43話
引き続き、トリスが主役になります。
僕は、イチゴウさんとセニアさんに色々と事情を話した。
ゼフィラス様の肉親が人質に取られていること。
その首謀者は、恐らくゴルム団長であること。
そして、団長室に誰かを監禁している可能性が高い事。
「なるほど・・・つまり、団長室にゼフィラスさんの妹が捕まっていると」
「恐らく」
そう言って、お腹をさする。
包帯の巻かれた、自分のお腹を見ていると不覚を取った自分が不甲斐なくなってきた。
「では、トーマ様へは私が報告しますね」
そう言って、セニアさんが立ち上がる。
すると、扉を叩く音が響いた。
「お客さんでしょうか・・・?」
セニアさんが扉に近づき、覗き穴を覗く。
「聖堂騎士さんですね」
「・・・顔は、どんな感じですか?」
一瞬だが、刺した人物の顔は見た。
ゴルム団長の取り巻きの一人だったけど。
「うーん・・・緑の髪で、短髪の人ですよ?
後ろの方は、ヘルムを被っているので顔は見えないですけど・・・背が高いです」
覗き穴から、外にいる人物の身体的特徴を言うセニアさん。
緑の髪・・・やっぱり、僕を刺した人だ。
背の高い人は、恐らく・・・外から僕を見つけた人だ。
「解析・・・血を辿って、追跡した可能性、有り」
「本当ですか、1号姉さん」
イチゴウさんが頷く。
確かに、大図書館にも、ポツポツと血の跡が残っていた。
扉を叩く音が止むと。
「いないのか?」
そう、外から声がして来た。
「・・・今は御前試合に出ている。
彼の従者も見学に行っているはずだ、誰もいないのだろう」
「だが、この先に逃げたのは確実だろう」
そう一言聞こえると。
ドアをこじ開けようとする音が、静かな大図書館に響いた。
「僕を、殺そうとしているんですね」
ばれたら、大スキャンダルだ。
現団長が『聖騎士』の身内を攫って、人質にしている。
恐らく、意のままに操るために。
それを知った僕を殺しに来るのは当然だ・・・自分の立場を守りたい、あの人なら。
それに、見習い騎士の一人の死を偽装するなんて、造作もない事だろう。
意を決して、僕は立ち上がる。
「トリスさん?」
「セニアさん・・・僕、戦います」
拳をギュッと握る。
勝てない戦いに挑むというのは、自分が一番分かっている。
だけど、ゼフィラス様の妹は今でも危険な状態なんだ。
そう考えると、居ても立っても居られなくなる。
「戦闘能力、分析。・・・貴方は無謀」
イチゴウさんが、僕にそう言う。
「無謀でも、何でも!」
イチゴウさんの目を見る。
何も感じていないような瞳が、僕を見ていた。
「ゼフィラス様の妹さんが、今も危険なんです!
放ってはおけません!」
「・・・妹が、危険?」
イチゴウさんの目がセニアさんに向く。
何度か、まばたきをするとセニアさんに近づき。
その身体を抱きしめた。
「え?あ・・・1号姉さん?」
「妹・・・は、大事。・・・そう。とても大事」
そう言ってセニアさんと見つめ合う、イチゴウさんの目は。
先ほどとは違う、とても輝いた『生きた目』をしていた。
すると、力が抜けたようにその場に崩れるイチゴウさん。
って、倒れた・・・?
「姉さん!?」
数秒、気を失ったように倒れていたが。
目をパチリと開けると、僕とセニアさんを交互に見た。
そして立ちあがると、メイド服の汚れを手で払った。
「セニア、貴方はこの事をトーマ様に。
私は、彼とゼフィラス様の妹を救いに行くわ」
「あ、あの・・・ねえ、さん?」
「何?」
腰に手を当てて、イチゴウさんがセニアさんを見ていた。
「その・・・普通に喋れるようになってますよ?」
「・・・?」
自分の両手を見るイチゴウさん。
セニアさんを見て、僕を見て。
周りを見て。
「あら・・・本当。世界が、広がったような、そんな感覚が―――」
「姉さん!」
今度はセニアさんから抱き付いていた。
最初は、イチゴウさんも驚いていたが、嬉しそうなセニアさんを見ると、
優しい顔をして、頭を撫で始めた。
「どうしたの、セニア」
「・・・ようやく、一緒にお話が出来ます。それが、とっても嬉しくて」
「そう・・・でもね」
セニアさんの両肩を掴むと、自分から引き離した。
「今は、ゼフィラス様の件を解決するのが先。
後で、いっぱい話しましょう?」
「は、はい!」
とても嬉しそうに頷くセニア。
その顔を見て、微笑んだイチゴウさんは、その顔のまま僕を見た。
「急ぎましょう、私が道を開くわ」
そう言う、イチゴウさんの顔は。
とても綺麗な人が出すとは思えない程の、『強さ』が垣間見えた。
――――――――――――――――――――
扉に手を掛けるセニアさん。
「姉さん、トリスさん・・・準備は?」
「ええ」
「は・・・はい!」
自信満々に頷くイチゴウさんと、未だに震えが残る僕。
扉を叩く音は止んでいたが・・・。
向こうには、まだ人がいる気配がする。
「・・・いいですか、トリスさん。
セニアが扉を開いた瞬間、私が二人を気絶させます。
貴方は、団長室まで走って下さい」
淡々とそう言うイチゴウさん。
「私も後に続きます、団長室の位置は知りませんので道案内を兼ねていると思ってください」
「はい・・・分かりました」
扉を見る僕。
その様子を見た、セニアさんの手が動く。
「行きますよ」
扉の鍵を静かに解き、扉をゆっくりと開けるセニアさん。
それを見たイチゴウさんが、その隙間から何かを投げた。
「セニア!」
「はい!」
ゆっくりと開けた扉を急に早く開ける。
開いた扉の隙間から、イチゴウさんが飛び出した。
「なんだ・・・!」
「ただの瓶だろ・・・って、うわ!」
外から声が響く。
恐る恐る、扉から外の様子を覗くと。
倒れた二人の聖堂騎士と、その足元に転がる瓶。
そして、倒れた聖堂騎士達の傍に立っているイチゴウさん。
「流石、姉さんですね」
「セニア、褒めている時間があるのなら、トーマ様の元に行きなさい」
「はーい!」
セニアさんが廊下を走っていく。
・・・聖堂騎士顔負けの速度で。
「さあ、行きますよ・・・トリスさん」
「はい、お願いします!」
――――――――――――――――――――
団長室まで走る。
その際に、イチゴウさんに質問していた。
「何を、投げたんですか?」
「空き瓶です、彼らの真後ろに投げました」
「どうして?」
「背後で音がすれば、気になるのは当たり前です。
その間に、彼らを気絶させただけの事」
・・・隙をついたからといって、
鍛え上げられた聖堂騎士を気絶させるのは・・・難しいはず。
僕の後ろをぴったりと走っている女性は。
とんでもなく強い人なんじゃないだろうか・・・?
団長室の前まで来た。
周りに人はいない・・・多少、嫌な予感が頭をよぎる。
何か、罠が張ってあるんじゃないかと。
「ここですね」
イチゴウさんが、ドアに手を置く。
そして目を瞑り、何かを感じ取っているようだ。
「・・・3人、と言ったところでしょうか?」
そう呟くと、ドアを開け・・・いや、蹴破った。
金属で補強されているはずのドアが、蹴られた衝撃で部屋の窓まで吹っ飛んだ。
窓に当たると、ガラスの割れる音と共に、壁にひびが入る。
蹴り上げた脚を丁寧に戻すイチゴウさん。
その姿は、とても優雅にも見える。
「な・・・なんだ!?」
椅子に座り、食事を取っていたゴルム団長が見える。
その顔は驚愕で固まっていた。
「・・・貴様、団長室に何用だ!?
しかも、ドアを破壊しやがって・・・」
団長の隣に待機していた聖堂騎士の二人が立ち上がると、僕たちの前に立つ。
「!」
ゴルム団長が僕を指さす。
「貴様・・・俺の部屋を覗いていた見習いだな!」
そう言うと、部屋の中にいた聖堂騎士の二人に向かって。
「こいつらが話していた『裏切り者』だ!さっさと始末してくれ」
裏切り者・・・?
二人の聖堂騎士の姿をよく見る。
持っている盾に、彫ってある竜の紋章は聖堂騎士の証だ。
だが、その紋章には・・・さらにあるものが彫ってあった。
竜の手に持たれた、雷を放つ杖。
あれは・・・。
「憲兵・・・?」
何で、彼らがここに・・・。
「・・・憲兵、ですか」
イチゴウさんの目が、憲兵の二人を見る。
その目は、彼らが敵なのかどうか、測っているような目だった。
読んで下さり、ありがとうございました。




