56話
俺達の戦いが終わると同時に、4回戦の試合の準備が始まる。
俺は、倒れたフェイに肩を貸して、控室まで戻ってきた。
「悪いな・・・」
「気にするな、困った時はお互い様だ」
そう言って、控室の脇のベッドに寝かせた。
「しかし・・・俺の魔力が返されるほどの魔法防御力とはね・・・」
「重装備だから魔法に弱いというのは、偏見だぞ」
「はは・・・そう思うよ」
そう言うと、ベッドに横になったフェイは寝息を立て始めた。
魔法防御力が一定以上だと、相手の魔力を弾き返せるようになる。
フェイの魔力が弾き返されたのは、恐らくそのせいだろう。
ただし、それは相手の魔力よりも自分の防御力が上回っている時のみだ。
俺も、Gさんに使われたら大ダメージを受けるだろう。
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寝たフェイを見て、もう大丈夫だろうとその場を去ろうとした時。
真横から気配を感じた。
そちらを見ると、カロが立っていた。
「・・・見事だったぞ、トーマ殿」
「そうか?」
「ああ・・・次に戦えるとしたら、楽しみな位にな」
カロは俺に一礼すると、ゼフィラスの元へと歩いていった。
楽しみ、か。
・・・だが、相手はゼフィラスだ。
カロは、どれだけ善戦できるのだろうか。
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歓声に包まれる闘技場内。
私と目の前の奇妙な衣装を着た男が向かい合う。
名前は、カロ・・・だったか。
「では、第3試合・・・開始!」
中央に立っていた審判がそう叫ぶ。
それにワンテンポ遅れ、カロが一礼した。
「ゼフィラス殿、貴殿と戦える事・・・光栄に思うぞ」
カロが、自身の武器を構える・・・鞘に入れたままで。
居合斬りの構えと呼ばれる、その構え。
こちらの肌にまで届く、カロの殺気。
ピリピリとした独特の空気が、お互いの間に生まれ始める。
「・・・」
こちらも、剣を顔の横に構えた。
「ほう・・・?」
一瞬、カロが驚いた表情を見せた。
「なるほど、居合と真っ向勝負・・・という訳か」
私の構える剣を見て、そう言うカロ。
こちらの武器は、ただのロングソードだ。
だが、居合斬りも神速という訳ではない。
・・・見えれば、立ち合う事も可能のはず。
「しかし、不利ではないか・・・ゼフィラス殿?」
カロの言う通り。
こちらの方が不利だ。
居合斬りという一撃必殺の威力を持つ構え。
こちらが先に仕掛ければ、反撃で胴を抜かれるだろう。
逆に、彼の攻撃を待つという状況も不利だ。
タイミングは、相手が握っている。
「不利を補うのが、『修練』。そうじゃないか、カロ?」
なるほど、とカロが一言呟く。
その顔は嬉しそうにも見えた。
そして居合斬りの構えのまま、ゆっくりと足を動かす。
どちらが勝つにせよ、勝負は一瞬のうちに決まるだろう。
じりじりと、ゆっくりながらも確実に間合いを詰めるカロ。
そのカロに合わせるように、こちらも動く。
「・・・」
無言ながらも、カロの額には大粒の汗が見える。
私も汗が額辺りから垂れ始める。
会場もその空気に飲まれたのか、声を上げる者もいなくなった。
カロの鞘を掴む左手が動く。
親指を立て、刀の鍔を押していた。
(来る・・・!)
こちらもその動作に合わせ、構えたままのロングソードで突く。
カロの刀とロングソードが、衝突する。
金属音が鳴り、火花が飛び散る。
居合斬りの際に起こった風が、私とカロを包んだ。
結果として、逆袈裟斬りをしようとしたカロの一閃を、
ロングソードの突きで妨害した状態だ。
居合斬りを受け止めたロングソードは腕ごと大きく弾かれた。
「っ・・・早いな」
構えを戻す。
「なるほど、そこまでの修練を」
カロが、自分の刀を見る。
ロングソードとぶつかった部分が、欠けていた。
こちらのロングソードも、刀と当たった部分が欠けていた。
・・・だが、次に同じ場所に受ければ、先に折れるのはこちらの剣だろう。
それほど、ロングソードの損傷の方がひどい。
「流石は『聖騎士』殿。ならば・・・私も奥義を持って答えねば」
カロが刀を鞘にしまうと・・・再度、居合斬りの構えを取る。
だが、先ほどとは違う。
明確な、場を支配するほどの殺気が身体を襲う。
「そうか・・・奥義か」
ならば、こちらも答えねば。
背中の大剣の持ち手を持つ。
「ほう・・・聖剣を引き抜くか・・・ふふ、私もそれ相応という事か」
嬉しそうに笑うカロ。
目は殺気に満ちていたが・・・心底嬉しそうな様子だ。
「言っておくが・・・聖剣を抜けば、待っているのは死だぞ?」
「覚悟の上」
柄を握るカロの右腕に血管が浮かぶ。
そうか、覚悟の上・・・か。
聖剣を引き抜くと、その刀身が露わになった。
青く輝くその刀身と、彫られたルーン文字が光る。
そして、全身に力がみなぎる感覚が頭を支配する。
「なるほど・・・聖剣『トワイライト』か。美しい剣だ・・・」
聖剣をカロに向ける。
「引き抜いた以上は、分かるな」
「ああ・・・!」
刀を握る右腕は、血管が破裂するのではないかというほど、浮き出ている。
カロの足元も力を籠めているからか、足先近くの地面がえぐれ始める。
こちらも、聖剣を肩に担いで構える。
「・・・奥義『飛燕斬』!」
先ほどと同様に、カロの親指が動く。
そのタイミングに合わせ、聖剣を刀の軌道に合わせて振る。
カロの引き抜いた刀の速度は先ほどの非じゃない程の速さで、こちらの脇腹を狙う。
だが、その軌道は読み通りだった。
真正面から、ぶつかり合う聖剣と刀。
お互いの腕が、最後まで振り切られる。
「・・・なるほど」
感嘆するように、そう呟いたカロ。
カロの握る刀の先が折れ、刃先は上空に舞っていた。
同時に、カロの胸部からは大量の血が噴き出した。
「聖剣・・・伊達では・・・」
両膝を付き、その場に倒れるカロ。
薄れゆく意識の中、彼は・・・私の聖剣を見ていた。
「ない・・・な」
折れた刀の刃先が、地面に落ちる。
その空しい音が闘技場内に響く。
審判が、倒れたカロに近づく。
そしてその顔を覗いた。
「・・・勝者、ゼフィラス!」
審判のその声に合わせるように、私はカロに一礼した。
現状を、一瞬でも忘れさせてくれた彼に・・・感謝した。
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3回戦終了後、すぐにカロが控室に運ばれて来る。
ベッドに横にされるカロ。
ゼフィラスはそのカロを一目見ると、控室から出て行った。
「ゼフィラスさん!途中で抜けるのは・・・原則禁止ですよ!」
審判の一人が、その後を追っていった。
それを横目で見た八霧が、カロの応急手当ての手伝いを始めた。
しばらく目を覚まさなかったので、焦り始める救護班のプリーストと八霧。
それでも、懸命に腕を動かし治療を続けている。
「カロさん!」
その八霧の呼びかけに、薄く目を開けるカロ。
指先も、ピクリと動いた。
「・・・ああ、私は・・・」
自分の斬られた部分を弱々しく、指でなぞるカロ。
その手を制止する八霧。
「駄目だよ、動いちゃ」
「ああ・・・すまぬ」
八霧に怒られると、手をベッドの上に戻した。
「凄まじい攻撃だ・・・私の奥義を・・・そして刀を折るとは」
自分の寝るベッドの隣に立てかけてある鞘。
そして、その隣の机には、折れた刀が置かれていた。
「業物みたいだが、高かったんじゃないか?」
俺はカロに近づくと、そう聞いた。
「ああ、家宝だ。・・・それも、何代も前からの」
カロが上半身を少しだけ起こす。
その体勢で、机の上の刀を見た。
「あの刀を作った刀匠はすでに亡くなっている」
そうか、直すのは難しそうだな。
EOSでも、刀を作るのも直すのも、相当な技術とスキルが必要だ。
「セラエーノさんがいれば、直せるかもしれないけどね」
「・・・あいつに任せると、とんでもないことになるぞ?」
少なくとも、原型を留めない程の改造をする可能性がある。
本人は改良と言うが、他人から見れば魔改造だ。
だが・・・まあ、当人の意向には沿って作ってくれる奴だ。
頼み方さえ間違えなければ、だが。
「その、セラエーノという人物は・・・鍛冶屋なのか?」
カロがそこに食いついてきた。
「ああ、俺の知る中では最高の鍛冶屋だ、が・・・」
「そうか・・・この刀を直してもらいたいのだが?」
机の上の刀を見るカロ。
だが、当人がここにいない。
「・・・今ここにはいないんだ、はぐれてしまってな」
それを聞いたカロは少し残念そうな表情をした。
こっちも、申し訳なくなる。
「・・・そうか、それは残念だな」
「俺達も探しているんだが、情報が全くなくてな」
御前試合が終わり、落ち着き次第本格的に探そうとは思っているが。
見つかるかどうかは、未だ分からない。
「それは、心配だな・・・よし、私も今後武者修行をする予定だ。
その際に見かけたら、貴殿の事を伝えておこう」
カロはそう言ってくれる。
それは、助かる。
探す人が一人でも増えれば、見つかる可能性は高くなる。
「そうか、ありがとう。・・・なら、これを持って行ってくれ」
そう言って、紙を取り出す。
紙にあることを書き、俺のサインとヘルフレイムの紋章を最後に書く。
その紙を小袋に入れ、カロに手渡した。
「これは?」
「セラエーノに見せれば、俺が探していたって信じてくれるものだ。
それに、その刀を無料で直してくれるはずだ」
「・・・分かった、受け取っておこう」
小袋を机の上に置くカロ。
・・・これで、カロが見つけてくれれば、こちらの探す手間も省けるが。
まあ、それは・・・保険程度に考えておこう。
読んで下さり、ありがとうございました。




