82話
「・・・っは!?」
目を覚ますガムリ。
気絶させられ、起きた時には洞窟の入り口に転がっていた。
「痛ってぇ・・・くそ」
他の奴らも、起き始めていた。
何が起きたんだ・・・一体。
「確か、ゴブリン・・・そうだ、クイーンゴブリン!
どこに行きやがった、あのクイーンゴブリン!!」
辺りを見渡すが、ゴブリンは一匹もいない。
いや、一匹だけ、頭が地面にめり込んだゴブリンがいた。
「ガムリの兄貴、こいつ・・・ゴブリンロードだぜ?」
頭の埋まったゴブリンの身体を木の棒でつつく男。
「懸賞金は俺らのものだな、兄貴」
「おいおい!クイーンゴブリンの金額の方が上だ!
どこに行きやがった!!」
「ガムリ、これ以上の深追いは止めるべきだ。
目の前の金だけを受け取って、諦めるべきだろう」
汚いフードを被った男がそう言う。
「あぁ!?コケにされた上に諦めろだと!?出来るわけねえだろうが!!」
「だが、鎧袖一触された俺達が叶う相手ではない」
「臆病風に吹かれたのか?ならお前は来なくていいぞ!」
ガムリはフードを被った男を指差し、そう言う。
その男はため息をついた。
「蛮勇は身を殺すだけ、冷静になって考えろガムリ。
ブルホーンを生かすも殺すも、リーダーであるアンタ次第だ」
「・・・」
「今はゴブリンロードの首だけを取って撤退するべきだ。
幸い、全員の命は助かったんだからな」
その言葉に何人かの男が頷く。
クイーンゴブリンの強さを肌で感じて怖気づいた者もいるようだ。
「っけ、面白くねえな・・・!」
頭を掻きむしり、ガムリはそう吐き捨てた。
そして、懐から短剣を取り出した。
「首だけ取って、帰るとする―――」
不意に、ゴブリンロードの身体がじたばたし始めた。
「!?」
地面に手を付けると、踏ん張って頭を抜こうとしている。
「っち!」
面倒になると思い、ガムリが近づこうとするが。
間合いに入る前にゴブリンロードの頭は地面から抜けた。
「ガウゥ!」
地面から抜けた頭で周りを見るゴブリンロード『ゾグ』。
自分を囲む男達を視認すると、威嚇するように唸り始めた。
「面倒になっちまったな!」
「グググウゥ、ガウガウ」
・・・。
「何?」
「どうした、ガムリ」
「俺は、少しだが魔物の言葉が分かるんだが。
こいつ、『クイーンゴブリンは何処だ、殺してやる』って言ってんだよ」
「は?」
「・・・ガウガウガーウ」
「『協力してくれ、さっきの話は聞いていた?』・・・人間の言葉が理解できるのか?」
「ガウ」
「『舐めるな』・・・か、ははは!こいつは傑作だ!!
おい!お前等・・・強力な助っ人が出来たぜ!!」
ガムリはそう言って大笑いした。
その裏でフードを被った男の顔は曇る。
(たとえ、ゴブリンロードを仲間に加えたとしても。クイーンゴブリンには勝てない!)
そう思い、ガムリに言葉を掛ける。
「ガムリ、ゴブリンロードではクイーンゴブリンには勝てないぞ。
それは、お前も分かってるだろ?」
「ああ、だから・・・あれを使うんだよ、あれ」
「あれ・・・いや!あれは駄目だ!俺等にも危険が」
「決めるのは、リーダーの俺だ。お前は黙ってろよ」
「ぐ・・・しかし」
それ以降、男は何も言えなくなってしまった。
ブルホーンのリーダーは目の前のガムリ。
決定を下すのも彼だ。
なら、他の奴は従うほかない。
――――――――――――――――――――
村長宅。
村長とは言え、裕福という訳ではなく。
多少家が大きいだけで、他の村民と同じような家に住んでいた。
「おお、ギルド長。どうなされた?」
庭に植えられていた花の手入れをする麦わら帽子を被った老人。
どうやら、この人が村長のようだ。
「ムナ村長、実はお願いがあって参上した次第で」
「おお?なんじゃ、こんな年寄りを捕まえて。
金なら無いぞい、はっはっは!」
腰を叩きながら、そう笑うムナ。
「いや、実は・・・この子の件で」
自分の後ろに付いてきたクイーンゴブリン、クロンの背中を押した。
「おぅ?その子は、ゴブリンか?」
よたよたと、クロンに近づくムナ。
「アタイはクイーンゴブリンのクロンって言うんだ。
実は相談があってね」
「ゴブリンから相談とは、ほっほっほ、長生きもしてみるもんじゃな」
近くの大石に腰を掛けるムナ。
「その前に、ゴメン!アタイ達、いっぱい作物を盗んじまって!」
「ほうほう」
両手を合わせて、頭を下げているクロン。
その様子を、何を考えているか分からない顔で見ている村長、ムナ。
「だから、罪滅ぼしって訳じゃないけど、働かせてくれないかい!?」
何処からか現れたゴブリンの集団が、クロンの後ろに並び、同じように頭を下げた。
「ふむ、そうじゃのぉ・・・お前さん方、年間にどれだけの作物が盗まれると思う?」
クロンにそう聞くムナ。
「え、いや、知らない・・・」
「そうじゃろうなぁ、しかし、ゴブリンの盗む量に比べれば、
人間が盗む量の方が圧倒的に多い」
「人間が盗むのか?」
ギルド長の後ろで黙って聞いていたが、それを聞いて俺は声を上げた。
「ああ、そうじゃよ。最近は野盗も増えているからの。
それに若者は皆、徴兵された。野盗を押さえ込む者すら、おらんのじゃよ」
「大変だな・・・」
「アセルとエミーナには助けられておる。
しかし、二人では手が足りな過ぎておる状況じゃ」
あの二人か。
だが、気になった事がある。
「村に警備兵は?正規兵の一人や二人、いてもおかしくないんじゃないか?」
国からの正規兵がいるはずだ。
片田舎とは言え、領内。
一人か二人は配備してておかしくないが。
「それがのぉ、役に立たんのじゃ。
配備されているのは、ワシと同じ年齢の二人じゃぞ」
・・・。
ああ、なるほど、
「使える若い兵士は全員、前線に出すという事か?」
「そこまでではないが・・・まあ、ここは老人だけでも大丈夫だと思っておるんじゃろ」
「なら、アタイ達が守るよ!」
「ほっほっほ、それは頼もしいのぉ。まあ、好きにしたらええ」
「好きに・・・って、村長?」
ギルド長がそう聞き返す。
「別にゴブリンだからと毛嫌いするつもりはない。
それに、謝るのなら許すのが大人というものじゃ」
石から腰を上げると、ムナはクロンを見た。
「村民にはわしから言っておこう。
村人にゴブリンが増えるとな」
「い、良いのかい?」
「ああ、その代わりしっかり働くんだぞ。
働かざるもの食うべからず、じゃ」
「分かってるよ!皆!しっかり働いて、しっかり稼ぐんだよ!」
周りのゴブリンにそう檄を飛ばすクロン。
ゴブリン達は頷くと、片手を上げて答えた。
俺達はその様子を見届け、冒険者ギルドに戻った。
「お帰りなさい!ギルド長、ソウマさん!」
「ああ、今帰ったよクラミー」
ギルド長は近くの椅子に腰かけた。
「あれ、クロンちゃんは?」
「早速、村長の手伝いをしているよ。
他のゴブリンも同様にね」
「働き者ですね」
ゴブリンは身の丈は小さいが、力は人間よりも上の個体が多い。
確かに労働力と数えるのなら、これほど頼もしいものもないだろう。
「ああ、そうだギルド長。
実は、隣村のアズさんから報告が届いてますよ」
「アズさんから?」
「はい。『護衛任務が終了しましたので、一度こちらに寄ります』とのことですよ」
「そうか、律儀な人だな」
「・・・アズさんとは?」
「昨今じゃ珍しい死霊術士の方です。
若い女性で、綺麗な金髪の―――」
「!?もしかして、赤い目でつばの広い帽子を被っているのか!」
「え、は、はい・・・そう、ですけど?」
間違いない。
目撃されたというメンバーの特徴に合う。
恐らく『エリサ』だ・・・!
「アズさんは、この一帯で一番発展している街『ルーライ』所属の冒険者です。
お知り合いで?」
「多分な」
遂に、見つかった気がする。
だが・・・この目で確認するまでは、油断は禁物だ。
読んで下さり、ありがとうございました。




