士団としても箔が付くというものなのだが」
その言葉に、カロも頷いていた。
「確かに、憧れの職業の一つに数えられるな」
「それ故に、権力争いも起きている。
聖槍騎士団と聖剣騎士団は、その数少ない聖堂騎士の椅子を巡って・・・」
「なるほど、外面にこだわる騎士様らしい」
「貴様!愚弄するか!!」
「止めろ!事実だ!それを突かれて怒るのは醜いぞ」
「ぐ・・・しかし、隊長」
キネの隣に立っている若い男性騎士は悔しそうに顔をしかめた。
「一応聞くけど、あなたは何で騎士をやってるの?」
「私は、父が騎士だったからだ。幼いことから騎士として叩きこまれた。
国を守る騎士になりたいと、幼い頃から夢見ていた」
「へぇぇ、夢が叶ったんだ」
「・・・いや、そうでもない」
再びキネが俯く。
その顔は曇っていた。
「私が憧れていた、光り輝く騎士は表側だ。
裏では、上司への賄賂、他人を蹴落とす取引・・・陰謀だらけだ」
「それも、聖堂騎士を目指す策略・・・の為か」
頷くキネ。
「じゃあ、何で聖堂騎士なんか作ったのさ?
国がギスギスするくらいなら、始めから作らなきゃよかったのに」
「いや、そうとは言えないんだセラエーノ殿。
確かに、裏ではそう言う行いも多いが、実力で聖堂騎士を目指すものも多い」
「例えば、赤髪の騎士『イグニス』殿がそれに当たる」
「切磋琢磨する目標があるというのは、やる気にもつながるのだ」
「なるほど」
頷くセラエーノ。
「まあ、分かった。で、まだ私の事はあきらめないの?」
「あなたほどの人材を簡単にあきらめる程、私達は愚かではない」
「はぁー・・・そう。でももうあきらめた方がいいよ。
私、トーマさんの元に向かうからね」
「トーマ?誰だ?」
大剣を折られた大男がそう呟く。
「聞いたことある名前だよな」
「ああ・・・トーマ、か」
キネも思い出そうと頭をひねっていた。
そんな中、カロが口を開く。
「御前試合優勝者にして、竜騎士を賜った人物だ」
「あ・・・!」
キネが思い出したという顔をした。
「トーマ様の、元に向かうと?」
「様って、トーマさんは私の、仲間・・・いや、リーダーみたいなものだけど」
「何と恐れ多い!竜騎士様の仲間と騙るか!」
若い男性騎士がセラエーノに剣を向ける。
「本当だって、私はトーマさんと同じギルドに所属してたんだよ」
「証拠はあるのか!?」
「いや、これと言った証拠は、うーん」
腕を組んで首を傾げるセラエーノ。
「セラエーノ殿、ゼロームにとって竜騎士様は特別な存在。
あなたの言っていることが本当であれ嘘であれ、無暗に言わない方がいいぞ」
「ああ、そうなんだ。へぇ、トーマさん偉くなっちゃったんだ。
嬉しいね、苦労人が報われたっていうのは」
「?」
「ああ、こっちの話」
首を振るセラエーノ。
「武器を下ろせ、ラーク。セラエーノ殿は嘘をつく人ではない。
だがどうするのだセラエーノ殿、カテドラルには限られた人物しか入れないが」
「行くだけ行ってみるよ、仕事が全部終わったらね」
そう言うと、セラエーノは腰を上げた。
「さあ、帰った帰った。私は荷造りしないといけないからね」
背骨を伸ばすセラエーノ。
その反動からか、立派に実った二つのものが揺れた。
「・・・」
「?」
男の騎士達はそれを見ていた。
そして、キネの溜息が響いた。
「セラエーノ殿、そのカテドラルへ向かう旅・・・私も同行していいか?」
セラエーノの隣にいたカロがそう提案する。
「いいけど、路銀は自分で用意してよ」
「分かっている、道中の護衛で恩返しをさせて欲しい」
「そう、分かった・・・護衛は要らないと思うんだけどな」
その二人の会話を聞いて、キネはもう一つため息をついた。
「・・・我々も戻るぞ、今回はお流れだ」
「は」
部下の男達はキネに対してそう答えた。
「ところでセラエーノ殿、始めは何処に行くのだ?」
「コンドアの街に修理した剣を届ける」
セラエーノはそう言うと、一際大きいリュックサックを背負った。
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