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7話

ミノタウロスに向かって投げたナイフ。

それはミノタウロスの眉間に命中した。

一撃で絶命したようで、そのままミノタウロスは倒れ、

下に転がっている兵士は助けることができたみたいだ。


死体に近づき、眉間のナイフを引き抜く。

それと共に、ミノタウロスの血がナイフに付着し、先から血が垂れている。

・・・。


ここはEOSじゃない。

この血の生々しさといい、ミノタウロスの死体といい。

・・・現実そのもの、だ。

周りで死んでいる兵士の死体も、その実感を強くさせた。


俺達は本当に異世界に来てしまったのだろう。

この先どうなるかも、今は分からない。

・・・だからこそ、今は目の前の事に集中しよう。


ナイフの血を拭いながら、考える。

このナイフ自体、そこまで強い武器ではない。

EOSなら、HPが1割も削れないほどの攻撃だ。

・・・つまり、目の前のミノタウロスは、思った以上に弱いということになる。



「ブォォォォ!」


仲間を殺されたからか。

それとも、自分を奮い立たせる為か。

目の前のミノタウロスは、地面が揺れるほどの低い声を上げた。


「来い」


左手の指をクイクイ動かし、ミノタウロスを挑発する。

俺の挑発を理解したのか、目の前のミノタウロス1体が

ポールアクスを振り回しながら突進して来る。


・・・目の前まで迫るミノタウロス。

射程内と見たのか、斧を振り下ろしてきた。

身体を少し横に動かす。

斧の風切り音が耳に響き、風圧が肌を掠める。

斧は、俺の左側ギリギリに落ちた。


武器を全力で振り落とせば、次の攻撃までの隙が生じる。

それは人間だって、モンスターだって同じだ。


そして今、目の前にいるミノタウロスは・・・それをやった。

死に体を晒すミノタウロスは、振り下ろした斧を再度構えようとするが・・・

その隙が許されるほど、勝負は甘くない。


右手で貫手の形を作り、ミノタウロスの鳩尾を狙う。

貫手が、ミノタウロスの鳩尾に深くめり込み、突き刺さる。

肉を割く感触が、手に伝わってくる。


腹を貫通して、背中まで突き出した右手。

同時に、ミノタウロスの力が抜け、俺に覆いかぶさる。


手を引き抜き、覆いかぶさったミノタウロスをその場に寝かせた。

低いうめき声を上げながら、ミノタウロスは胸を押さえていた。

流石の生命力だ、心臓付近を貫いたつもりだったが。

だが、これで戦闘はもうできないはずだ。


倒れたミノタウロスは、押さえていない手を動かしていた。

反撃するつもりかと思い構えるが・・・。


仲間のミノタウロスに助けを求めるように、その手を仲間の方に向けている。

しかし・・・その仲間、残ったミノタウロスは。

怯えたのか、こっちに向かってくる気配が無い。


「・・・」


どうするのか、俺はじっと見ていた。

すると、目の前のミノタウロスが踵を返した。

怯えたのか、足元はおぼつかず、こけそうになりながらも逃げだす。


・・・足元に転がるミノタウロスは、その姿を見て、悲し気に(いなな)くと、

片手を地面に落とし、絶命した。


「味方を見捨てて逃げる・・・か」


地面に転がる兵士たちを見る。

こいつらは・・・最後まで戦った。

そして、今治療している奴は・・・最後まで戦おうとした。


「仲間を見捨てる・・・馬鹿がいるか!!」


背中の槍を引き抜き、やり投げの要領でぶん投げる。

ビュゥっと音を立てて、槍は直線に進んでいく。

遠くに逃げるミノタウロスの胸を後ろから貫くと、槍はそのまま貫通し、飛んでいった。


「戻れ」


そう一言呟くと、何事もなかったかのように槍が手元に出現した。


・・・仲間を見捨てるのは最低の行為だ。

例え、どんな状況でも・・・自分の命が危うくなるとしても。


仲間を助ける意思を見せる・・・そういうものじゃないのか?


――――――――――――――――――――


終わったと悟ったのか、八霧(やぎり)がこっちに来る。


「・・・便利だね、その槍」


「セラエーノに開発してもらった『グングニール』もどきだ」


「なるほど、投げたら絶対に命中して、手元に戻る・・・へぇ」


理解が早くて助かる。

セラエーノの自信作の一つだ。


八霧が手当てに戻る。

プリラがいたら、楽に済むのだが。

いないものの名を言ってもしょうがない、か。

今は、今いる人材で何とかしなければいけない。


――――――――――――――――――――


俺は・・・。

夢を見ているのか?


目の前の男・・・白銀色の鎧を着た男はナイフ一本でミノタウロスを倒した。

・・・それだけじゃない。

素手で倒し・・・逃げるミノタウロスも一撃で葬り去った。


白銀の騎士・・・。

御伽話で出てくるような、出で立ちと強さ。

俺は・・・俺は・・・。


治療されていることも忘れ、頭を地面に付けた。


「頼む・・・姫を・・・助けてくれ!」


そう言い放ち、地面に頭をこすりつける。

痛む体を気にせず、俺は頭を下げ続けた。


「あの方は、我々の最後の希望・・・!どうか・・・!」


「・・・」


男からの答えはない。

しかし、誰かが歩み寄る音が聞こえる。


「頭を上げてくれ、俺は・・・頭を下げてまで頼まれるほど、立派な男じゃない」


「それに、姫さま?なら、神威(かむい)が助けに行ったから、大丈夫だと思うけど」


横からの声に、顔を向ける

・・・少女が俺の顔を覗いていた。


――――――――――――――――――――


その頃、森の中では。

先ほど逃げた、姫騎士とそれにしがみついていた少女。

男の騎士が森を抜けて、自国の領地を目指して逃げていた。


追手の姿は見えない・・・が。

気配はすぐそこまで迫っていると直感する騎士。


「・・・姫様、どうやら・・・ここまでのようです」


木陰から、何者かがこちらを覗く。

その影は、3人をぐるりと囲む様に、姿を現した。


「女の子・・・!?いや、しかし・・・!」


騎士の男が剣を引き抜く。

彼らの周りには・・・同じ顔をした少女たちが取り囲んでいた。


「貴様ら・・・魔王の手先か・・・!」


二人の女性を庇いつつ、周りを警戒する。

しかし、意に介さずに、その中の1人が騎士の前まで歩いてくる。


「・・・見つけた、助ける」


「助け・・・いや、貴様は魔王の手先だろう!」


剣を振り上げる。

その様子を見た少女は、周りを見て。


「・・・2号、3号、4号。拘束、連れてく」


そう言い放つと。


「きゃあ・・・!」


「!」


騎士の後ろの二人が、周りにいた少女のうちの2人に羽交い絞めにされていた。


「ひ、姫!」


そして、助けに向かおうとした騎士も後ろから羽交い絞めにされる。


「この・・・!く・・・!?」


振り解こうともがくが。

・・・その力は想像を超えていた。


目の前の少女とそっくりな少女たちは。

その華奢な見た目とは裏腹に、物凄い力で押さえつけてくる。

大の男が動けない程に。


何故、背の低い少女が大人の男を羽交い絞めに出来ているかと、不思議に思う騎士だったが。

後ろの少女の足が浮いていた・・・魔法で浮遊しているようだ。


「・・・アレン、抵抗は止めましょう。こうなったら、何も出来ないわ」


姫があきらめたようにそう言う。


「姫・・・!しかし・・・!」


「・・・連れてく」


少女がそう一言呟くと、羽交い絞めにされたまま、どこかへと移動させられる。

移動すると同時に、周りを囲んでいた少女たちが、整列して後をついてくる。

訓練された軍よりも正確に、そして綺麗に行進している。


「・・・姫、申し訳ありません」


「いいのよ、敗残の姫・・・こうなることは覚悟していたわ」


そういうと、自分にしがみついていた少女を見る。


「ごめんなさい、セシル。貴方だけは逃がすつもりだったんだけど」


「・・・姉様、私も、王族です。・・・覚悟は・・・」




3人を引き連れながら、少女は歩いていく。

自分の任務を果たした、その満足感に浸りながら。


読んで下さり、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 設定が面白そうなところ。 [気になる点] ・兵士たちがミノタウロスに殺されているのに、主人公側の助けようとする意志の描写が全くないため、人が殺されてるのに何も感じてないサイコパス集団に見え…
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