58話
ゴルム団長に鉄槌が下ります。
「ひひひひ・・・これで、俺の罪は帳消しだ」
俺は小さくガッツポーズを作る。
これで団長の座は守れる。
憲兵隊の隊長の一人が俺の仲間で助かった。
お陰で、隠し忘れた女の方は、うやむやにできた。
・・・後は事実を知る者、嗅ぎ回った者の始末だ。
それも今、目の前で片付いた。
「・・・団長、リルフェア様の事はどう片付けるおつもりだ?」
隣の聖堂騎士、憲兵隊の隊長がそう聞いてくる。
・・・確かに、リルフェアがここに来たのは想定外だった。
しかし、好都合でもあった。
アイツがいなくなれば・・・奴の娘、ラティリーズは情弱。
聖堂騎士団長である俺の意のままに操ることも簡単だろう。
そうなればゼローム皇国は俺の物も同然。
この国が、俺の意のままになる・・・!
「なぁに、事故で元宝物庫に閉じ込められ・・・餓死したとでも言えばいい。
ここを知っているのは王族と、一部の者だけなのだからな?」
誰にも気づかれまい。
基本的に王族以外はここを知らないのだ。
つまり、中で誰が死のうが気づかないという事だ。
仮に気づいたとしても、大分経ってからだろう。
数十年後か数百年後かは知らないけどな。
「し、しかし・・・いいんでしょうか?
リルフェア様は前とは言え、神です・・・罰が当たらないでしょうか?」
扉を閉めた、聖堂騎士が声を上げる。
その声は震えていた。
俺は忌々し気に、喋った聖堂騎士の方を向いた。
「・・・俺が罷免になった方が、お前らへの影響がデカいぞ?
実力も、家柄もそこまでよくないお前たちが・・・どうして聖堂騎士になれた?」
周りの聖堂騎士が、一斉に黙る。
ここにいる奴らは、俺のお陰で聖堂騎士入り出来た奴ばかり。
その中には、憲兵もいる。
聖堂騎士になるには、実力と家柄などが優れていないといけない・・・が。
団長である俺に、入団の是非を任せられる場合がある。
つまり俺に選ばれれば、聖堂騎士になれるという事だ。
そして・・・ここにいる奴らは、その『選ばれた』奴らだ。
まあその際に、ちょっとの賄賂も支払って貰ってはいるがな。
「それでいい、俺がいる限り・・・お前らも安泰という訳だ・・・はっはっは!」
高笑いをする俺。
目の前の扉は内側からは絶対に開かない。
宝物庫の扉という事もあって、破壊するのはほぼ不可能。
それこそ、ミノタウロス以上の化け物でもない限りは。
「はっはっは・・・は?」
扉の向こう側から、音が響く。
何かを打ち付けるような音が・・・耳に響いてくる。
「なんだ、この音は・・・?」
――――――――――――――――――――
少し前。
宝物庫の中に閉じ込められた4人は、宝物庫の扉の前に立っていた。
「しくじったわ・・・憲兵にも顔が利くことを考えておくべきだったわね」
リルフェアが、何度か扉を叩くが。
びくともしない。
「罠ですか?・・・彼が仕組んだ」
オリビアがそうリルフェアに尋ねる。
リルフェアは、オリビアの顔を見ると壁にもたれ掛かった。
「恐らくね・・・私の事を煙たがっていたし。
自分にとって臭いものに蓋をしたかったのでしょうけど」
今の場合は、ゼフィラスの妹を誘拐したという事実。
そして、その捜索をしていた私達を捕まえるという事。
両方が、今罠にかかって閉じ込められ・・・蓋をされたという事だ。
「ですが・・・リルフェア様はこの国の前の神・・・なのでしょう?
いなくなったと分かったら、一大事になると思うのですが」
「そこまで、頭は回ってないんじゃない?あの豚・・・頭悪そうだし」
べリーゼは口悪くそう吐き捨てた。
「言う通りね・・・ふふ」
思わず笑ってしまうリルフェア。
「まあ、私を消せば・・・ラティを意のままに操れるとでも思ったんでしょう?
確かにラティは世間にも疎い部分はあるけど・・・馬鹿ではないわ。
そう簡単に、この国を操れると思ったら大間違いよ」
そう言うと、壁に持たれかけていた体勢を元に戻した。
そして、胸の前で拳を握る。
「っと、話してる場合じゃないわね・・・出る方法を考えないと」
そう言うと、宝物庫の壁を触るリルフェア。
重厚な扉と同様、宝物庫の壁も頑丈なものだ。
「元宝物庫という事もあって、出る方法なんてないはずなんだけどね。
失敗したわ・・・こうなるのなら、ラティに行き先を伝えておくべきだったわね」
誰も、ここに行くという事を他の人に言っていなかった。
ただ・・・神威一人は、セニアには大雑把だが伝えていた。
だが、その情報だけでここを特定することは無理だろう。
すると、扉を触っていたオリビアが、あることを言い放つ。
「・・・リルフェア様、蹴破ってもよろしいでしょうか?」
リルフェアに尋ねるように、扉を触りながらそう言うオリビア。
「蹴破るって・・・ここは元とは言え宝物庫よ?
この扉だって、ミノタウロスでさえ破れない程の頑強なものよ」
「私の能力をもってすれば、簡単に破壊できますが?」
何の感情も無いような表情でそう言うオリビア。
その言葉を聞いて、神威を見るリルフェア。
「本当なの?」
「能力だけなら、ミノタウロスを圧倒できる・・・はず」
EOS基準でだが、オリビアの能力は野生のミノタウロス以上。
その最上位種であるミノタウロスキングでも倒せる能力値だ。
「・・・よろしいでしょうか?」
再度、リルフェアに尋ねるオリビア。
蹴破っても、という事だろう。
「ええ、構わないわ・・・後で直せばいい話だし」
「分かりました、では」
鉄扉の前に立つオリビア。
大きく息を、一つ吸うと。
「はあぁ!」
綺麗な回し蹴りが、鉄扉に直撃する。
ガアァァァンと扉が大きな音を上げる。
回し蹴りで捲れた、メイド服のスカートを手で直すオリビア。
「なるほど、確かに硬いですね」
だが、オリビアの蹴った部分は・・・多少だが変形していた。
「嘘・・・本当にミノタウロス以上なのね」
2発目の蹴りが鉄扉に入る。
また大きな音が宝物庫内に響く。
先ほどよりもひしゃげ、目に見えて変形する鉄扉。
「耳、塞いだ方がいい」
そう言って、両手で耳を押さえる神威。
それに続くように、リルフェアも両耳を押さえる。
「本当に、この世界の住人じゃないのね」
そこそこの大声で話すリルフェア。
「信じて、無かった?」
言葉を返す神威の声も多少大声になる。
「いえ、身をもって実感したのよ。
彼女みたいに細い身体の女性が・・・あの重厚な鉄扉を壊しているのだもの」
3発目が扉に衝突する。
ひしゃげ方がかなり進展し、扉の向こう側の光が見え始めた。
その向こうに見えるのは・・・ゴルムの怯えるような顔。
その周りの聖堂騎士達も、腰を抜かしていた。
「はあ!!」
オリビアが渾身の力で最後の回し蹴りを扉に食らわせると。
扉が吹き飛び、向こう側の壁にめり込んだ。
「はしたない恰好でしたね、失礼」
そう言って、目の前の腰を抜かす男達に丁寧に一礼する。
オリビアのロングスカートがふわりと揺れた。
「な、なな・・・貴様、何者・・・!?」
――――――――――――――――――――
腰を抜かした聖堂騎士達が地面に尻を付けている。
それだけ、オリビアの行動に驚いたのだろう。
まあ・・・反対側の壁に宝物庫の重厚な鉄扉がめり込んでいるのだ。
あの脚力で、蹴られたら・・・と考えると恐怖も覚えるだろう。
「さあ・・・ゴルム、言い訳はあるかしら?」
リルフェアは腰に手を置くと、怒った様子でゴルムに詰め寄った。
そのリルフェアの様子を見て、後ずさるゴルム。
後ろを何度か確認し、階段の方向へと身体を動かすが。
「どこへ行くのだ、ゴルム団長」
「ぬぅ!?」
階段の上から声がした。
ゴルムが目線をそちらに向けると。
腕を組み、仁王立ちしているイグニスが階段の上からゴルムを見下ろしていた。
そして、その後ろではトリスがイグニスに付き従っていた。
「い、イグニス・・・何故、貴様がここに!?」
「父上の資料を漁っていたら、ここの地図を見つけた。
それで、来てみれば・・・当たりのようだな」
ゴルムと、周りの聖堂騎士達を見るイグニス。
その目は、侮蔑と怒りで満ちていた。
「話は聞かせてもらったぞ・・・団長、いや・・・この、獅子身中の虫共が!」
腰の剣を引き抜くと、イグニスは階段を降り始める。
「ジーク元団長の功績もあり、今まで見逃していた部分もあるが。
もはや・・・許せぬ所まで踏み込んだな、ゴルム!」
「ひぃ・・・くそ!お前達、俺を守れ!」
周りの聖堂騎士にそう言葉を投げるが。
オリビアの行動を見て、腰を抜かしたままゴルムの顔を眺めるだけだった。
「貴方を守る人物はいないようですね」
オリビアがそう告げる。
ゴルムがオリビアを見るが、その目は恐怖で染まっていた。
そのゴルムの様子と、指の骨を鳴らしながら彼に近づくべリーゼ。
鬼のような形相のイグニスを見たリルフェアは。
「べリーゼ、イグニス。私が許可するわ。
・・・存分に痛めつけなさい」
そう、許可を出した。
「ご命令とあれば」
「言われなくとも・・・!」
二人が、ゴルム一行に近づいていく。
男達の悲鳴が、地下に響き渡った。
――――――――――――――――――――
「あ、あの・・・リルフェア様」
イグニスの後ろについてきたトリスが、リルフェアの傍まで歩いてきた。
「どうかしたの、トリス?」
「団長は、どうなるのでしょうか・・・?」
「命は取らないわ・・・その代わり、二度とカテドラルには入れない。
騎士団からは追放するし、彼の仲間も同様の処置を取るわ」
トリスの目線が、ゴルムに向く。
べリーゼの鉄拳が、ゴルムに制裁を加えている所だった。
「では、イグニス様が次期団長に?」
「ええ・・・副団長はゼフィラスになるかしらね」
聖堂騎士団は活躍と功績がものをいう世界。
そういう意味では、次期副団長はゼフィラスだ。
トーマは実力と人格は一流だと思うが、功績がほとんどない。
つまり、ゼフィラスを差し置いてトーマを副団長に上げるわけにはいかない。
「・・・エマのこともあるけど、彼女もゼフィラスなら納得するでしょう」
もう一人の聖騎士、エマの事を思い出す。
彼女も、ゼフィラスの人格と腕は認めている。
勝手に副団長に上げても、文句は言わないだろう。
「それに・・・彼にも、何かしらの恩賞を与えないと」
トーマだ。
彼がいなければ、ゴルムはこの事件を完全に葬り去っていただろう。
ゼフィラスの妹を拉致し、ゼフィラスを意のままに操り。
そして、私達に危害を加えた可能性もある。
「まあ、それは御前試合が終わってから考えましょうか」
「?」
何の話だろうと、首を傾げるトリス。
「何でもないわ」
そう言って、リルフェアは首を振った。
読んで下さり、ありがとうございました。




