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5話

22時25分。

あと5分でギルド同士のバトル(GVG)が開始される。

現場はかなりピリピリ・・・というより。

ヘルフレイムの奴らの罵声が響いている。

ガラが悪い・・・見限って正解だったかもしれん。



俺たち3人は、巻き込まれない様に多少離れた位置で見学している。

彼らは平野で睨みあうように布陣しているが、俺たちは小高い丘の上だ。

小柄な八霧(やぎり)は互いのギルドの様子をメモしていた。


「・・・まめな奴だ」


「それが、八霧のいいところじゃないか」


俺たちの後ろから声と足音が聞こえる。

・・・聞いたことのある落ち着いた声。


「テネス」


「やあ、昨日ぶり、トーマさん」


銀髪の優男が立っていた。

しかし、その当人よりも気になった事がある。


「何故、錬金術師の服を着ている・・・?」


しかも、八霧とお揃いだ。

いつもは建築スキルを底上げするために、スキルスロットが多い布の服を着ているのに。


「いやー・・・()()()()はセラエーノに強化してもらってる最中なんですよ」


そう言いながら、頭を掻いている。


この細目の優男こそ、古参の1人テネスだ。

残っているメンバーの中では俺の次に長く在籍している。

俺たちがギルドを作ってから・・・3年目に入ったから、もう12年もいるのか。


「この姿、結構似合ってるでしょう?」


「・・・八霧と並ぶと親子か兄妹に見えるが」


格好が同じ、背丈もそこそこ違う。

それに中の人はテネスの方が年上。


「そうですか?」


若干嬉しそうだ。

まあテネスと八霧は仲がいいからな。


「・・・お前の方がLvが低いのはおかしく見えるがな?」


八霧はLv200で、テネスはLv109。

プレイ時間を考えても、テネスは低すぎる。


「まあ、私は建築専門ですので」


ああ、そうだった。

スキルも全て、クラフト系に回した専門職だ。

ギルドの拠点は彼の作品の一つだしな。


「じゃあ、私は鍛冶専門ね」


・・・また聞きなれた声。

振り向くと、ブロンドのくせっ毛ショートヘアーの少女が立っていた。

手には大型のハンマー。


「おや、セラエーノ。私の服の強化は順調ですか?」


「無茶言わないでよ、私のハンマーじゃ布系の防具は鍛えづらいんだから」


そういって、肩に担いでいるハンマーを振る。


この子がギルド一の『熟練鍛冶師(ブラックスミス)』、セラエーノ。

その名前の通り、クトゥルフ神話が大好きな女の子・・・なんだが。

作る武器が独創的で、それがギルダーの「ダサい」発言に直結した。

まあ、普通の武器を最高級武器に打ち直すことができるほどの腕は持っている。


それに独創的だとは言え、画期的な物も作る。

俺は素直に尊敬するが・・・。


「や、トーマさん」


「おう」


手を上げてきたのでハイタッチする。

しかし、ガテン系の工事のおっちゃんみたいな格好はどうにかならんのか・・・。

胸がデカいので目のやり場に困る。


「あの、セラエーノさん、こんにちは」


「うん、エリサもこんにちは。八霧も・・・って、集中してるのか」


テネスにも、セラエーノにも気づいていない。

GVGの様子をずっと観察している。


全員が八霧を見ていると、後ろから足音が二つして来た。

これは・・・


「あら・・・ちょっと遅れちゃったかしら?」


「・・・そうみたい、ちょっと、罪悪感」


・・・古参勢、最後の二人が現れたようだ。


聖職者の服・・・神官(プリースト)の初期装備を着る女性がプリラだ。

おっとりした性格で、古参勢の中の女性陣では一番の年上。

ただ・・・彼女は下位職である神官(プリースト)に並々ならぬ愛着がある。

今着ている初期装備の服だって、課金してまで改造しているくらいだ。

・・・まあ、俺も課金については人の事は言えないが。


もう1人、神威(かむい)人形師(ドールマスター)

人形は自分自身と同じ能力を持つ分身・・・それを操って戦う職業だ。

彼女の場合はスキルも全て人形系に捧げており、

自分以上の能力を持つ人形を複数操ることができる。


古参勢の中では、八霧と同じくらいの背で。

格好はいわゆるゴスロリ、ロリコンがいたら飛びつくくらいの美少女だ。

・・・前に、一人粗相を働いた奴がいたが、俺が鉄拳制裁した。



『トーマ』、『エリサ』、『八霧』、『テネス』、『セラエーノ』、

『プリラ』、『神威』。


いわゆる、古参勢全員が集まった。

普段はGVGに誘われたって来ないような奴もいる。

なのに、今回は全員が揃った。


・・・シンクロニシティのような何かを感じる。

この後、何か起きるんじゃないかと虫の知らせがするのだが・・・。


――――――――――――――――――――


7人が集まり、自分たちのギルドを遠目で見守る。

まだ2分くらいあるな・・・時計がずれてなければ。

しかし、まだ罵声が聞こえてくる。

・・・ノーマナーの奴らも飽きないな。


「あら・・・エリサちゃん、Lv上がったのね?」


「はい!・・・3くらいですけど」


「そう、偉い偉い」


・・・プリラがエリサの頭を撫でている。

プリラは、エリサを気に入っているらしく、いつもあんな感じだ。


「Lvと言えば、トーマさん」


「なんだ、八霧?」


「・・・そのLvにするの、どれくらいかかったの?」


昔の話を聞いてくるな・・・。

ええっと・・・。


「249から250にするのに1か月半かかった。これでいいか?」


「うわ・・・意外にかかるね・・・トーマさんでそれくらいなんだから。

 ・・・僕はこれ以上は無理かな」


「そんなことないぞ、お前は努力家だ」


そう言って頭を撫でてやる。


「いずれ、俺と同じLvになるさ。ゆっくりやれば―――」


『ヘルフレイム』と『白銀の大剣』の方から激しい音が聞こえ、光が見える。

GVGが始まったのか、と顔を向ける。


目の前に広がったのは・・・虚空に向かって武器を振るギルドメンバーたちだった。

魔法も、明後日の方向に飛ばしている。

・・・それは、相手の『白銀の大剣』も同様だ。


「様子がおかしいよ・・・?」


「ああ」


気になる。

もしかしたら、何か起きたんじゃないかと。

急いで、二つのグループへと近づいた。


――――――――――――――――――――


小高い丘から平野へと走る。

俺に続くように、6人も続いた。


「何があった?」


「おっさん?・・・ああ、何が起きてのかわかんねえんだ!」


俺を一瞬見ると、ギルダーは頭を押さえてその場に座り込んだ。


「何?」


他のギルドメンバーを見る。

全員、何もない空間に武器や魔法を振ったり、撃ったりしている。

まるで気が狂ったかのように。


「おっさんだって・・・見えないんじゃないのか!」


「・・・何が・・・」


ふと、視界にノイズが走る。

これは、ネット回線が不調になった時の合図だ。

だが、いつもと・・・違う。

いつもなら、不調になると同時に強制終了するはずのシステムが反応してない。


次々と周りの景色が崩れていく。

・・・いや、正確に言えば世界のテクスチャが剥がれ始めていた。

剥がれては消去されるように消えていく世界。


「・・・なんなんだ・・・これ」


八霧も驚いている。

俺も驚いているが・・・これは、バグか?


「おっさん・・・!?どこ行った!?」


目の前にいるギルダーが叫ぶ。

だが俺には彼が見えているし声も聞こえる。

しかし、俺の方でもギルダーの体のテクスチャがはがれ始めていた。

そして・・・消えた・・・身体も、声も。


「・・・世界が崩れてる」


「世界が・・・?」


「うん、僕も・・・皆の身体が見えにくい、よ」


そういって、俺の手を握ってくる。

その手には力が籠っていた。

怖いようだ・・・当たり前か。


待てよ・・・!ログアウトをすれば!


「コンソール!」


・・・反応が無い。


「緊急コード『EXIT』!」


最終手段の緊急コードを使うが。

緊急コードも無効化されているようで反応しない。

メニューも開けなくなっていた。

というより、ステータスも虫食いのように穴が開き始めている。


「・・・駄目か」


次は・・・どうすると考えていると。

ふいに、手を握っている八霧の力が強くなる。


「トーマさん、ご一緒出来て楽しかった」


その顔は・・・半分消えていた。


「縁起でもないこと言うんじゃない!

 皆!俺を中心に集まれ!何があっても離れるんじゃないぞ!」


全員が俺の身体を中心にして集まる。

既に、神威の身体は下半身が消えていた。


「消える・・・私、消える?」


「大丈夫だ、しっかりしろ」


神威の頭を撫でる。

安心したように微笑むと、上半身が・・・消えた。


「どうなってるのよ、この状態!あ・・・ハンマーが!」


「・・・うーん、皆で死ぬのも、悪くないかもね・・・」


声をした方向を見るが。

セラエーノとプリラは体は無くなっていた。


「そんな・・・おい!」


「助け・・・トーマさ―――」


エリサの身体と、声が消えていく。


「やれやれ・・・作りたいもの・・・まだまだあったんですが」


テネスの身体は右半身が無くなっていた。


「テネス!」


手を伸ばすが。

・・・光のように消え去り、手は空を切った。


「・・・トーマさん、生まれ変わっても・・・仲良―――」


握っていた手の感触が無くなる。

・・・八霧の体も消えた。


よく見れば・・・全員が消えていた。

俺以外・・・人間も、景色も、世界も。

真っ暗な中に、自分が一人浮かんでいる。


だが・・・俺の身体も・・・剥がれていく。

銀色の鎧が剥がれ・・・宙に消えて・・・。


体も消えていく・・・。

意識も消え―――



――――――――――――――――――――


早朝8時20分。

とある家。


「・・・ニュースをお伝えします。

 先日、大型の台風が直撃した影響で停電したエリアが複数あり、

 その停電の影響でVRシステムを制御している大型コンピューターが

 機能不全を起こし、停止したとのこと」


「・・・」


その様子を見ている男子高生。


「祐司、さっさと出ないと遅刻するわよ!」


「へーい!」


朝食を済ませて出て行く男子高生。


「ダイブ型ヘルメットを着用していたプレイヤーの中には意識不明の重体の方もおり

 ・・・現在、意識不明の方は確認されただけでも40人近くにのぼります。

 ゲーム『エンドレスオブサーガ』の責任者も、社内で調査中と―――」


ニュースは続き、キャスターと有識者が話し出す。


「ダイブ型VRゲームへの危険性が再度認識されるような事故ですね」


「ええ、精神をネットワーク上に移しているわけですからね・・・何が起きるか。

 今後はこのようなことが無いように、きちんと管理して欲しいものですな」


「・・・機械の発展は目覚ましいものですが、その危険性を再度、

 確認させられるような事故ですね。・・・次のニュースですが―――」

読んで下さり、ありがとうございます。


次から転移先の話になります。

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