89話
宿に戻り、軽くセニアとリズ・・・いや、エリサにラティの事情を話したからいいか。
セニアとラティに、一度カテドラルに戻ると伝えた。
「戻るんですか?」
「転移石で、エリサを連れて行こうと思う」
懐から取り出す、小さな結晶。
「転移石、ですか?」
「ああ、こいつは一度行った場所なら瞬時に移動が出来る。
二人はここで待っていてくれ」
「分かりました、あ、そうだ!」
セニアが小さな紙袋を取り出す。
「オリビア姉さんにこれを渡してください」
「こいつは?」
「新しい焼き菓子です!感想も聞いてきてくださいね!」
「あ、ああ」
紙袋を懐にいれ、エリサの肩に手を置く。
「え?」
「メルも、エリサの身体に触れてくれ」
「うん」
エリサの手に触れるメル。
「じゃあ、行って来る」
「お気を付けて、トーマ様」
「お土産、期待してますよ!」
カテドラルに土産なんてあったか?
そう思いつつ、転移石を握りしめる。
思い描くのは、カテドラルの正門前。
そして、転移石を砕いた。
同時に、身体が光りに包まれ―――。
気づいた時には、カテドラルと呼ばれる大聖堂が目の前に建っていた。
「ここが、カテドラル・・・?」
エリサがその建物を見つめている。
「何者!!ここは転移禁止、領域・・・で、これは!竜騎士様!」
見張りの聖堂騎士がこちらに向けた剣をしまうと、敬礼をした。
「野暮用で少し戻ってきた・・・ここは転移禁止だったのか?
てっきり、カテドラル内だけだと思ったんだが」
「ええ、領域内は全て転移禁止です。
カテドラル内は転移を弾くシステムがありますが・・・。
許可を取られた方がよろしいかと」
「ああ、そうさせてもらうよ・・・後、後ろの二人なんだが」
エリサとメルを見る聖堂騎士。
「・・・一般の方は、基本立ち入りは禁止ですが」
「あー、そのだな。俺の従者候補、とでも言うかなんというか」
「おお!従者候補の方とは!竜騎士様の従者に選ばれるとは何たる幸運。
それならば、許可は必要ありません、どうぞお通り下さい」
そう言うと、聖堂騎士は鉄門の扉を開いた。
いいのか、それで・・・。
助かるから、言及はしないが。
――――――――――――――――――――
数週間離れていただけなのに、随分懐かしく感じる。
一応、身分が分かるように白銀の鎧には着替えておいたが。
「本当に、竜騎士様なんだね、おじさん」
すれ違う聖堂騎士や召使、メイドも俺を見ると一礼して去っていく。
「なったばかりだから、何もかも慣れないけどな」
拠点の前まで歩き、気づいた。
扉の前に赤い髪の騎士、イグニスが立っていた。
「ん?ああ!トーマか!久しぶりだな」
「どうしたイグニス。こんなところで」
拠点に来るのは珍しい。
「見回りの途中だ、それではな」
軽く手を振り、その場を去っていくイグニス。
「ほぁー・・・本物のイグニス様だぁ」
うっとりした表情で、その後ろ姿を眺めるメル。
「どうしたの、メル?」
「お姉ちゃん知らないの!?イグニス様だよ!イグニス様!
若くして聖堂騎士になった、女性騎士の一人だよ!」
「へ、へー・・・そうなんだ」
頬をポリポリと掻きながらそう答えるエリサ。
・・・あんまり興味がない事がばれてるぞ。
「私、話してみたい!!」
そう言うと、イグニスの後を追いかけて行ってしまった。
「あ、こら!メル!」
「・・・速いな、もう見えなくなった」
「ど、どうしたらいいですか!?」
カテドラル内は安全なはずだし、追いかけたのはイグニスだ。
・・・まあ、放っておいても多分大丈夫だろう。
「大丈夫だ、カテドラル内は安全だからな。
それに、何かあったら俺に連絡が来るだろうし・・・好きにさせとけばいいさ」
「いいんですか?」
「イグニスなんて、一般人からすれば滅多に会えないんだ。
邪魔するのも可哀そうだろう?」
そう言いながら、扉を二度叩く。
「はい、只今」
この声は、オリビアか。
扉が開くと、案の定オリビアが立っていた。
「トーマ様、いつお帰りに?言ってくだされば、出迎えを」
「ああ、すまないな。八霧は?」
「奥の部屋で、薬の調合をしていますが」
いつも通りか。
さて、育ったエリサを見てどんな反応をするか。
八霧の部屋のドアを叩く。
「ちょっと待って!わぁあ!!」
爆発音が聞こえた。
ドアの隙間から、黒い煙が漏れ始めた。
「げほ!げほ!」
左手で口を押さえながら、八霧が部屋から飛び出して来た。
「ふぅぅー・・・失敗だなぁ、調合率は悪くないはずだけど」
顔が爆発のせいで黒く煤けている八霧。
錬金術師の服の上から白衣を着ていた。
「八霧、換気した方がいいぞ」
「分かってるって、トーマさん。
って、帰ってたんだ、お帰り」
「ああ、すぐに戻るけどな。・・・ほら」
後ろに立っていたエリサの背中を押した。
俺に押されて、八霧とエリサが向かい合う形になる。
「・・・?」
八霧がそのエリサの顔をじっと見た。
そして。
「えり、さ?」
5年という歳月で、エリサは育っていたが。
八霧はエリサだと、しっかり認識できたらしい。
「え、あ・・・は、はい」
「エリサ!」
八霧がエリサに抱きついた。
いつもの冷静な八霧は何処にやら。
目元に涙をためながら、八霧はその小さい身体でエリサを抱きしめていた。
「あ、えっと」
「どうしたの、エリサ?会えたのが、嬉しくなかった?」
多少ショックを受けたような顔をする八霧。
まあ、好きな子と久しぶりに会ってこの反応だ。
ゆっくりと、身体を離す八霧。
「あー・・・そのだな、八霧。エリサは」
記憶喪失だという事を説明する。
すると、八霧は顎に手を置いた。
「なるほど、そうなんだ」
「・・・ごめんなさい、覚えてなくて」
「いや、謝ることは無いぞエリサ。
しかし、八霧に会っても変化無しか」
あるいは、と思ったんだが駄目だったようだ。
八霧を見た瞬間に、何かを思い出すかとも思ったんだがな・・・。
だが、エリサはじっと八霧を見ていた。
「・・・八霧くん、か」
フラフラと、八霧に近づくエリサ。
そして、その身体を優しく抱きしめた。
「え、え、エリサ?」
「ちょっと、このままで・・・」
目を瞑り、何かを感じ取るように八霧を抱きしめてるエリサ。
・・・俺達は邪魔だな。
「神威、オリビア」
神威は呼ばれたことに首を傾げていたが。
オリビアは気づいたのか、一つ頷き座っている神威をこっちに連れてきた。
二人に気づかれないように、拠点の外まで出る。
「二人きりにしておこう」
「そうですね」
オリビアと頷きあう。
神威は未だ分からないという顔をしていた。
「神威、食堂でデザートでも食いに行くか?」
「ん、お腹減った」
「そうか、なら飯も食うか。オリビアも一緒にどうだ?」
「そうですね、ご一緒しましょう」
3人で、食堂まで歩く。
・・・上手くやれよ、八霧。
――――――――――――――――――――
久しぶりに会ったエリサはとても育っていた。
そうか、転移した時間にずれがあったのかと、何となく納得したけど。
その大きくなった身体と胸に抱きしめられ、僕の頭は沸騰し始めていた。
「エリサ・・・!?」
「うん、なんだか、懐かしいような気がする」
「だ、だ、だからって」
いつものように、冷静に頭が働かない。
冷静になってこの状況を何とかしようと考えを巡らせるけど。
好きな女の子にこんなことをされて、冷静になれる男はいない。
「・・・ごめん、思い出したい、思い出したいって頭は思ってるんだけど。
全然思い出せなくて」
僕を抱きしめる力が強くなる。
目の間の女性は僕よりも背が高く、大人に見えるけど。
記憶を失ったエリサは、とても小さい女の子に見えた。
守ってあげないと、いけない。
僕が、守らないと。
そう決心した。
「エリサ、君は僕が守るよ」
「え?」
身体を離すと、僕の目を見てくるエリサ。
その顔は、少し赤くなっていた。
「ありがとう、八霧、くん?」
「八霧でいいよ、エリサ」
「ふふ、私の方が年上なのに、呼び捨てなんだ」
「それは・・・うん、知り合いだからね」
二人共、顔を赤くしながら微笑みあう。
「キスするかな、シス」
「キスするね、フィナ」
「「!?」」
二人が急に聞こえた声の方向に顔を向けると。
椅子に座った5号と、6号が二人の様子をじっと見つめていた。
読んで下さり、ありがとうございました。




