47話
先ほど戦っていた、ディラーが控室に運ばれてくる。
「・・・狂戦士化か」
「確か、一定時間攻撃力と素早さを格段に上げるけど。
切れると、昏睡状態になるスキル・・・だっけ?」
「ああ、諸刃の刃だ。しかも、その昏睡状態は薬や魔法じゃ治らないからな」
攻めきれる状況の場合は、これほど強いスキルは無いが。
賭けで使うにはリスキーすぎるスキルとも言える。
だが、彼の場合は正解だろう。
対戦相手のフェイは、魔法の斬撃と言う、飛び道具を使用した。
つまり、相手は遠距離から自分を倒しうる攻撃が出来ると知った。
飛び道具を持たない重装備の騎士の場合、それはじわじわと負けに近づく要因だ。
間合いを取られ、一方的に射撃される。
こうなったら、盾持ちに勝ち目は無くなる。
ゆえに、彼は防御をすべて捨てて、攻めに出た。
正しい判断と言えるだろう。
まあ、結果は攻めきれずに負けたが・・・天運次第では、彼が勝っていただろう。
「・・・次は、ゼフィラスか」
傷だらけのフェイが控室に戻ってくると同時に、
ゼフィラスが立ち上がり、その横を通り過ぎる。
フェイが何か話しかけたが・・・ゼフィラスはそれを無視して闘技場内に入っていった。
それを見た対戦相手のエッジは、控室の隅で座禅を組んでいるカロに向かって。
「カロ、お前を倒すのは俺だ・・・待っていろ」
「・・・」
目を瞑り、精神集中しているカロ。
「・・・ゼフィラスが相手だろうと、俺はカロを倒すためにここに来た。
負けるわけにはいかない・・・」
ぶつぶつと呟きながら、闘技場内に入っていくエッジ。
その姿は、不気味にも見えた。
――――――――――――――――――――
闘技場内は今までになく、歓声で埋まっている。
ゼフィラスが登場すると同時に、それは怒号のような歓声に変わった。
ゼフィラスとエッジが対峙する。
ゼフィラスは青と白を基調とした鎧と、背中の大剣。
そして、腰に下げた剣は、予選会と同じだ。
対するエッジは、腰の左右に下げた細長い曲刀を武器とするソードダンサー。
彼が身に纏うものも、一枚の布で出来た踊り子の服。
顔も、その布で作ったスカーフで隠れている。
「・・・では、7回戦・・・始めます!」
審判が高らかにそう叫ぶ。
その審判の声に合わせるように、エッジが曲刀を両方引き抜き、跳躍した。
「行くぞ、ゼフィラス・・・!」
空中で曲刀をクロスさせ、ゼフィラス目掛けて斬りかかる。
「・・・」
無言のまま、跳躍してきたエッジの曲刀を、
鞘から引き抜きかけた剣で防御するゼフィラス。
一瞬火花が飛び散り、鍔迫り合いに入るかと思われたが。
ゼフィラスの蹴りが、エッジの身体を吹き飛ばした。
「ぐ・・・!」
地面に体をこすりながら、後ろへ吹き飛ぶエッジ。
「まだだ!」
吹き飛んだ体勢のまま、左手に握る曲刀をゼフィラスに投げる。
造作もなく、抜いた剣でそれを弾くゼフィラス。
すると、弾いた体勢のゼフィラスにエッジが襲い掛かった。
「早い・・・な」
たった一瞬で体勢を直し、既に自分の間合いにいたエッジにそう漏らすゼフィラス。
「まだだと、言った!」
投げたはずの左手の曲刀は、エッジの手元に戻っていた。
左手の曲刀の逆刃の部分にゼフィラスの剣を捉え、地面に振り下ろした。
曲刀の反りの部分で、ゼフィラスの剣は地面に押さえ込まれる。
「取ったぞ!」
右手で振りかぶったで曲刀を、ゼフィラスの頭に目掛けて振り下ろそうとするが。
剣を手放したゼフィラスの右手が、エッジの顎にアッパーを入れる方が早かった。
「が・・・!?」
空中に浮かぶ、エッジの身体。
すかさずゼフィラスは、その身体に回し蹴りを入れる。
回し蹴りで横方向に吹っ飛ばされたエッジの身体は、観覧席の真下の壁に衝突した。
ぐったりとするエッジの身体だったが。
ピクリと身体を動かすと、前動作も無く立ち上がる。
まるで、人形のように。
「貴様・・・人間じゃないな」
「それは今、この場で関係のある事か?」
・・・。
「ふ・・・そうだな」
一笑に付すと、ゼフィラスは剣を回収し構えた。
「貴様が何であれ・・・今の私は・・・勝たねばならない」
そう呟くと、ゼフィラスは腰を低く構えた。
「ふぅー・・・はぁー・・・」
深呼吸をするエッジ。
「行くぞ・・・ゼフィラス!」
そう一言叫ぶと、右手を左の肩に置き・・・。
左腕を外した。
「・・・っはぁ!」
そして、渾身の力で左腕をゼフィラスに向かって投げる。
投げた左腕は、まるで生きているかのように、空中で剣を構える。
「!」
一瞬驚いた顔をしたゼフィラスだが、左腕の握る剣を弾く。
すると、床に落ちた左腕は剣を手放し、ゼフィラスの足を掴んだ。
それを振り払おうと、足を動かすが。
「よそ見してていいのかよ!」
エッジの身体が、ゼフィラスの間合いまで詰め寄っていた。
ゼフィラスに剣を振るうエッジ。
それを防御しようと構えると、足元の左腕が邪魔をする。
体勢を崩そうと、足を揺り動かしてくる。
気を取られそうになったゼフィラスだったが。
エッジの一撃を弾くと、そのまま後方に押しやった。
同時に、足元を掴む左腕を切り裂いた。
「ぐぁ・・・!」
左腕の拘束が緩む。
ゼフィラスが足を動かすと、左腕は地面に落ちた。
左腕から流れるオレンジ色の血が、地面を濡らした。
「終わりだ」
ゼフィラスがそう呟くと、剣を構えて相手に一歩踏む込む。
右手の剣で、防御しようとするエッジだったが。
両手で構えた、ゼフィラスの剣は安々とエッジの防御を崩す。
袈裟懸けに、エッジを切り裂いた。
「ぬぁ・・・ぁ」
オレンジ色の血を吹き出し、倒れるエッジ。
それを正面から浴びるゼフィラス。
「・・・血の色・・・やはり、『自動人形』か」
顔に付いた、血を拭うゼフィラス。
目の前で、血を流し倒れるエッジを見る。
審判が近づいて来ると、エッジの様子を見た。
「・・・勝者、ゼフィラス!」
そう叫ぶと同時に、会場から歓声が上がる。
審判は救護班も呼んでおり、エッジにプリースト達が近づいてくる。
――――――――――――――――――――
控室に、ゼフィラスが戻ってくる。
その顔は晴れない。
「ゼフィラス」
そんなゼフィラスに、話しかける。
セニアと1号、トリスから聞いた話を、ゼフィラスとも共有しようと思ったからだ。
だが・・・俺を一睨みすると、その場を去っていくゼフィラス。
話かけられる状態じゃないな・・・。
控室に、エッジが戻ってくる。
担架に乗せられたまま。
「まずいですね・・・かなりの深手です」
「でも、オートマータの技師なんて・・・いますか?」
プリースト達が相談しあっている言葉が聞こえてくる。
エッジはセニアや1号と同じ、ドールなのか?
先ほどの戦い方を見るに、そんな印象も受けたが。
「どうした?」
俺が話しかけると、プリースト達がこちらを向いた。
「トーマ様、誰か・・・オートマータに詳しい人を知りませんか?」
「我々は、人間の治癒には詳しいのですが・・・」
なるほど、専門外なのか。
・・・と言っても、神威くらいしか、何とかできそうにないが。
ダメもとで、呼んでみるか。
神威を呼ぶと、エッジの身体を触り始める。
オレンジ色の血で、神威の両手は濡れていった。
「ん・・・大丈夫、治る」
神威の両手が青く光ると、エッジの身体も同じ色に光る。
すると、エッジの身体に付いた、傷が塞がっていく。
「すごい・・・」
プリーストの一人がそう呟いた。
「・・・終わり」
エッジから手を離す神威。
「お疲れ様、神威」
そう言って、ハンカチを渡す。
神威はそれを受け取ると、両手を拭いた。
「・・・洗って返す」
「別にいいぞ」
そう言って、ハンカチを回収しようとするが。
その時に、目に入った人物。
ゼフィラスが、控室の出入り口からこちらを見ていた。
正確には、エッジを、だ。
そうか、心配はしていたのか。
・・・あいつも複雑な状況で戦っているな。
読んで下さり、ありがとうございました。




