88話
勘違いしたエリサを追いかけたのだが。
途中で見失い、追いかけるのを中断した。
流石にここに住んでいるだけのことはある。
俺の方が足は速かったはずだが、
慣れない場所という事もあり見失ってしまった。
どうしようかと悩んでいると、近くに明かりが見えた。
その明かりの正体は、一軒家だった。
こじんまりとした一軒家で、併設された納屋からは牛の泣き声が聞こえてくる。
なるほど、牧畜で生計を立てているのか。
家の前に立ち、ドアをノックする。
「はーい!」
元気のいい女性の声が聞こえてきた。
ガチャリと、ドアが開くと。
綺麗な黒髪の少女が俺を出迎えた。
「あれ?誰だろ、村の人じゃないよね」
「こんばんは、少し尋ねたい事があるんだが」
「何?」
「ここに、金髪の女性が訪ねてこなかったか?」
「金髪?・・・おじさん、お姉ちゃんの知り合いなの?」
じろじろと俺を観察してくる少女。
「なんだなんだ、どうしたメル」
奥から、痩せた男性が出てきた。
背格好、見た目から40代前後だろうか。
「おお、あんたは?見ない顔だな」
「いや、エリサと言う人物を探しているだけなんだが、知らないか?」
「エリサ・・・!?あんた、あの子の知り合いなのか?」
あの子・・・じゃあ、ここがエリサの世話になっている家なのか?
反応から察すると、そう言う事になるが。
「さっき帰ってきたばっかりでな、顔を赤くして部屋に閉じこもってしまった。
まあ、道中何かあったんだろう・・・しかし、スケとカクが戻ってこないな」
「その二人なら、もう少しで帰ると思うぞ。
途中まで一緒だったからな」
「そうか、では冒険者仲間か何かか?いや、エリサの本名を知っているのは・・・。
もしや、ヘルフレイムという言葉と関係ある人か?」
「御明察、そのヘルフレイムの創設者の一人が俺だ」
――――――――――――――――――――
家に上がらせてもらい、お茶を差し出された。
中も質素の一言に尽きる内装だ、こう言っては何だが・・・貧乏なのだろう。
まあ、借金もあると言っていたから裕福ではないと思ってはいたが。
「それで、あの子は一体?」
「こことは別の世界の住人、と言えば納得するか?」
「・・・やはり、そうですか。思うところはありましたが」
割とすんなり、納得してくれたようだ。
突拍子もない事を言っているとは自覚しているのでこの反応は結構意外だ。
「信じるのか?」
「彼女は魔獣の住む森で遭難していた所を私が保護したんですよ。
あの森は、神隠しが起こるともいわれていますので」
「神隠し、か」
「ええ、異界の者が現れてもおかしくは無いでしょう?」
お茶を一口含む男性。
「おっと、名乗るのを忘れていました。
私はオットー、こちらは妻のヘンリです」
「どうもね」
痩せている男性に反して、女性は恰幅がいい。
オカンと言った感じの人物だ。
「俺は―――」
一瞬考えた。
偽名を使った方がいいかと。
・・・いや、止めておこう。
こういう場合は嘘をつけば後が苦しくなる。
それに、二人は誠実そうだ、話しても大丈夫だろう。
「トーマだ」
「トーマ?どこかで聞いた事がある様な・・・うーむ」
オットーが腕を組んで頭を捻る。
「ああ!!そうだよ、御前試合の優勝者!
・・・だけど、白銀の鎧を来た騎士だと聞いたんだけど」
「こいつだろ?」
道具袋から、白銀の鎧を取り出す。
「こ、こいつは確かに。
しかし、だとすれば貴方は!」
あー・・・。
この流れはもしかして。
予想通り、オットーとヘンリは土下座のように頭を下げた。
「竜騎士様とはつゆ知らず、無礼な言動をお許しください!」
こうなると思った。
「頭を上げてくれ、俺は」
「は、はは」
頭を上げるオットーとヘンリ。
「エリサを迎えに来ただけなんだ。
あいつは、前の世界からの仲間だからな」
「じゃあ、エリサは竜騎士様のお仲間だったって事かい!?」
「お、おお!?」
ヘンリが、2階に上がっていく。
どうやら、エリサの部屋は2階にあるようだな。
「それで、その、竜騎士様。エリサはどうなるんでしょうか?」
「さあな・・・記憶を取り戻してくれればいいが。
後はあいつ次第だな」
ここに残りたいというのなら、無理強いはしない。
いい人たちそうだし、この人達と暮らしていくというのも、
エリサにとっては幸せなのかもしれないしな。
しばらくすると、エリサとヘンリが2階から降りてきた。
エリサの顔は赤いままだが、何か決意したように顔を引き締めていた。
「あの!トーマさん!」
「お、おう」
「私、その、やっぱり・・・お断りします!
トーマさんはカッコいいし安心できますけど、やっぱり、知り合ったばかりなので」
「やっぱり、勘違いしてたか」
頭を抱える。
言い方が不味かったな。
「か、勘違いですか?」
「ああ、俺は仲間として欲しいって言ったつもりだったんだよ。
悪いな、勘違いさせたようで」
「え、ええ!?」
――――――――――――――――――――
「な、なるほど」
簡単に説明をした。
俺が竜騎士だという事。
連れていたリズがラティリーズ・・・つまり、この国の神であること。
そして、俺の仲間はカテドラルを拠点にしているという事。
「えー!?あの綺麗な人、ラティリーズ様だったんですか!?」
「こりゃ、たまげたな・・・近くにラティリーズ様がいらっしゃるとは」
「口外しないでくれよ、お忍びの旅だからな」
「も、もちろんですよ。それより、エリサ。
お前はどうするんだ?」
オットーがエリサにそう聞く。
「どうする、って?」
「仲間として一緒に行くのかい?」
「・・・それは」
俺を見るエリサ。
「私の事を、知ってるんですよね?」
「ああ、だが・・・恐らく八霧の方が詳しいだろうな」
俺はゲームでのエリサしか知らない。
だが、八霧はリアルのエリサも知っているのだ。
もしかしたら、八霧との接触がエリサの記憶を戻すトリガーになるかも知れない。
「私、自分の事が知りたい。おじさん、おばさん、私」
「行っておいでエリサ」
「ああ、私達はここで待ってるからね」
「行っちゃうの、エリサお姉ちゃん」
「メル・・・うん、行こうと思う。私の正体が知りたいし」
メルと呼ばれた黒髪の少女は、エリサの腰に抱きつくと、顔をうずめていた。
「懐いていたからな、メルは」
「ちょっと、寂しくなるね」
オットーもヘンリも、少し涙ぐんでいた。
本当に、良い人達みたいだな。
「今生の別れという訳じゃない、エリサの意思次第では帰ってきてもいい。
俺は、仲間になれと強制したくは無いからな」
少なくとも、無事だっただけで俺は満足だ。
だとしても、一度は皆に顔を見せて欲しいというのは本音だ。
「・・・お姉ちゃんが行くなら、私も行く!」
「こらメル!トーマ様に無理を言うんじゃない!」
「そうよ、カテドラルなんて聖地に一般人が入るなんて恐れ多いんだから」
いや、リルフェアに頼めば入れて貰えると思うんだが・・・。
ゼロームに住む一般人からすると、雲の上の人だよなぁ。
「嫌!一緒に行く!」
「メル、いう事を聞きなさい!」
温厚そうなオットーも声を荒げていた。
「付いて来たいのか、そんなに」
俺は屈み、メルと目線を合わせた。
「うん!おじさんにお姉ちゃんは渡さないよ!」
「ははは、そうか・・・じゃあ、一緒に行くか?」
「ほんと!?」
子供一人くらいなら、俺の権限で何とかなるだろ。
「い、良いんですか?」
「構わないさ、敵を入れるわけじゃない。
それに、エリサも気心の知れた人がいれば安心も出来るさ」
記憶を取り戻せば話は別なんだが、今のエリサには知り合いも必要だろう。
「いいか、オットーさん?アンタの娘を連れて行っても」
「え、ええ・・・そりゃ、本人が行きたいと言ってるので。
よろしくお願いします、おてんば娘ですが」
「行ってきまーす!」
メルはブンブンと手を振ると、エリサの腕にしがみついた。
エリサは苦笑しながら、俺の隣に立った。
「よろしくお願いしますね、トーマさん」
「ああ」
読んで下さり、ありがとうございました。




