45話
トリスの話から少し前。
公園から闘技場控室に戻る俺。
対戦相手のハインツは控室の壁に寄りかかって誰かと話している。
若い男性、しかもその鎧にはハインツと同じ紋章が入っていた。
「おう、時間前だな?」
「時間には余裕を持って、だ」
「そうか・・・ディン、後はお前に任せる」
ハインツがそう言う。
ディンと呼ばれた若者は一礼すると。
「分かりました、団長」
そう言って、駆け足でその場を後にした。
その様子をハインツはやれやれという感じで眺めていた。
「いつまでも団長離れが出来ない奴らで、困ってるよ」
「団長離れ?」
「俺も年を食ってきた、引退もそこまで遠くない話だ。
後継者を決めたいとは思うが・・・いや、お前には関係ない話だったな」
ハインツは笑うと、俺を見た。
「いい勝負にしようぜ、お互いにな」
「ああ」
――――――――――――――――――――
闘技場内は、そこそこの歓声が上がっている。
『狼の牙』団長のハインツは、前大会の準優勝者。
今期の大会でも、優勝候補の一人だと言われているが。
ゼフィラス一強には違いなく、彼に対抗できる数少ない人物だと言われていた。
「第5回戦・・・始め」
抑揚のない声で、審判がそう告げる。
・・・一瞬、気が抜けそうになった。
背中に担いでいた大剣に手を掛けるハインツ。
大剣か・・・なら。
大型のタワーシールドと、ハルバードを道具袋から取り出す。
その様子を見ていたハインツが呟く。
「ほう、妙な袋だな」
大剣を持った手が、少しだが動く。
俺への攻撃のタイミングを計っているようにも見える。
ハインツも手練れ。
大剣という大質量の武器の攻撃が、
相手に与える物理的な衝撃は計り知れない事は知っているだろう。
同時に、何かによって大剣が弾かれた場合のリスクも。
そして、今その『何か』は俺の装備しているタワーシールドで間違いない。
――――――――――――――――――――
厄介な相手。
彼への最初のイメージはそうだ。
そして話しかけて分かった。
こいつとは、気持ちのいい勝負が出来ると。
大剣を構えながら、足で地面をこすりながらゆっくりと目の前の男に近づく。
男はタワーシールドを構え、こちらの出方を伺っている。
右から、袈裟懸けに斬りかかるか?
いや、盾で弾かれるな・・・愚策だ。
なら、脳天を割るように垂直に落とすか?
いや・・・駄目だ、振り上げた瞬間に盾で殴られるか、ハルバードで身体を斬られる。
ハルバードは万能武器だ、盾を構えながら相手を狙えるし、
刺すことも、斬ることも可能だ。
それゆえに、扱いが難しい武器でもあるが。
・・・目の前に立つ男は、恐らく自在に操ってくるだろう。
(・・・隙が無いな、これは長期戦になる)
俺は一人そう思う。
彼の装備を見るに、自分からは攻めてこないはず。
あれだけの重装備と全身を包まんばかりのタワーシールド。
そして、身の丈の長さと同じくらいのハルバード。
こんな重い、装備では・・・。
(機動性はこちらの方が上のはずだ・・・それに、長期戦になれば俺が不利だ)
ゆっくりと攻められた上、スタミナ切れで勝敗が決することも考えられる。
なら・・・先に動き、先に叩く。
「行くぞ、トーマ!」
大剣を手元に引き寄せ、突きの構えを取る。
既に一歩踏み出せば間合い・・・!
右足を一歩踏み出すと同時に、渾身の突きを放つ。
大剣の突きを、タワーシールドで防ぐトーマ。
金属音が響き、大剣の先端とタワーシールドが衝突した。
それと同時に、俺の大剣が右側に引っ張られる。
「な・・・!」
力を、流されたと気づいた。
崩れそうになった体勢を、足を踏み出し踏ん張る。
同時に、流された力をそのまま利用して身体を一回転させる。
「ふん!」
身体と一緒に回転した大剣の一撃がトーマを捉えた。
回転斬りがトーマを襲う。
しかし、それもタワーシールドで防がれる。
「ぐぅ!?」
防がれた瞬間に、大剣とタワーシールドの間に振動が起こる。
身体に響く、振動。
それは、大剣の衝撃が俺を襲ったという事だ。
その痛みを隠しつつ俺は一歩、間合いを取った。
(なんて奴だ・・・まるで岩・・・いや、山だ)
硬い岩に、金属の棒を叩きつけている感覚に似ている。
攻撃しているこっちに、振動や衝撃が全て跳ね返っている。
「どうした、ハインツ」
目の前のトーマがそう喋る。
どうした、か。
「硬いな、あんた」
「・・・タンクだからな」
タンク?聞きなれない言葉だ。
だが・・・とんでもない防御力という事は、身をもって知った。
適当な攻撃では、ダメージにすらならないとも。
ならば・・・俺の『スキル』を見せるだけだ。
大剣を振り上げ、天高く構える。
持っていた、無骨な大剣が光る。
3文字のルーン文字が大剣に浮き出る。
「食らえ!『狼の牙』!」
天高く構えた大剣をそのまま叩きつけるように、振り下ろす。
トーマの盾が、それを防ごうと上に動くのが見える。
(かかった・・・!)
ルーン文字が一際光り、大剣を包む。
剣と盾が衝突した瞬間、金属音と共にルーンの光が辺りを照らす。
「ぬぅん!」
大剣をそのまま、地面まで叩き斬るように動かす。
大剣が動き、タワーシールドを破壊している感触が手に響く。
目の前を見るとタワーシールドの上から入った大剣は、
タワーシールドの中頃まで埋まるように切り裂いていた。
このまま、持ち主ごと叩き斬る・・・!
だが、半分を過ぎようとした時、急に大剣が動かなくなる。
それ以上はどんなに力を籠めても、動かない。
「なるほど、大した威力だな」
「ぐ・・・何が・・・!?」
動かないことをまずいと思い大剣を引き抜こうとするが、それでも動かない。
目の前のトーマがタワーシールドを捨てた。
音を立てて、壊れた盾は地面を転がった。
すると、盾の後ろに隠れていたものが見えた。
ハルバードを握っていたはずのトーマの手が。
盾の後ろで大剣を親指と人差し指、二本の指で止めていた。
「な・・・お前」
「盾を破壊するのは、そのルーン文字の特性だな」
「・・・ルーン文字が読めるとはな」
大剣を握ったまま、俺はそう聞き返した。
見れば、ハルバードは足元に転がっていた。
「『盾破壊』に特化したルーン文字。・・・俺も昔使われたから覚えている。
あの時は、2年越しで作った盾が破壊されて、悲しくなったものだが」
「そうかい・・・!」
先ほどよりも強い力・・・渾身の力を籠め、大剣を引き抜こうとするが。
たった二本の指で押さえているというのに、大剣はピクリとも動かない。
まさか、こいつは。
俺以上の、戦士・・・いや。
俺など、足元にも及ばない存在なのか・・・!?
――――――――――――――――――――
まさか、タワーシールドを破壊されるとは思わなかった。
咄嗟に、指で挟んで防御してしまったが。
スキル『白刃取り』が勝手に働いてしまったみたいだ。
大剣を離すと、ハインツは体勢を崩しながら後ろに仰け反った。
・・・渾身の力で引き抜こうとしていたのだろう。
そうか、ハインツ・・・。
悪いが勝たせてもらうぞ。
「ふ、ふふ・・・面白い・・・!」
体勢を整えたハインツは、大剣を片手に持つ。
「面白いな、トーマ!」
大剣を振りかぶると、そのまま俺に投げてきた。
少し体を動かし、かわす。
大剣はそのまま飛んでいき、闘技場の観覧席の下側に突き刺さった。
そして、そのかわした体勢を戻す前に。
ハインツの一撃が俺を襲う。
何処からか取り出した細長い剣で、俺の鎧の関節部を狙うが。
その剣は貫通もせず、剣は刃先から砕けた。
「やはり・・・お前は」
俺が拳を振り上げるが、ハインツにはかわす様子が無い。
棒立ちのハインツに拳を振り下ろした。
ハインツの身体が吹き飛ぶと、地面に何度かバウンドし、ハインツは地面に倒れる。
「・・・遥か・・・高みにいる・・・存在だ」
腕や足が少し動いていたが、何かを呟きつつハインツは気絶した。
「・・・」
倒れたハインツに近づき、その身体を抱き上げた。
そして、審判に声を掛ける。
「審判、救護班を」
「え、あ・・・はい!」
俺が抱きあげたハインツを見た審判は、ハインツの顔と気絶していることを確認し。
「勝者、トーマ!」
そう、高らかに宣言した。
会場から、歓声が聞こえた。
俺も、少しは人気が出てきた・・・のか?
読んで下さり、ありがとうございました。




