85話
物語の裏側でのティアマです。
ヘルザード帝国首都『ラグザード』。
多くの首都機能をラグザード城に構える城塞都市である。
城の見た目は荘厳に見えるが内部は軍事用に強化されており。
侵入者を阻む鉄格子になった窓や、頑強に組まれた鉄の壁が目立つ城である。
その城の奥に存在する玉座には、若い男が座っていた。
豪奢な装飾の施された衣服の上から、黄金で出来た軽装鎧を来た人物。
ウェーブの掛かった短い金髪の上には王冠が乗っている。
その男の前に、一人の兵士の男が傅いている。
「何?余に目通りを願うものがいると?」
「はは、何でも・・・バルク国の使者であると」
その言葉を聞き、帝王の隣に立っていたローブ姿の男が口を開く。
「バルク国の使者?そんな話は伺っておらぬぞ」
「本当か、セオーグ」
「はは、爺の耳には一切入っておりませぬシャルード陛下」
シャルードと呼ばれた男は、手を顎においた。
このシャルードと呼ばれた男こそ、ヘルザード帝国の現皇帝。
今までの歴代皇帝の中でも、トップクラスの力と魔力を持つ。
「セオーグ、罠だと思うか?」
「それは、情報が足りなすぎますな。
兵士よ、誰が訪ねて参ったのだ?外交官か?」
「い、いえ、それが・・・女性なのです。黒いドレスを着た―――」
「あら、黒いドレスで悪いかしらぁ?」
「!?」
兵士が振り向くと、その先には黒いドレスを着た青白い髪の女性が立っていた。
ティアマその人である。
「衛兵!何をやっておる、シャルード陛下の御前であるぞ!!」
「あら、倒れてるのが衛兵なのかしらぁ?弱過ぎね」
見れば、ティアマの後ろには兵士が倒れていた。
「何・・・!?いつの間に!いや、黄金騎士団がこうも簡単に」
シャルードの近衛隊はヘルザード帝国有数の戦士や騎士を集めた精鋭部隊。
それを音もなく、一瞬で倒した女性。
その光景にセオーグを含め、シャルードの隣に立っていた護衛の騎士も絶句していた。
「ほほう、ヘルザード帝国の騎士団とは、こうも弱いものなのか」
暗くなっている影から現れたのは黒いローブの老人。
「コーサー・・・殿か?だとすれば、この女性は」
「お初にお目に掛かるわ・・・ヘルザード帝国皇帝『シャルード』。
それに、宰相『セオーグ』」
恭しく、一礼をするティアマ。
その姿勢に、ゾクリと身の毛がよだつセオーグ。
美しい顔に反して、その雰囲気は狂気そのものを纏ったようなもの。
関わったら必ず破滅すると、そう直感させる何かを感じていた。
「バルク国国王『ティアマ』よ」
「・・・ティアマ?・・・あの、ティアマか?
ゼローム皇国に反旗を翻した、リルフェアの妹・・・」
シャルードは玉座から立ち上がると、ティアマに近づく。
「ええ、そうよ。姉を殺したいの、手伝ってくれる?」
「姉を・・・?ゼローム皇国に宣戦布告をするという事か?」
セオーグが口を開く。
「そう、協力してくれるかしら?」
協力、と聞きシャルードは再び玉座に座った。
「同盟を組みたいと申すのか?」
「悪い話じゃ無いと思うけど?」
「しかし・・・余はラティリーズが欲しいだけだ。
ゼローム皇国を滅ぼそうなどとは考えておらん」
「欲しい?あの、ちんちくりんを?」
ちんちくりんと、そう聞き。
シャルードは顔を真っ赤に染めて怒りの表情を見せた。
「ちんちくりん・・・!?あの笑顔、あの容姿、あの性格!
どこを取ってちんちくりんと申すのだ!!」
「はぁ・・・始まったわい、やれやれ。
これさえなければ、皇帝陛下としては完璧なのにな」
隣で溜息を突くセオーグ。
「陛下、落ち着いて下され。
そんなことだから、ラティリーズ様との婚姻も戦争という形になってしまったのですぞ」
「戦争?」
ゼローム皇国とヘルザード帝国の今回の戦争の発端は。
シャルードとラティリーズの婚姻騒動が原因で起きた事だった。
元々、両大国共に長年戦争を繰り広げてきたが。
いい加減、その戦争を止めにしようという世間的な流れが国全体を覆っていた。
そこで案として出されたのが、シャルードとドラクネン家の縁談だった。
本来ならば、ラティリーズを差し出すべきとヘルザード側から反論があったが。
ゼローム皇国の神を別の国に差し出すわけにもいかなかった。
かといって、後妻であるリルフェアを縁組に回すのも失礼という事で、
ドラクネン家の一人娘、リーゼニアが選ばれていた。
その事情を察したヘルザード上層部も納得し、縁談は順調に進んでいたが・・・。
待ったをかけたのは、他でもないシャルードだった。
「陛下が待てと言わなければ、今頃戦争は起きていなかったのですぞ」
「余が欲しいのはラティリーズのみだ!それ以外は何も要らん!」
「ぐ・・・しかし」
「じゃあ、協力してくれたら、ラティリーズを差し出すといったらどうかしらぁ?」
ティアマの囁く提案。
その提案に、シャルードの耳が動く。
「本当か?」
「ええ、私はリルフェア、姉に仕返ししたいだけ。
あなたは、ラティリーズを好きにすればいいわ」
好きに、という言葉に一瞬反応するシャルード。
そして、その整った顔からは想像の付かない程のにやけ顔を見せていた。
「・・・それで、どうかしら?」
ティアマのその言葉にシャルードは身を乗り出して答える。
「いいだろう、それで余は、どうすれば良い?」
「カテドラルに、私の特殊部隊が奇襲するわ。
その為に、ゼフィラスとエマ・・・二人を前線に押し出して欲しいのよ」
「何?奇襲・・・いや、深くは聞くまい。
どちらにせよ、ゼロームとは決着を付けねばならない。
リルフェアが死んでくれれば、ゼロームも瓦解するだろう」
「ええ、そうねぇ」
「分かった、セオーグ!前線部隊の再配備を行え。
グスタフも呼び戻しておけ!」
「しかし、修行の旅に出ていると」
「余の命令だ!呼び戻し、前線部隊の指揮を取らせろ!」
「はは・・・しかし、多少時間が掛かります」
時間が掛かると聞き、シャルードは顔をセオーグに向けた。
「何に時間が掛かる?引き戻させた部隊を前線に出すだけだろう?
ゼロームの部隊を壊滅させたあの部隊はどうした?」
「元々、部族連合から借り受けた兵が大多数だったので。
引き上げた今、再配備するには時間が掛かります。
それに聖騎士エマは未だに前線におります、下手な戦力は返って痛手になるかと」
「むう、そうか。すまぬなティアマ殿、すぐには動けん」
「そう、まあ・・・いいわ。私もすることがあるしねぇ」
そう言うと、ティアマは踵を返した。
「内密に頼むわねぇ」
「無論だ」
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「下らない、下郎」
そう一言、廊下を歩くティアマは吐き捨てた。
「ティアマ様?」
「所詮は、ガキね・・・使い潰したら消えてもらうわ」
「使い潰す・・・しかし、ヘルザード帝国の力は強大ですぞ。
バルク国だけで潰せるかどうか」
「ふふ、ねえ、コーサー」
「?」
「『災竜』は知ってる?」
「は、3000年以上前に現れた六災竜の事ですな?」
ティアマが頷く。
「その長である竜は、ヘルザード帝国の地下に封印されているという事も?」
「ええ、ただ・・・おとぎ話程度の話だとは思いますが」
「それが事実で、その封印を解くのに必要なのが、
リウ・ジィの正統な後継者だとしたら?」
「!」
「ふふ、楽しくなるわぁ・・・また世界が破壊で満たされるのね」
ティアマはクスクスと笑いながら、城を後にした。
コーサーは、その姿に恐怖を覚えながらもその後に続いていった。
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