79話
セニアとラティリーズは身に付けているものを外すと、風呂場へ入った。
湯船は多少小さいが、身を小さくしてはいれば二人は入れるくらいの広さだ。
「シャワーもあるんですね」
蛇口をひねると、お湯が少し出てきた。
「あ、あの・・・セニアさん」
「?」
セニアの身体をまじまじと見るラティリーズ。
「腕が変形するって言ってましたけど」
「え?はい、そうですよ」
裸のセニアの右腕が、剣に変形する。
そうかと思ったら、今度は短いナイフにも変形した。
「凄い、ですね。ゴブリンロードは話には聞いた事はありましたけど。
とても、怖い魔物だと・・・それを一人で」
「そうですか?」
手を元に戻すセニア。
「はい」
「トーマさんだったら、指先一つで倒せると思いますけど」
誇張ではなく、本気でそう言っているセニア。
ゴブリンロードは、EOSでは初期のボス程度の認識。
要するに、Lv100越えにとっては、歯牙にもかけない程の相手、という事だ。
「指先?」
人差し指を立てて、その指を見るラティリーズ。
「はい、指先です」
「ふふ・・・トーマ様なら、出来そうな気がしますね」
「出来ますよ!実際に」
そう言いながら、セニアは湯船に手を入れた。
「んー・・・少し温いですけど、大丈夫そうですね。
私は先に身体を洗おうと思うんですけど、ラティさんは?」
「私は、湯船に浸かりますね」
何度か身体にかけ湯をすると、ラティリーズは湯船にゆっくりと浸かった。
自分では気づいていなかったが、多少長い移動で身体が疲れていたらしい。
湯船に浸かった瞬間、どっと疲れが襲ってきた。
「はふぅ・・・」
「お疲れ様です、ラティさん」
「セニアさんこそ」
そう言って、顔を見合わせた二人は。
クスリとお互いに笑った。
――――――――――――――――――――
「そう言えば、これ、どう使うんだ?」
武器の手入れをしていた。
そして見つけた、セラエーノが作った一本の槍。
攻撃力は弱い、槍としては短い持ち手。
まるで、投擲用の槍・・・と言うより柄の長い手榴弾に見える。
「こいつはまさか」
先の膨らんでいる部分に触れる。
すると、勝手に蓋のようなものが外れ中に何かをはめ込むようなソケットが見えた。
「あいつ、こんなものを作ってたのか」
恐らくソケットにはめ込むのは、爆薬。
こいつは投擲用の、爆薬槍と言われるものだ。
ぶん投げて、刃先が何かに衝突すると・・・ボン!という訳だ。
「回収すれば、再利用可能に作ってあるな・・・いい物を作る」
普通なら、使い捨ての投擲武器だが。
流石、乱数に愛された女の一品だ。
何度でも使用できるように、頑丈に作ってある。
そして、その武器いじりをする際に思ったことがある。
ラティリーズにも、何かしらの武器か防具を預けておこうと。
いい装備は、必ず身を守る盾になる。
俺も、護衛として全力は尽くすが、それでも守り切れなくなる部分はあるだろう。
要は保険だ。
それと、明日もう一度冒険者ギルドに行かなければ。
ごたごたで忘れていたが、ここには俺の仲間の目撃情報があった。
金髪赤眼、つばの広い帽子を被った女性。
『エリサ』が、ここにいるかも知れないのだ。
「さてと」
磨いていた槍を道具袋にしまう。
次は、ラティリーズに渡す防具でも磨いておくか。
丁度良いのがあればいいが。
ラティリーズの軽装着の下に着られる鎖帷子を見つけた。
ミスリル製で、途轍もなく軽いのが特徴だ。
それに反して防御力は高く、魔法防御力も備えている。
「しかし・・・こいつは」
宵闇さんから貰ったものだ。
それを他人に渡すのは、ううむ。
・・・。
いや、それはいいか。
昔より、今。
そして、道具は道具だ。
使わずに腐らせるよりは、役に立てた方がいいだろう。
――――――――――――――――――――
「ふぅ、いいお湯でしたよ、トーマ様」
「次はトーマさんの番ですよ。他の方は先に入られたようなので」
「ああ」
腰を上げると同時に、ミスリルの鎖帷子を手に持つ。
それを、ラティリーズに差し出した。
「これは?」
「ミスリルの鎖帷子だ、装備の下からでも着れるはずだ。
俺達がいつでも守れるとは言い切れないからな。
・・・だから、安全のために着ておいてくれ」
「は、はい・・・あ、軽いですね。
触り心地も、とても滑らかで」
「着辛かったら、言ってくれ。
それじゃ、風呂に入ってくるよ」
――――――――――――――――――――
手に持った鎖帷子をじっと眺める。
なんで、だろう。
とても、とても懐かしい感覚が体を襲う。
見た事も無い装備なのに。
嗅いだこともない匂いなのに。
「・・・ティさん?」
「・・・」
「ラティさん!」
「え!?あ・・・は、はい!?」
「どうしたんですか?急に黙り込んで」
鎖帷子をじっと見ていたせいか、セニアさんの声が頭に入ってこなかった。
「すみません、何故か、懐かしい気持ちになったので」
「?」
首を傾げるセニアさん。
「あ、そうだ。お風呂上がりと言えば、はい、どうぞ」
セニアさんは、そう言うと瓶を渡してきた。
「これは・・・?」
「牛乳ですよ」
白い瓶だと思ったら、牛乳瓶だったらしい。
「お風呂上りと言えば、これですよ。
噂によれば、胸も大きくなるとのことですし!」
そう言って、セニアさんは腰に手を置くと牛乳瓶を一気飲みした。
「ぷはぁ・・・うん、美味しいです!」
「ふふ、セニアさん・・・くすくす」
「?」
白いひげが、セニアさんの顔に出来ていた。
「あ」
部屋の鏡でそれに気づくセニアさん。
タオルを取り出すと、それで顔を拭いた。
「オリビア姉さんは、私よりも大きくなりましたし。
私も、まだ伸びしろはあるはずなんです!」
胸の話でしょうか?
そう思い、私も自分の胸を見る。
同年代からしても、小さい部類だろう。
「ラティさんはいいですよね、リルフェアさんがあんなに大きいんですから。
将来、大きくなることが約束されているようなものですよ!」
「そうでしょうか・・・」
今日の昼に出会った、二人の事を思い出す。
あの女性の方も、大きな胸をしていた。
やっぱり、胸が大きい方が、魅力的に見えるの、かな・・・?
――――――――――――――――――――
風呂場は小さかった。
俺みたいにデカい身体だと、湯船が多少小さい。
「温いな」
客が入る度に湯を入れ替えていると聞いたが。
湯船に浸かる人間は少ないらしく、湯加減の管理は甘いみたいだ。
まあ、贅沢は言えないだろう。
大きな街の宿屋に比べれば、半分以下の値段だとも主人は言っていたしな。
「明日は、もう一度ギルドに行って、それから・・・」
仲間の情報収集とそれが終わり次第、冒険者の仕事探し。
やることは決まっているが、情報が集まるかどうかが不安だな。
両手で湯を掬い、顔に掛ける。
悩んでいても仕方ない、行動あるのみだ。
エリサが、この近くにいるかも知れないんだからな。
最後に身体をシャワーで流し、風呂場を後にする。
脱衣所で軽装に着替え、廊下に出ると。
廊下を歩いていたアセルと目が合った。
「ああ、ソウマさん」
「アセルか、どうした?こんな遅くに」
「いや、エミーナが喉が渇いたって言うから、水を貰いに」
「そうか」
アセルのチームは、エミーナの方が上らしいな。
「はは・・・人使いの荒い魔法使いで困るよ」
そうは言うが、顔は笑っていた。
仲はいいみたいだな。
「それじゃ、また」
「ああ、また明日、か?」
「だろうな」
冒険者ギルドで、明日会う事になりそうだな。
読んで下さり、ありがとうございました。




