91話
カロは御前試合出場者の居合斬りの使い手。
セラエーノは、ギルドメンバーの一人のブラックスミスです。
ゼローム北方、アトラの村と呼ばれる片田舎。
小さい農場だけが広がり名産も何もない、いわゆるド田舎である。
このアトラの村に、御前試合出場者のカロが立ち寄っていた。
彼が立ち寄った理由は簡単で。
ここに、腕利きの鍛冶師がいると聞いたからだ。
「こいつか?」
村外れに工房を構える、ぼさぼさ頭で髭面の男性がカロから手渡された物を見る。
彼の身体や着ている服には焼け焦げた跡がちらほら見える。
いかにもベテランと言う鍛冶師だ。
「ああ、折れてしまっているが直せるか?」
細長い木の箱に大事に入れてあった折れた刀。
それは御前試合で折られた刀だった。
「ふーむ、東国の業物だな。俺も初めて見るぜ」
「直せそうか?」
「無理だな、俺の腕じゃ完璧に直せるとは言えねぇ。
他を当たった方がいい」
「そうか・・・」
少し落ち込むカロ。
今度こそはと意気込んで来た分、その残念さにも拍車がかかった。
「そう落ち込むなって、俺より腕のいい鍛冶屋を紹介するからよ」
ガハハと鍛冶屋が笑うと、東を指差した。
「この村から真っすぐ東に行くと、ドルケ村って言う寂れた村がある。
そこの村には、何でも直せる鍛冶師が住んでるって話だぜ?
ただ・・・」
「ただ・・・?」
「かなりの変わり者だ、気に入った相手の武器しか作らないし弄ってくれない」
「そうか、ありがとう。恩に着るぞ」
「すまんな情報しかなくて」
カロは鍛冶屋に一礼すると、東へ歩き出した。
ドルケ村はそこそこ遠かったが、
鍛え抜かれたカロの健脚からすれば、丸一日くらいの距離だった。
「・・・ここが、ドルケ村か」
寂れた、と聞いていたが確かにそうだ。
人が暮らしているのか怪しいくらい、村は静かで建物も傷んでいる。
だが、村人はいるようでチラホラと道を歩く老人が見えた。
「すまぬが、聞きたい事がある」
「旅人さんかい、こんな村に珍しいね」
「ここに、腕利きの鍛冶師がいると聞いたのだが」
「鍛冶師?」
お婆さんが、首を傾げる。
そして、顎に手を置くと。
「おお!居るぞ、数週間前に住み着いた女性じゃ。
じゃが、人を選ぶようで客はほとんど来んぞ」
「それは聞いた、だからこそ・・・私の武器を直してもらいたい」
「ふむ、まあ会うだけ会ってみてもいいじゃろ。
あの家の向こうに住んでおるぞ」
指差した先を見たカロは。
「かたじけない!」
一礼して、その指差した先に走りだした。
平屋の家を迂回すると、その先には小さな小屋が立っていた。
庭先には、溶鉱炉らしき建造物があり、煙突からはモクモクと煙が立っている。
そしてその隣で女性が武器を磨いていた。
しかし、磨いた武器を眺めると傍らに置いたハンマーでその武器を砕いた。
「失敗作、これで12本目」
地面に破壊した武器を転がす女性。
「すまないが、貴殿がこの村の鍛冶師か?」
「え?ああそうだよ。何、なんか用?」
砕いた武器を隣にある溶鉱炉にそのまま放り込んだ。
・・・鉄を溶かすはずの溶鉱炉に、全て放り込んでいいのだろうか?
そう思うカロだったが、次の瞬間には驚きの表情を見せていた。
女性が、溶鉱炉にそのまま手を突っ込んだのだ。
「な!?」
「うーん、やっぱりうまくいかないなぁ」
そう呟きながら、女性は溶鉱炉の中を手で掻き回していた。
「な、何をしているのだ!手が焼けるぞ!」
「黙ってなよ素人さん」
カロを睨んだその目は。
歴戦の剣士であるカロが金縛りを覚える程の凄味に満ちていた。
「!?」
「いい、武器は普通じゃつまらないんだ」
突っ込んだ手を引き抜くと、ドロドロに溶けた赤い鉄の塊が握りしめられていた。
それを近くの金床に置くと、傍らに置いたハンマーで叩き始めた。
見る間に、剣の形に変わる赤い塊。
女性は額に汗をかきながら、それを一心不乱に打っていた。
「うーん、やっぱり駄目ね」
剣の雛型のような塊を見てそう言う女性。
雛型の端と端を両手で掴むと、そのままひん曲げた。
「怪力・・・だな」
「女性に向かって失礼ね、あんた」
目の前で、少し柔らかいとはいえ固まり始めた鉄をひん曲げたのだ。
どう見ても、怪力持ちだろう。
「それで、なんか用があるんじゃないの?」
「あ、ああ・・・これを」
木の箱を、女性に渡すカロ。
「箱?」
箱のふたを開けると、折れた刀が現れた。
「あらら、見事に折られてるね。芯までぽっきりか」
「直せるか?」
「無理ね・・・直す、じゃなくて作り直しよ。
見てくれを直せって言うならできるけど、打ち合ったらすぐに折れるよ?」
「作り、直しか」
「芯が折れてるんだよ?見たところ剣士でしょ、あなた。
命を預ける武器なんだから、修理じゃなく作り直した方がいい」
カロが折れた刀を見る。
業物と呼ばれた、家宝の刀だ。
しかし、女性の言う通りでもある。
命を預ける武器なのだ、下手に直してもらうよりは作り直した方がいいだろう。
「預けてくれるなら、今日中には作り直してあげるけど?」
「! 本当か!?」
「うん、よく使いこまれた武器だし、折れたところ以外に刃こぼれは無い。
大切に使っていたんだね」
折れた刀を片手に持ち、その刀身を眺める女性。
「武器を大切にする奴は好きなんだ、お代はいいよ」
「いいのか?だが、なんだか申し訳ないのだが」
「いいよいいよ、稼ぐ目的で鍛冶仕事をしてるわけじゃないからね」
折れた刀をポイポイっと溶鉱炉に投げる女性。
「私はセラエーノ、あなたは?」
「カロ・・・いや、セラエーノ、殿!?」
「んん?」
「トーマ殿が探していた、女性か!?」
「あなた、トーマさんを知ってるの!?」
――――――――――――――――――――
「なるほど、ね」
放り込んだ刀はドロドロの赤い塊になっていた。
それを先ほどと同様に手を突っ込んで取り出し金床に乗せてハンマーで打つ。
すると、刀の形状になった赤い塊が冷えていく。
「首都近く、カテドラルにいるのか」
「やはり、トーマ殿から聞いたセラエーノ殿なのか?」
「そうよ」
カロは懐に入れていたトーマに渡された紙を取り出した。
「これを見せればいいと言われたのだが」
「ん?」
紙を受け取り、それをじっと見るセラエーノ。
「ははぁ、なるほど。そう言う事ね。
っち、先を読まれてたか」
「?」
カロがセラエーノの顔を覗く。
「ああ、何でもないよ」
セラエーノは、冷えて固まった刀を見た。
その刀は、既に刀と呼べるほどの形状と飾り付けがされていた。
「・・・これは、どういう事だ?鉄の部分だけ作っていたのでは」
「これは魔法炉だよ、材料淹れて形状を仕上げれば武器が完成するの」
炉を叩くセラエーノ。
(トーマさんめ、私が刀にアレンジを加えるのを見越してたな)
紙にはこう書いてあった。
『変な細工はするなよ、セラエーノ』と。
折角、面白い武器にしようと思ったのに、と呟くセラエーノ。
「セラエーノ殿?」
「あ、ああ何でもない。ほら、作り直した武器だ。
この家の裏手に試し場があるから斬ってみて」
「あ、ああ・・・助かる」
セラエーノと共に、試し場に向かうカロ。
確かに、家の裏手にはダミー人形などが置いてあった。
「さあ、斬って」
刀を渡してくるセラエーノ。
新品同様の刀は、鞘に納められている。
あの、赤い塊が冷えて固まると同時に鞘に収まった刀になっていたのだ。
・・・疑っているわけでは無いが、本当に直っているのか?
刀を脇に下げ、居合斬りの構えを取る。
「・・・」
セラエーノは黙ってそれを見ている。
「・・・はぁぁ!!」
掛け声と同時に、刀を引き抜くカロ。
ヒュン、と刀がダミー人形を一閃すると。
ダミー人形の後ろに立てかけてあった材木ごと、真っ二つに斬れた。
「おおー、そこそこいい出来。
元がいいから、いい物が出来るね」
「・・・」
唖然と言った表情で、握る刀を見るカロ。
「軽い・・・それに、この切れ味は・・・!」
太陽の光を浴びて光る刀身。
「セラエーノ殿、貴殿は伝説の職人では!?」
「そんなんじゃない、それだって傑作とは言えないからね」
「何!?これでも、全然なのか!?」
「そうよ、高みを目指すなら納得しちゃ駄目。
納得した時点で、成長は止まるからね」
そう言いながら、新しいダミー人形を立てるセラエーノ。
カロはそのセラエーノの姿を見て、尊敬と恐怖を覚えた。
この方は、世界を滅ぼすほどの武器を作るんじゃないか、と。
読んで下さり、ありがとうございました。




