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集団転移!ーギルドメンバーごと転移したLvカンスト竜騎士-  作者: 倉秋
ゼローム皇国の騎士編-御前試合ー
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40話

ブロギンとドリーが4回戦の相手同士、なのだが。

ドリーは既に闘技場内で準備運動をしているにもかかわらず、ブロギンの姿が無い。


そういえば、スケルトンで紺色のローブを来ていた魔法使いが先ほどまでいたが。

1回戦開始と同時に、どこかにいなくなってしまった。


気になって、俺も探すが・・・やはり、スケルトンはいない。

あれだけ目立つ外見なら早々に見つかると思うんだが。


――――――――――――――――――――


病み術師は、ゼローム皇国北方で生まれた、独自の魔法を使う術師の事。

人間がマスターすることは不可能と呼ばれる、病魔の使い手だ。


数々の病気と毒を熟知し、その扱いは医者以上とも呼ばれる存在である。

だが、彼らはあくまで病み術の先を目指す研究者たち。

医療などには興味もなく、日々毒や病気の研究をしている。


「むぅ・・・寝すぎたか・・・ふぁぁぁ」


あくびをかみ殺す、スケルトン。

このスケルトンこそ『ブロギン』その人である。

ブロギンは、直前まで闘技場の観覧席に備え付けてある屋根の上で寝ていた。


「歳を食うと、眠くなっていかんわい・・・おお、もうこんな時間か」


腰を上げ、自身の首の骨を鳴らす。

闘技場を見下ろすとその下には自分の対戦相手がいた。


「遅刻は厳禁、いくぞ」


屋根から飛び降りると、対戦相手・・・ドリーの前に着地したブロギン。

骨で軽いせいか、土煙などは立てずにふわりと着地した。


――――――――――――――――――――


「あなたが、僕の相手だね」


エルフのドリーは、武器である弓を左手に持ちながら一礼する。

ブロギンはその様子を見ると、感心したように。


「ほほう、こんな老いぼれスケルトンに礼をするとは、出来た娘さんじゃな」


「当たり前だよ、だって・・・御前試合なんだよ?相手には礼を尽くすものだよ」


「ほほ・・・そうか」


嬉しそうに笑うブロギン。

顔は骸骨なので、表情は変わっていないが。


「あ、あの・・・ブロギンさん」


審判が近づいてくる。

その様子は、多少困惑していた。


「ギリギリでの入場は、今後控えてもらえますか?

 最悪、不戦敗になりますので」


「おお、すまんすまん。歳を食うと時間に疎くなるからの・・・」


そう言って、平謝りするブロギン。

その様子を見たドリーは。


「ねえ、始めようよ。問題なく来たんだからさ」


そう、審判に話しかけた。


「え?ああ・・・は、はい」


ドリーにそう言われ、審判が位置につく。


「では、第4回戦・・・始め!」


――――――――――――――――――――


始まると同時に、ドリーがバク宙すると間合いを取った。

弓を引き絞り、ブロギンを狙う。


「ほっほっほ・・・若いのぉ」


ブロギンは持っていた黒い朽ちた杖をかざす。

すると・・・黒い霧が闘技場内を包んだ。


まるで、濃い霧がかかったかのように、ブロギンとドリーを包む黒い霧。

構わず、ドリーは引き絞った弓から矢を放った。


風切り音と共に、ブロギンの眼底を射抜いた。

その矢の衝撃で一瞬体勢を崩すが。

何事も無かったかのようにその矢を引き抜いた。


「スケルトンに、矢は通じんぞ・・・お嬢さん」


「そうだね・・・今のでわかったよ・・・げほ」


ドリーの顔が少し赤くなる。


「病み術か・・・厄介だね」


せき込みながら、そう呟くドリー。

弓を背負うと、太もも辺りを触る。

太ももに備え付けた短剣を引き抜くと、ブロギンに走る。


「はああぁ!」


ブロギンの目の前まで迫ると、短剣に何かを付着させ、ブロギンを切り裂いた。


「ぬう?」


一瞬反応が遅れたブロギンは、その短剣で右腕辺りを切りつけられた。

短剣で斬られた部分の骨が多少溶けていた。


「聖属性・・・なるほど、その小瓶は・・・『女神の雫』か」


ドリーの首に下げてあった小さな小瓶。

先ほどはその小瓶の中身を、短剣に付着させていた。


「病み術師のスケルトンが出る事は知ってたからね。

 対策をするのは・・・常識だよ」


そう言うと、懐からポーションを取り出し、全部呷った。


「疾病耐性のポーション・・・か」


「一気に決めさせてもらうよ!」


瓶を投げ捨てると、ドリーの短剣でのラッシュが始まる。


――――――――――――――――――――


短剣に何度も切り刻まれ、防御する腕の骨が半分以上溶けているブロギン。

だが、ラッシュで押しているはずのドリーの息が荒くなり始めている。


「ほっほっほ、無茶はするもんじゃない。

 いくら、病気に対する耐性を上げても・・・病気を完全に防ぐのは難しい」


「はぁ・・・はあぁ・・・!」


短剣を持ったまま、ドリーが間合い取る。

その顔は真っ赤になり、汗を流している。

そして苦しそうに胸を押さえ、顔を歪めた。


「病魔はお嬢さんの身体を蝕んでいる。さっさと降参した方がいいぞ」


溶けた両腕の骨を外し、その場に捨てるブロギン。

すると、骨を外した部分から黒い霧が吹きだし・・・

新しい骨が生えるように飛び出してきた。

その手の具合を確かめるようにグーとパーを作るブロギン。


その様子を見て、多少ドリーは驚いていたが、驚いた顔を直すと。


「そう言われて・・・諦める程、僕は聞き分け良くないよ!」


そう言い放った。

しかし、ドリーの顔は先ほどよりもさらに赤くなる。

・・・顔の汗が地面に滴り、脂汗が顔に滲み始める。


「今のお嬢さんの体温は・・・生きていく上で危険な温度になっておる。

 身体も自由に動くまい」


「舐めるな・・・!エルフだって、意地があるんだ・・・!」


背中の弓を取り出し、小瓶に入った全ての液体を、矢にかける。

その矢と弓を番え、引き絞るが。


体温の上昇のせいか、手がふらついている。

顔も、ぼーっとしだし、倒れそうに見える。


「・・・森の神よ、どうかご加護を・・・」


目を瞑り、引き絞った矢を放つ。

ビュンと音を立てて、放たれた矢は。

周りに広がる黒い霧を払いながら、ブロギンを捉えていた。


「見事じゃ」


それを敢えて、かわさずに矢を胸に受けたブロギン。

肋骨の部分が溶けるが、ブロギンにダメージは無いように見える。


「・・・そんな」


ガクリ、と両膝が地面につくドリー。

そして、そのまま地面に伏した。


「ふむ・・・見事じゃったぞ、その意気」


ブロギンがそう呟くと、杖を打ち鳴らす。

すると、周りを覆っていた黒い霧が一斉に晴れた。

それを見た審判と救護班が近づいていく。


「勝者、ブロギン!」


その声と共に、周りに手を振るブロギンだったが。

・・・会場は静かで、彼を祝福する者はいなかった。


――――――――――――――――――――


俺はその会場の様子を見て、おかしく感じた。

初めは、ブロギンが病み術を使うから周りの反応が無かったのかと思った。

忌み嫌われる故、会場の反応がそうだったのかと思ったのだが・・・。


「スケルトンには、色々とあるからな」


ハインツが後ろからそう声を掛けてきた。


「・・・スケルトンは人の死骸の骨だろ?

 だから、いるだけで嫌われるんだよ」


「ブロギンが『病み術師』というのは関係ないのか?」


職業柄、ああいう反応になったのかと思ったんだが。


「全くは関係ない、とは言えないが。

 スケルトンを含め、異種族というのは貴族の受けが悪いらしい」


そう言う、ハインツの顔は残念そうに見える。


「あいつ自身は、変わり者・・・だが、礼儀正しいし親切だ」


ハインツは指を指す。

それを目で追うと、倒れたドリーに何かを飲ませているブロギンが見える。


「ほら、対戦相手には必ず薬を渡している。

 それに、病み術を乱用するような男でもないしな」


「詳しいな」


「・・・前の依頼で一緒だったからな」


そう言うと、ハインツはため息をついた。


「異種族が、ああやって邪険に扱われるのは、見てて痛々しいな。

 ゼローム皇国だって、他種族国家だろうに」


「・・・邪険に、か」


やれやれ、と肩をすくめるとハインツは俺を見た。


「さて、次は俺達だが・・・その前に昼飯だな。

 飯を食ったら、お互いに全力を尽くそうぜ?」


そう言って、俺の肩を叩いてきた。

その顔は、笑っていた。


「・・・ああ、いい勝負にしよう」


俺も、ハインツにそう返した。

しかし、昼飯か。


「確か、セニアが弁当を作ってくれると言っていたな」


少し、楽しみだ。


読んで下さり、ありがとうございました。

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