72話
御前試合編終了になります。
祝勝会も、お開きムードになってきた。
いつの間にか八霧も酒を飲んでいたようで、潰れて机に突っ伏して寝ていた。
残っているのは俺とオリビアだけだ。
オリビアもいけるクチらしく、俺とオリビアの周りには空瓶が転がっていた。
だが。
「ですからぁ・・・マスターのお世話も、大変なんですよぉ」
しかし、オリビアの様子も多少おかしい。
いつもの冷静な語りぶりが嘘のような口調だ。
「楽しいんれすけどねぇぇ・・・」
ニコニコして話しているかと思えば、今度は泣き出した。
「他の妹ともしゃべりたいれすぅ!」
「あ、ああ。苦労するな、オリビア」
「苦労・・・苦労って、なんれすか!?」
今度は、絡み酒か!?
揃いも揃って、神威の一族は酒癖が悪いのか?
机で対面に座っていたオリビアが、俺の横に座りこちらを睨む。
先ほどのセニアと比べられないほど、酒臭い。
「じゃあ、とーまさまぁが、労って下さいますかぁ?」
酒で赤くなった顔が、俺に近寄る。
「お、おう・・・俺に出来る事ならしてやるが」
そう言って、頭を撫でようとするが。
その手を、オリビアに掴まれた。
「ちーがーいーまーすー。こっちでぇ・・・」
そう言って、メイド服の胸のリボンを外し始める。
「って、何考えてんだお前は!」
その手を急いで掴む。
こいつ、手に負えないほど酔ってるな!
「別にぃ、とーまさまならぁ・・・セニアも私も、構いませんよお?」
「何言ってんだ、酔っ払いが。ほら、さっさと寝ろ!」
余っているソファーに強引に横にさせると、何かぶつぶつ言っていたが。
そのぶつぶつは、いつの間にか寝息に変わっていた。
「心臓に悪い奴らだ・・・全く」
そう1人呟き、余ったウイスキーを呷る。
はぁ・・・女の子なんだから、もう少し身体を大切にして欲しいものだ。
しばらく、一人で飲んでいたが。
「・・・ん?」
転移用の竜の像の目が光っていた。
少し経つと、リルフェアの姿が光と共に現れた。
「トーマ、話が・・・って、あらあら」
酔いつぶれた面々を見るリルフェア。
地面に転がっている空瓶を見て苦笑していた。
「すまん、祝勝会の後だ」
「もう、水臭いわね。なんで、私達を呼ばなかったの?」
「いや、誘っていいのか?」
仮にも神様だ。
容易に誘えるような存在ではない。
「いいわよ、別に。あら・・・美味しそうなワインね」
開封済みの、半分残ったワインの匂いを嗅いでいる。
「飲むか?」
「ええ・・・と、その前に」
一つ咳を切ると、リルフェアは用件を話しだした。
「トーマ優勝おめでとう。それと、欲しいものは決まった?」
「ありがとう。いや、それが全然だな」
そう言いながら、俺はグラスにワインを注ぐ。
半分程度注ぎ、リルフェアにグラスを手渡した。
「ありがとね。その事で、提案があるのよ」
「提案・・・?」
手元に残ったウイスキーのグラスを回す俺。
一体、何の提案だ・・・?
「貴方、旅行に出てみない?」
「旅行?」
優勝賞品が、ゼローム国内の旅行か?
・・・だが、ラティリーズを放っておいて旅行は出来ない。
それは、リルフェア自身もよく分かってることだと思うが。
「冗談だろ?」
「ねえ、トーマ。私が冗談を言う女だと思う?」
「時と場合によっては」
「そうね、時と場合によっては・・・冗談を言うけど。
今の私、冗談を言っているように思える?」
真剣な眼差しで俺を見てくるリルフェア。
俺は、ウイスキーのグラスを机に置いた。
「・・・本気か?」
「ええ、どうかしら?」
「どうって言われても、な」
仲間を探すという、目的があるとはいえ。
今の立場を無視して一人気ままに旅行は出来ない。
ラティリーズの騎士として、護衛としてそれは失格だ。
「・・・話は有難い。俺にメンバーを探す機会を与えようとしてくれたんだろ?
だが、ラティリーズの護衛の件もある、俺は・・・」
「ふふ、真面目なのね。でも、大丈夫よ」
「?」
置いたウイスキーを持ち、中身を呷った。
空になり、中の氷がカランカランと音を立てた。
「ラティも、その旅には同行させるから」
「は?」
リルフェアを見る俺の顔は。
恐らく、信じられないという顔をしていただろう。
「聞いて、トーマ」
真剣な表情でそう呟くリルフェア。
「いい、ラティは私の娘で、この国の神なの。
そして、今、国を取り仕切っているのは私よ?」
「ああ、そうだな」
所謂、大御所政治というものだ。
「それじゃ、駄目なのよ。いつかは私も政治に関われなくなる。
その時に、ラティは一人ですべてを決定しなければいけない」
言いたいことは分かる。
確かに、今のラティリーズは受動的だ。
いや、受動的過ぎるくらいだ。
「一人じゃ何もできない、そんな状況にする訳にもいかないわ」
「じゃあ、どうする・・・って、だから旅行、つまり旅をさせるのか?」
経験を積ませるために。
確かに、いい刺激にはなるだろうが・・・。
「ええ、どうかしらトーマ」
「危険じゃ―――」
「知ってる、だから、貴方に頼んでいるのよ」
俺の手を掴んでくるリルフェア。
「これは2度とないチャンスなのよ、トーマ。
ヘルザード帝国とは休戦協定が結ばれる手筈だし、バルクも動く気配はない。
ラティが外を経験できる、またとないチャンスなの!」
握る手に、力が籠る。
「貴方がいれば、ラティが傷ついても平気よ。
いえ、傷つかなければ成長できない事だってある。
・・・私は、親としてラティには自分で決断できるようになってほしいのよ!」
力が籠り過ぎて、俺は押し倒されそうな体勢になった。
「わ、分かった!成長して欲しいのは分かった!」
「あ、ご、ごめんなさい」
食らいつくように話していたリルフェアが少し離れた。
「ああ、別にいい」
――――――――――――――――――――
落ち着き始めたリルフェアは俺の顔を見ると。
「お互いに身分を隠して旅をして欲しい」
そう言ってきた。
「・・・身分を隠すのか?」
「隠さないと、大騒ぎになるわ。
神が外を歩いているんだから、それも竜騎士と一緒にね」
「・・・」
確かに。
どちらの身分がばれても、大騒ぎになるだろう。
それに身分を隠せば、その分ラティリーズが狙われにくくなる。
「それで、どうかしら?一緒に、連れて行ってくれる?」
「・・・ラティリーズの為になるんだよな?」
「旅で得られる出会いと経験は、ラティを必ず成長させるわ」
成長、か。
「分かった、お互いの為になるんだよな?」
「いいの、トーマ?」
「ああ、俺は仲間を探せる、ラティリーズは成長が出来る。
それに旅と言うのも楽しそうだと、そう思ったからな」
「ふふ、ラティリーズと二人旅よ。
旅先で何が起きても、私は文句は言わないわ」
「・・・」
男女で二人旅。
旅先で何が起きるか分からない。
つまり・・・。
「おい!」
「ふふ、ラティが『優勝賞品』じゃ、不満かしら?」
「娘を賞品にするんじゃない!」
「怒られちゃったわね」
そう言うって舌を少し出すリルフェア。
「まったく。だが、自由に仲間を探せるのなら俺には十分な『優勝賞品』だ。
・・・で、ラティリーズの替え玉はいるのか?」
「替え玉、そうね」
曲がりなりにも『神様』。
カテドラルからいなくなるという事は避けなければならない。
つまり、本人を旅に出すのなら、替え玉を用意する必要がある。
身分を隠すという事もあるし、必須だろう。
「ええ、考えているわ。それは任せて」
リルフェアはそう言うと、にっこり笑った。
――――――――――――――――――――
しばらく二人で飲んでいたが。
体が熱くなったのか、リルフェアは手で顔を仰ぎ始めた。
「熱いわね・・・」
「飲み過ぎたからじゃないのか?」
露出がそこそこ高いリルフェアのドレス。
その露出された肌に汗が伝う。
「ええ、酔いが回ってきたようね。
話したいことも話したし、戻るわ」
そう言って、腰を上げる。
まだ封を開けていないワインを何本か持ち、リルフェアに手渡した。
「いいの?」
「ああ、腐るほどあるからな」
「じゃあ、お言葉に甘えて・・・それじゃ、お休みトーマ。
優勝、おめでとうね」
「ああ、また、明日な」
小さく手を振り、竜の像に触れるリルフェア。
彼女を光が包むと、一瞬で彼女の姿が消えた。
今の時間は・・・天辺を過ぎていた。
「俺も寝るか・・・」
最後に、ソファーに寝ている奴らの毛布を直して、俺も寝ることにした。
ベッドに横になり、色々考える。
「仲間探しの旅か」
色々、問題は山積みだが。
御前試合も終わったのだ、これからの事は後で考えよう。
そう思い、俺はベッドに頭を付けた。
仲間達は無事だろうか、そう思いながら意識は次第に薄くなっていった。
読んで下さり、ありがとうございました。




