78話
ガラの悪そうな冒険者たちが、ギルドの受付前まで歩いてくる。
その一人の男がカウンターに肘をかけ、クラミーの顔を覗く。
「よう、クラミーちゃん。ゴブリンロード見なかったか?」
「ゴブリンロード?」
「俺達が逃がした獲物なんだが、こっちに逃げたって聞いたからよ」
「ああ、じゃあ・・・ナナさんが撃退したっていうゴブリンロードは」
「撃退?おいおい、こんな片田舎にゴブリンロードを倒せる奴がいるってのかよ?
面白い冗談だな、なあ?」
後ろの仲間たちに話す、スキンヘッドの悪人面の男。
その男の声を聞くと、後ろの男達も腹を抱えて笑っていた。
「本当よ、ほら」
エミーナが棍棒の入った麻袋を投げ渡した。
「おっと・・・ほほーぅ、本当だな!どうやったんだ、闇討ちか?
それとも、その身体を使ってゴブリンロードを油断させたのかぁ?」
エミーナの豊満な身体を指さして言う男。
「な・・・!違うわよ!!ナナちゃんが撃退したって聞いたでしょ!」
「ナナって誰だよ」
エミーナがナナを指差す。
「は?いやいや、Eランクのお嬢さんが倒したってのか?」
「事実よ、この目で見たし」
「へぇ・・・ふーん」
ナナに近づくと、舐め回すように体と顔を見る男。
そして、ニヤリと笑った。
「可愛い顔してるじゃねえか、どうだ、うちらのチームに入らないか?
Bランクパーティー『ブルホーン』によ!」
「お断りします」
ナナはそう一言、言うと丁寧に頭を下げた。
「え、なんだって?」
男は意外そうな顔をした。
「お断りします」
「おいおい、Bランクだぞ、Bランク!Eランクとは比べ物にならない程の―――」
「あなたに、そしてお仲間さんにも魅力を感じません。
態度は悪いですし、それに―――」
「魅力、魅力がない?」
拳を握り、わなわなと震えている男。
「・・・Eランクの、底辺が。Bランクである『ガムリ』様を馬鹿にするのか!
このアマァ!!」
握った拳を振り上げて、ナナを殴ろうとするガムリ。
「止めろ」
向かって来る拳を手のひらで止める。
「な、この野郎!」
蹴ろうと構えたので、手のひらに押さえていた拳を握り込んだ。
そのまま力を籠める。
「ぐぁ!?」
拳を握りつぶされる状態になり、その痛みでガムリは悶えていた。
「ナナを殴ろうとしたな?」
握る手に、力を籠める。
「ぎゃああ!!や、やめろ!やめてくれ!!」
言葉に対して暴力で返す奴にろくな奴はいない。
こいつもそうなのだろう、見るからにチンピラだしな。
だが、振るおうとした暴力は未遂で終わった事。
仕置きはこのくらいでいいだろう。
パッと手を離すと、ガムリは自分の拳に息をかけていた。
それほど痛かったのだろうか?手加減はしたのだが。
「て、てめえ!覚えてろよ!!」
ガムリが冒険者ギルドから逃げるように出て行く。
それを見た男達も、それに続いていった。
「・・・なんなんだ、あいつらは」
「冒険者パーティー『ブルホーン』の面々ですよ。
そこそこの戦士が集まった、素行の悪い若者のパーティーです」
「あれで、Bランクなんですか・・・?」
リズがそう聞く。
「ええ、ランクは実力のみで左右されますので。
場所によっては、ああいうパーティーも存在しますよ」
「あの様子だと、また絡まれそうだな」
まず間違いなく俺を狙って来るだろうな。
「大丈夫なんですか、ソウマさん」
クラミーは心配そうにそう聞いてくるが。
「大丈夫だろ、それより報酬は?」
「あ!そうでした」
ポン、と手を打つクラミー。
「はい、こちらになります!」
ゴブリンロードを撃退した報酬と、依頼の報酬。
それを、アセル達を半分に割った。
「いいのか?ゴブリンロードはナナちゃんの手柄だろ?」
「別に構いませんよ、ね、ソウマさん」
「ああ」
申し訳なさそうに、半分の報酬を受け取るアセル。
いい奴、そう感じるな。
「じゃあ、せめて泊まる場所を紹介させてくれよ。
この村は初めてなんだろ?」
「はい、初めてです」
「なら、良い場所があるんだ・・・と言っても、
この村に宿なんて一つしかないんだけどな」
――――――――――――――――――――
宿『小麦の草原』。
村外れにある小さな宿で、部屋は全部で4つ。
うち3つは、アセル達を含めて埋まっていた。
「えーと・・・同室になりますが、よろしいですか?」
同室・・・。
「それに、ベッドは二つなので、その・・・お一人は床で寝ることに」
「俺は床で寝るつもりだが、二人は俺と同室でいいのか?」
「いいですよ」
「はい、大丈夫です」
即答だった。
少しは迷ってくれ、俺は男なんだぞ。
「そうですか、それでは」
気の弱そうな男主人が部屋の鍵を手渡してきた。
「2階の奥の部屋になりますので。
食事は朝と夕方にありますが、いかがしましょうか?」
「じゃあ、両方付けてくれ。それと、風呂とトイレは?」
「トイレは1階、2階の奥で、お風呂は1階の端部屋になります。
時間帯で男女を区別してますので、お気を付けください」
温泉のようなものか。
気を付けないと、女風呂に入ることになるな。
「それでは、代金の方を」
「ああ」
提示された金額を、袋から出す。
俺もリズも、元の地位を考えればこの国では金持ちに入る。
しかし、折角の旅。
金にものを言わせて旅はしたくはない。
もしもの時は頼るかも知れないが、その時までは手持ちの路銀で旅をする。
これは、俺達三人で決定したルールだ。
リズにも勉強になると思い、そう決めた。
「はい、確かに。それではごゆっくり」
丁寧に男主人は一礼した。
部屋に荷物を置く頃には、夕日が窓から差していた。
「お疲れ様です、トーマさん」
「ああ・・・ソウマだぞ」
「いいじゃないですか、他に誰もいないときは」
そうだな、誰もいないときぐらいはいいか。
「あの、本当にベッド、貰ってもいいんですか?」
「そうしてくれ、二人を床に寝させる気は無いからな」
幸い、部屋の隅にはソファーもある。
そこで寝ればいいだろう。
「先に風呂に入ったらどうだ、二人共。
旅で汗もかいただろう?」
今の時間は女性専用のはずだ。
「そうですね・・・ラティリーズさん、一緒に行きましょう?」
「ラティ、でいいですセニアさん、それにトーマ様も」
「あ、ああ・・・いいのか?リルフェア以外の奴がそう呼んでも」
「はい、出来れば、そう呼んで欲しいです」
「分かった、ラティ」
「ラティさん、一緒に行きましょ?」
「はい、セニアさん」
二人で、風呂場のある1階へと歩いていった。
「さて」
武器の手入れと、装備の確認だ。
それが終わり次第、今後の動きのまとめを。
――――――――――――――――――――
その頃、村の外れで野営をしているパーティーがいた。
Bランクパーティー『ブルホーン』だ。
「畜生が!あのゴブリンロードの首には懸賞金が掛かってんだぞ!!」
「ゼローム金貨10枚、数日は派手に遊べる金額だよな」
「どうすんだよ、こんな辺鄙な場所まで来て、骨折り損で終わるのか?」
「だが待て。ゴブリンロードはまだ死んでないんだよな?」
・・・・・・。
男達の間に、沈黙が訪れる。
「確かに、そうだな。撃退したって言うだけだ」
「だが、何処に逃げたかもわからないだろ?」
「いや、逃げた方向なら大体は分かるはずだ。
特にゴブリンロードは足跡が大きいからな」
汚いフードを着た盗賊風の男がそう声を上げた。
「追跡できるのか?」
「ああ、ゴブリンロードの足跡は特徴的だからな。
時間がかかる可能性はあるが、見つけるのは容易いぞ」
その一言に、ブルホーンの面々は顔を歪ませた。
「じゃあ、追うのは簡単って事だな?」
そう言うガムリは自身の武器を担いだ。
その武器を高々と持ち上げる。
「よぉし!夜が明け次第、追跡するぞお前等ぁ!!」
おう!と呼応するメンバー。
その様子を見てガムリはニヤリと笑った。
「金貨は俺らのもんだ・・・誰にも渡すかよ」
読んで下さり、ありがとうございました。




