76話
トーマ達の話に戻ります。
アーセ村はエリール地方でも屈指の農村。
イモ、トウモロコシ、小麦。
穀物だらけの大農園が村の外に広がっている。
「わぁ」
ラティリーズは感嘆の声を漏らしていた。
小麦の収穫前だったようで、馬車から見える畑は黄金色。
風に揺れた小麦が、黄金色の海のような光景を作っていた。
「これが、畑なんですね」
「見た事ないか?」
「はい。外に出るときは、こんな場所は見た事が無かったので」
「そうか」
俺もこれ程の大農園、見るのは初めてだ。
馬車が通る以外の道は全て畑、村の周りほぼ全てを覆いつくしていると言っていい。
「豊かな村みたいですね」
「ああ、しかし」
畑の外周にあった、頑強そうなバリケードが気になった。
魔物でも湧きやすいのだろうか、それとも夜盗か?
「どうしました、トーマ様」
「いや、なんでもない」
考えすぎか。
害獣除けに構えているだけかもしれないしな。
――――――――――――――――――――
『ゼローム冒険者ギルド アーセ村支部』と書かれた建物の前に馬車が止まる。
建物は木造で、2階建て。
新築なのか、真新しく見える。
「さあ、私達の第一歩ですね!」
「ああ・・・だが、セニア」
「?」
「その格好、それでいいのか?」
メイド服のままだ。
俺達の格好から見れば、目立つ。
「じゃあ、これならどうですか?」
早着替えも真っ青な、一瞬での着替え。
その格好は、八霧の錬金術師の服だった。
だが、色は違うし細部も違う。
「何でその格好だ?」
「私が戦うときは、腕が変形しますよね?
だから、隠した方がいいかなって」
「ああ、なるほど」
錬金術師の服は袖が長い。
それこそ、薬瓶が袖に隠せるほどに。
八霧の場合は懐の方が使いやすいって事で使わなかったが。
本来なら、袖に薬瓶を入れておく奴が多い。
それに、セニアはどこから見ても人間。
その人間の腕が変形なんかしたら、目立って仕方ないだろう。
「それでは、行きましょう!」
「あ、待って下さいセニアさん」
「?」
ラティリーズに止められたセニアはその足を止めた。
「トーマ様も」
「どうした、何かあったか?」
「いえ、その・・・名前を変えた方がいいですよね?」
偽名を使う必要がある、という事だろう。
そりゃ、そうだ。
特にラティリーズなんて名乗ったら一発でばれる。
しかし、偽名か。
・・・。
「俺はソウマと呼んでくれ」
「ソウマ?」
「俺のもう一つの名前だ、メンバーすら知らない名前だから言いふらすなよ?」
俺の実名だ。
八霧すら知らない、現実の名前だ。
「じゃあ、ソウマさん?」
「ソウマ様ですね、分かりました」
「ラティリーズ、様付けも直してくれ。
同じ冒険者仲間になるんだからな?」
「あ・・・はい、分かり、ました。そ、そう、まさん?」
「ああ、それでいいよラティリーズ」
そう言って、ついラティリーズの頭を撫でてしまった。
「あぅ・・・って。私をその名前で呼ぶのは駄目じゃ?」
「おっと、そうか」
「では、私は・・・うーん」
首を傾げて悩んでいるラティリーズ。
「リズ、ではどうでしょうか?」
「あ、いいですね!じゃあ、私は・・・ナナで!」
「ナナ?ああ、元々7号って呼ばれてたもんな」
懐かしい。
ソウマにリズに、ナナか。
名前も決まった所で、俺達の冒険者第一歩を踏み出すか。
扉の前に立つ。
その扉の取っ手に手を掛けた時だ。
「おっと!」
ギルドの中から、誰かが出てきた。
咄嗟に手を引っ込めたので大事は無いが。
「おお、悪いな」
「ごめんなさいねー」
男女のペアが謝りながらその場を去っていった。
「戦士と魔法使いか」
男が戦士、女が魔法使いの格好をしている。
装備から見て歴戦と言うよりは、駆け出しに見える。
目線を、ギルド内に戻すと目の前にあるカウンターの先にいる女性と目が合った。
「ギルド長!新人さんですよ!新人さん!」
「え、おお!本当だ!いらっしゃいませ!」
俺達を見て、にっこりと微笑むカウンター先にいる二人。
一人は、セニア―――いや、ナナほどのショートヘアの赤髪の子。
歳は16くらいだろうか、若い印象を受ける可愛めの子だ。
隣に立っている男性は中年で小太り。
眼鏡をかけた先から見える目からは、苦労人といったイメージを受けた。
――――――――――――――――――――
「なるほど、ソウマさんにリズさん、ナナさんですね」
書類に俺達の名前を書き込んでいく受付嬢。
名前は、クラミーさんらしい。
「いやはや、新人さんが来てくれるとは嬉しいね!
この片田舎の新設ギルドなんて、だれも見向きもしないから」
「新設、やっぱりそうなのか」
ギルドの中を見渡す。
一階はこの受付カウンターと、デカい掲示板。
それと、部屋の端にテーブルと椅子がある。
二階には、酒場が併設されているようだ。
だが、人の気配はほとんどない。
「ははは・・・このギルド専属の冒険者は、先ほどの二人だけですよ」
「二人だけ?じゃあ、あの二人の内に、ソウマさんの?」
二人の顔を思い出すが、違う。
ここで俺の仲間が目撃されたとの情報があったが、あの二人ではない。
「違うな、あいつらじゃない」
「?」
クラミーが俺の顔を見て首を傾げた。
「ここに、他の冒険者は来ることはあるのか?」
「ええ、たまに大都市からの採取任務とかで来る人はいますけど」
「薬草だけは豊富に取れますからな、アーセ村周辺は」
自嘲気味にそう話すギルド長ダッド。
「ダッドさん!そんなことだから、アーセ村のギルドは盛り上がらないんです!
もっと、こう、色々と」
「そうは言うがね、クラミー。大きなギルドに比べてここは小規模なんだ。
従業員も私とクラミー、臨時職員の二人合わせて四人なんだよ?」
「私の夢は!強い冒険者との寿退社なんです!!
その夢を叶えるためにもダッドさんには頑張って欲しいですけど!?」
「おいおい、こんな中年捕まえて無茶を言うんじゃないよ」
「もう・・・」
最後に判子を押すと、クラミーはその書類の写しを俺に渡してきた。
「はい、登録完了ですよ。それと、これが冒険者の証になります」
首飾りを渡された。
その首飾りの先には、小さい紋章入りの飾りが付いていた。
色は白、これがEランクの証だろうか?
「Eは白、Dは緑、Cは銅、Bは銀、Aは金、Sは金に装飾が施されてます」
「ちなみに先ほどの二人組はDランク。
この村出身の冒険者で、新進気鋭の二人ですな」
「あの、お二人が?」
「ええ、今はゴブリン討伐に、村の外れに行きましたが。
まあ・・・この村は見て分かると思いますが、食材が豊富なので、
ゴブリンやオークの襲撃を受けることが多いんですよ」
「じゃあ、あの頑強そうなバリケードは」
「ええ、その対策の一環で。効果はほとんど無いんですがね」
そうか。
・・・冒険者の情報を聞きだすためにも、ギルドには協力した方がいいよな。
「じゃあ、俺達もそのゴブリン討伐に参加した方がいいか?」
「は、はい!是非!」
――――――――――――――――――――
ゴブリンか、EOSでも雑魚の一匹程度の扱いだが。
この世界で会うのは初めてになる。
「ここなんですよね?」
村外れの、廃屋近く。
この周辺にゴブリンのねぐらがあるというが。
「うぉぉぉ!?」
男の声が響いた。
「アセル!大丈夫!」
「大丈夫だ、くそ、こんな所に何で―――」
「言っている暇はないわ!ギルドに報告するのが先よ!」
先ほどの二人組が、廃屋の後ろから飛び出してきた。
その姿は、全身傷だらけになっている。
「君たちはさっきの!?」
「その首飾り・・・冒険者になったのね?」
「いや、そんな事を言ってる場合じゃないぞ、エミーナ!
奴が・・・!!」
突如、廃屋から聞こえる何かを叩く音と、廃屋が軋む音。
「来やがった!!」
廃屋が音を立てて崩れると、煙が巻き上がる。
その煙の先に、赤く光る二つの何かが見えた。
「ゴブリンロードだ―――!」
読んで下さり、ありがとうございました。




