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370話

リギラを連れて、件の村へ向かっていたのだが。

その入り口が見える頃には昼間になっていた。


特にこれと言って特徴のない、一般的な農村の一つ。

・・・今回こんなことが無ければ足を延ばすような場所じゃないほどの田舎にある。

馬車だけで行こうとすれば結構な時間がかかるうえ、

山越えをしなければいけないと言えばどれだけ辺境にあるかがわかるだろう。


「なんで、領主様まで来てるんだよ?」


「色々あってな、それにこれはお前を試すための最後の試験って奴だ」


「え?」


試験と聞いて目を丸くするリギラ。


「今回俺は特には手伝わないからな?事件の内容はさっき話した通り。

 どこから手をつけるのか、誰に話を聞くのか。

 最後の結果まで自分で判断してみるんだ、暴力という手を使わずに」


肉体尋問や拷問ももちろん一つの手ではある。

だが、領主がそんなことを表立ってするのは世間体というものが許さない。

故にリギラがどう出るか、穏便に解決できるかが試験というわけだ。


「・・・そうだな、えーっと」


考えているそぶりは見せるが、名案は思いつかないようで頭を抱えていた。


「まあゆっくりと考えてみろ、時間はまだまだある」


そういいつつ、止まる予定である宿屋に足を向けた。


――――――――――――――――――――


「ビルナルです、よろしくお願い致します」


「ああ、久しぶりだな」


「・・・?」


頬に怪我をしたのか、その部分には手当の跡がある。

中年の男でやせ型、多少くたびれた様子を見せる男こそ、ビルナルであった。

そのビルナルの顔を見たリギラは首を少し捻って見せていた。


「で、農民に殴られたと聞いたが」


「はい・・・少々込み入った話をしていた時に、急に後ろから襲い掛かられまして」


そう言うビルナルは苦笑を見せた。

・・・ふむ。


「まあ今回の件は此処にいるリギラに任せることにしている。

 リギラ、挨拶を・・・って」


横を見た瞬間にはリギラのしたことが理解できないでいた。

何かを投げるそぶりを見せた状態で、既にその手から何かを投げていたのだ。


「・・・っと」


紙を丸めたであろうそれをビルナルがキャッチする。


「あんた、反射神経いいんだな」


「何を」


受け取った紙をゴミ箱へと捨てながら、ビルナルはリギラと対面する。


「リギラ様、この地区を担当いたしますビルナルと申します」


「・・・領主の後継、リギラ。今回の件はよろしくお願いします」


・・・投げた一件で少し変な空気が流れたが。

まあ、挨拶は終えたようで何よりだ。


「それでは、私は仕事に戻りますので」


「ああ」


ビルナルはそのまま部屋を出ていく。

完全に後ろ姿が消えることを確認したリギラは、机の反対側の椅子へと腰かけた。


「変だ、やっぱり」


「・・・紙を投げた理由はそこにあるのか?」


「不意を突いた筈だけど、あいつはきっちり捌いて見せた」


確かに、リギラを見るまで何をするかなんて分からなかった。

俺でそれなのだ、一般人からすれば回避なんてできなかったはずだろう。


「だっていうのに、農民から殴られるか?」


「不意を打たれれば格下からでも攻撃は受ける。

 特に相手がそれを狙ってるなら尚更だろ」


そう、百戦錬磨の人間だってたった一度の不意打ちで死ぬことすらある。

ビルナルがどの程度の使い手か分からないが、それでも抜けているという感じはしない。


「何の訓練も受けてない一般人が、あいつを殴れるとは思えないんだよ」


・・・それはリギラの直感のようなものだったのだろう。

だが、確かにそれは当たっていたことは後々分かることになった。


――――――――――――――――――――


件の農民はどこにでもいる青年風の男だった。

顔に泥を付けながらも明るい笑顔で応対する彼を見ると、

果たして一方的に殴るようなことをするだろうかと思うが・・・。


「え!?いやいや!確かに言い争いはしましたが、殴ってなどは」


「殴ってないと」


リギラがそう聞き返している。

だが、確かにビルナルの頬には傷の跡があるように見えた。

だがこの慌てようから初耳といった感じがするが、果たして。


「そうですよ、第一僕らみたいな農民がそんな大それたことするわけが・・・。

 何言ったって悪いのは我々にされておしまいにされると思います」


だろうな。

権力というものはそういう事も出来る、都合の悪い部分を覆い隠して。


だが、そうは言っても立場が弱い人間が嘘をつかないという事にはならない。

果たして彼は本当のことを言っているのだろうか。


「じゃあ、なんで怪我なんてしてたんだ?ここにさ」


リギラは自分の頬を指さしながら確認する。


「いや・・・分からないですよ、本当にあの時は口論しただけで。

 お互いに身体に触ってなんかいないですし、僕の方も何も」


いよいよきな臭くなってきたな。


「証人が居たりしないのか?」


「それは、その」


現状を考えればいなそうだな。

いればここまでこじれる話にはなっていなかっただろう。


「・・・領主様、どうすればいい?」


「ふむ、そうさな」


確証が取れない以上、怪我をした方・・・被害者を信じた方がいい気もするが。

どうもビルナルの態度を考えると安易に信頼していいものか疑わしい。


手伝わないとは伝えてあるが、ある程度のバックアップくらいはしてやろう。


「本当に目撃者がいないか洗い直してみた方がいいな」


「・・・いると思うか?」


「人が少ないとはいえ村の中、誰かしら見ててもおかしくない。

 見てたとしても証言するには弱すぎて言い出せない奴もいるはずだ。

 まずは足を使って探すべきだな」


出てくる確率は五分五分といった所か。

村の外れでもないし、人通りが少ない場所という事を除けばいる可能性は十分にある。


「分かった」


――――――――――――――――――――


それから、暫く。

足を棒にしながら村中を歩き回り続けた。

無論憲兵たちにも手伝わせたが・・・あまり情報の集まりは芳しくない。


「遠目で見たという少年や、騒音を聞いたという者ならいますが。

 どうにもこう、弱い情報ばかりで」


「・・・だよな」


日も沈み始めたので、遅くなる前に調査に当たった全員が宿に集まっていた。

その一室で情報のやり取りをしていたのだが。

どうにも確定的なものに欠けるばかりで有益とは言えないほどのものだった。


「やはりビルナル様の言う通りではないでしょうか?

 農夫も己の過ちをごまかすために嘘を言った可能性もありますよ」


「その逆もありうるから、こうやって調べてるんだろ?」


リギラはそう言うと、集まった情報を改めて見直し始めた。


「・・・数日前に会ってるのかあの二人」


「ええ、農地の関係で確認があったらしく。直接出向いて確認したそうです」


「その際に諍いが合ったりは?」


「それは、特に物音などは何も聞いてないと。

 騒ぎも起きていないようですし何もなかったと思いますが」


その証言を信じるのならば数日前からあの二人の間に何かあったと見れるが・・・。

いや、待てよ・・・そもそもあの二人が真実を言っているとしたら?

誰かが情報を故意に操っているとしたらどうだ。


「・・・ちなみにこの中で何か見たとか聞いたとかいう奴はいないか?」


「え?」


衛兵たちにそう聞くと、お互いの顔を見合う。

そう言えば聞いていなかったと聞いてみたのだが・・・。


「いえ、我々は特に」


「見回りはしていますが、その際には何も聞いておりません」


「・・・そうか?本当に?」


そう聞いた際に、目線を険しくして全員の顔を流し見ていく。

その中の一人だけ、俯きがちに目を逸らした奴が見えた。


「・・・分かった、今夜はこれくらいにしておこう」


充分とは言えないものだが・・・気になることは見えてきた。

このことをリギラと打ち合わせておこう。

読んで下さり、ありがとうございました。

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