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80話

村外れの洞窟内。

セニアに武器を破壊されたゴブリンロードは、

部下を引き連れてここまで逃げてきた。


「へぇ、逃げてきたんだゾグ」


「!?」


ゴブリンロードを睨みながら、近づいていく少女。

その姿はゴブリンそのものだが。


顔は美少女と言って差し支えない程の美貌。

緑色で、小さな角さえなければ人間に見える程、その顔は人間に近い。


「ガウガウガ」


「え?とても強い女がいた?」


「ガウガウ」


「へぇー・・・後ろの男はそれ以上の強さが見えたって?」


「ガウ」


少女は、洞窟の壁に身体を持たれかけた。

ゾグと呼ばれたゴブリンを興味深げに見ていた少女の目は、

やがて、睨みつけるように鋭くなった。


「アタイは・・・戦うなって命令したはずだよ!!

 こっそり盗んで、こっそり帰る!ばれたらその場で逃げろって言ったはずだよ!」


「グゥ・・・」


「冒険者に追いやられて、仲間を見捨てたアンタを助けたのは私達だよ!

 命令も聞けないのかい!?」


彼女は『クロン』、100年に一度生まれると言われるゴブリンの変異種。

『クイーンゴブリン』の一匹。


その強さは、ゴブリンロードよりも強く。

ゴブリンにしては並外れた知識を持ち、人語も解す。

個体によっては国に明確に反逆を行うものもおり、ゼローム皇国としても、

危険種に当たる魔物である。


だが、彼女の場合は一般的に考えられるクイーンゴブリンと違い。

ゴブリンらしい行動は取るが、あくまで小規模なもの。

目立たないよう、地方の洞窟に居を構えて細々と生活をしていた。


彼女は、立志の思いも、闘争本能もほとんどなく。

ただ日々を生きていきたいと、そう願っているだけだった。


「はぁ・・・それで、つけられてないだろうね?」


「ガゥ」


「その筈?アンタね、しっかり痕跡は―――」


不意に、洞窟に声が響いた。


「おおい!どこにいるんだよゴブリンロードちゃんよぉ!!」


「!」


「アンタ・・・ばれてるじゃないのさ!!」


ゴブリンロードを蹴り上げるクロン。

蹴り上げられた身体が宙に浮き、洞窟の地面に衝突した。


「チクショウ、アタイの静かな生活もここまでか」


――――――――――――――――――――


冒険者ギルドにアセルとエミーナと共に向かっていたのだが。

昨日、俺達に絡んできたパーティーの一人が慌ててギルドから出てきた。


そして、村外れに向かって走っていった。

・・・なんだ?


「ああ、アセルさん!ソウマさん!大変です!

 村外れに、クイーンゴブリンが現れたそうですよ!!」


「は!?いやいや!あの、伝説種の!?」


アセルは驚いた表情でそう聞き返すが。


「クイーンゴブリン?」


聞きなれない言葉に、俺はクラミーにそう尋ねた。


「最強のゴブリンとも呼ばれる、100年に一度生まれると言われるゴブリンです。

 まさか、こんな片田舎に現れるとは・・・」


「クラミーさん、一ついいですか?」


ナナがクラミーに尋ねる。


「何でしょう?」


「その、さっきの方はどうして冒険者ギルドに?」


「ええ、ゴブリンロードを追跡して、

 その先にクイーンゴブリンがいたと報告に戻った方ですよ。

 後、俺達の獲物だ、手を出すなと」


「手を出すな、か」


「Bランク冒険者で、クイーンゴブリンを仕留めるのは無理だろうなぁ」


ギルド長がそう呟きながら建物から出てきた。


「だが、現状の最高戦力。彼らに頼るほか無いのも事実か」


「どうしますか、本部に救援を要請した方が」


「うむ・・・それも視野に入れなければ」


重々しくそう返すギルド長。


「俺達も行った方がいいか?」


「その申し出は有難いが、クイーンゴブリンはそう簡単な相手ではない。

 ゴブリンロードを超える力を持つ・・・危なかったら、すぐに逃げてくれ」


「大丈夫だ」


俺は片手を軽く上げると、男の走っていった方向に向かって駆けだした。


――――――――――――――――――――


「あぎゃぁぁ!!」


洞窟に響く情けない声。

それは反響して、洞窟の入り口にまで聞こえてきていた。


「ひぇえええ!クイーンゴブリンがぁぁ!!」


鈍器で殴る音が、洞窟から聞こえてくる。


「遅かったか」


俺達が入口に付いた時には『ブルホーン』の面々は地面に倒れていた。

入口付近に、メンバーのほとんどが転がっている。


全員息はある、殺す気は無いようだ。


「やれやれ、アタイ相手にこの程度じゃ、準備不足もいいとこだよ」


片手で気絶した男を引きずり、肩に男を担いだ状態で出てくる少女。

肌は紫、こめかみ付近に2本の小さい角、そして。


(顔は、人間そっくりだな)


あれが、クイーンゴブリンか。

EOSではいなかった種族だ。


肩に担いだ男と、引きずった男を入り口周辺に捨てる少女。

そして、手をパンパンとゴミ出しした後のように打ち鳴らした。


「ん、新手かい?冒険者に見つかると厄介だね。

 まるで羽虫のように纏わりついてきて・・・そんなにアタイが珍しいのかい!?」


怒りの表情で、俺を睨むクイーンゴブリン。


「お前を討伐しに来たわけじゃない。

 いや、討伐する気は無くなった、と言った方が正しいな」


「ん?どうしてだい?」


「全員、打撲は負っているが死んではいない。

 お前の実力を考えれば、彼らを殺すのは容易かったんじゃないか?」


「正解」


だが、殺していない。

つまり・・・そうだな。


「優しいんだな」


「殺せば禍根が残る。アタイは静かに暮らしたいだけさ」


「・・・そうか」


甘い考えだという奴も多いが。

安直に殺す、と言う手段は取らない方がいい。


無論、生存競争にその論を語るのは野暮だが。

だが、俺はその考え自体は嫌いじゃない。


「で、どうするんだい?」


「やるなら相手になる」


手に持った槍を大地に立てる。

目の前の彼女も、それを見て近くに落ちていた棍棒を拾い上げた。

身の丈ほどある大きな棍棒、それを彼女は軽々と振っている。


「・・・」


「・・・」


お互いに、少し睨みあう。

だが、彼女がふっと笑った。


「アタイ相手に、怖気づきもしないとはね。

 ゾグが負けたのも頷ける」


「ゾグ?もしかして、ゴブリンロードか?」


「ああ、そうだよ」


なるほど、ナナが撃退したのはゾグという名前なのか。


「でもさ・・・生存競争上、アタイは負けられないんだよ!」


棍棒を構えて走りだす少女。


「ソウマさん!」


俺の目の前にナナが立つが。


「いい、俺がやる」


優しく払いのけ、少女に歩み寄る。


「はああぁぁ!!」


棍棒を振りかぶり、そのまま叩きつけるように振り下ろした。

その棍棒を、左腕で殴るように払う。


「ぬぁぁ!?っとっとと!」


力を逃がされ、こけそうになる少女。

踏みとどまると、その姿勢のまま横薙ぎに棍棒を振るう。


向かって来る棍棒を、左手で掴んだ。


「え!?この、放せ!」


掴まれたせいで、棍棒は動かなくなった。

そのまま、棍棒を握る手に力を籠める。

ミシミシと音を立て、やがて砕けた。


「っ!」


壊れた棍棒を見て、一歩下がる少女。

使い物にならないと思ったのか、棍棒を捨てた。


「アンタ、只者じゃないね」


「どうする、ゴブリン」


「っへ、仲間のためにもアタイは負けるわけにはいかないのさ!」


両手の拳を握り、ファイティングポーズを取る少女。


「仲間のため、か」


少女が跳躍すると、回し蹴りを首に目掛けて放ってきた。

敢えて、そのまま受ける。


「!?」


首元に右足の蹴りが入るが痛みは無い。


「この!」


地面に着地すると同時に、腹部に目掛けてパンチのラッシュを入れてくる。

やはり、痛みは無い。


「く・・・!アタイは負けられないんだぁ!!」


大きくテイクバックすると、渾身の拳を放つ。

その瞬間に、人差し指を少女のおでこに突き立てた。


「!?」


「お前の負けだ」


身体が瞬時に固まる少女。

そして、膝から崩れた。


「あ、あはは・・・アンタ。なんで?」


殺さなかったのか、と問おうとしたのだろう。


「殺せば禍根が残る、そう言ったのはお前だぞ」


「・・・そう、だね」


戦う事を諦めたのか、全身から力が抜ける少女。

その姿は、見た目相応のとても小さい少女に見えた。


読んで下さり、ありがとうございました。

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