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360話

敵の気配がどんどん増えている、けど。

目線は感じるが姿は見えない・・・恐らく村の家や柵の裏に隠れている。

後は動きを待つだけなんだけど。


「セラエーノさん」


「もう少し、もう少しだよ」


村の中央広間まで歩いてきた。

多少の石床で整備され、中央部に大きな松明があること以外何もない場所だ。

・・・そして襲われるとすればここ以上に格好の場所はない。


それにそろそろリギラが勝手に暴れそうで怖い。

もう動いてもらいたい、正直。


「さて・・・この辺かな」


襲撃するとすればこの場所、この広間。

何かしらは仕掛けてくるはず。

そう思って警戒するものの、潜む者が出てくる気配は一向に無い。


(おかしい、何かしらアクションを起こすかと思ったんだけど。

 予想外に我慢強いのかも)


懐にしまっていた小型時計を見る。

作戦まであと数分しかない、こうなればこっちから行動を起こすか・・・?

リギラの我慢も限界そうだし。


「セラエーノさん、あの人は?」


「え?」


リサちゃんに裾を引っ張られ、そちらに目線を向ける。

そこにはみすぼらしい衣装を纏った女性が一人たっていた。

どうやら負傷しているようで、足を引きずりながらこちらへと歩いてきている。


「この村の人・・・かな?」


「ちょっと様子が変だけど」


とは言え武器は持っていない、隠している風にも見えない。

多少身構えていると、その女性は目の前で倒れてしまった。


「おいおい、大丈夫かよあんた」


リギラはその様子に小走りで駆け寄っていった。

元々動くことを我慢していたのだ、

その行動はかなり早く気づいたときには女性の隣にまで移動していた。


「勝手な行動は駄目だって・・・!」


止めるようにリサもついていく。


「いいのか、行かせて?」


「丁度いい、多分来るからね」


トーマさ・・・もといドールがそう聞いてきたので言葉を返した。


二人は倒れた女性を介抱するようにしゃがみ込んでいる。

何か喋っているが、こちらまでは聞こえてこない。


「動きは見えてる」


音を出さずに屋根伝いに歩いてきたであろう男を目だけで確認する。

丁度背後を取るように陣取ったその場所から・・・ドールに飛び掛かった。


「取った・・・!」


飛び降りると同時に構えていたナイフを首元に突き刺すのが見える。

・・・相手からすれば大物を討ち取った気だろうが、

こっちからすれば術中に嵌っていると言えるその行為。

だが、まあ一応言っておこう。


「トーマさん!」


「・・・!」


役者じゃないし稚拙だろう。

私も神威も多少ぎこちなかっただろうけど、相手は騙せたようで。

してやったりという顔をすると、倒れたドールを確認して素早く逃げていた。


男の姿が消えると同時に大量の男達が至る所から姿を現した。

手には武器を持ち、明らかに交戦の意思を示しながらこちらを睨んでいる。


「頭は潰したぞ!この機を逃すなよ、攻めかかれ!!」


そして、始まった。

彼らからすれば奇襲戦が。


――――――――――――――――――――


「リーダー、始まりましたぜ」


「そうか」


奇襲は成功したという事だ。

予め村の女を負傷させて放りだしたのが正解だったな。

奴らの事だ、放っておかないはずだしそれに気を取られるはず。

それに本格的に戦いを始めたという事は領主に攻撃したという事だ。


「よし、防衛している奴を含めてここをずらかる準備をしておけ。

 攻撃している奴らも手頃な時に散り散りになるように、な」


混乱させて攻めれば立て直しには時間がかかる。

どんな部隊でもそれは同じだし、逃げる時間を稼ぐには最適な方法だ。

俺達だって正規軍相手に真正面から戦える気はしていない。

目くらましして、逃げ、そして国外にでも逃げて生き延びるさ。


今回はうまくいかなかったが、次うまくいくようにすればいいさ。

幸い、仲間になる冒険者崩れなどこの大陸には腐るほどいる。

・・・この村からも搾り取るだけ搾り取ったし、引き際と考えればいい。


「ずらかるんですかい?領主を討ったならここで旗揚げも出来るんじゃ」


「馬鹿野郎、そんなことすれば俺達は一瞬で終わるぞ。

 何も持っていない俺達が生き残るためにも、今はここから去るんだよ」


部下をそう窘め、逃げる準備をする。

後はこの人質をどうするか、だが。

正直逃げるのに邪魔になるから置いておく方がいいのだが、

それでは保険が無くなるしいざという時にどうにも無くなる。


「・・・とにかく、ずらかる準備をしろ。持てる物だけ持ってな。

 あとは術士の方も頼むぞ、あいつが生命線になるからな」


最悪死の呪いという魔法が俺達の活路を開く。

保健というのは大事にしてなんぼというものだ。


――――――――――――――――――――


戦況はあっという間に動いていった。

まんまと自分たちから攻め入ったと考えていた敵達。

勢いに乗せて一気に攻めかかったのが間違いだった。


「これで終わりかよ」


「ふふん、大したことないね」


セラエーノが手を出すまでも無く。

経った二人で数十人以上の男をのしていた。

一切触れられず、一切怪我を負わず。


(しかも死傷者無し、流石ね)


「ぐぐぅ・・・くそ、だが・・・本命は、やったぞ」


「お疲れさん、無駄足でご苦労様ね」


倒れ伏す男の肩を叩きながらそう言う。


「これ人形だから」


「な・・・?」


倒れ伏していたその男の目には生気どころか人の気配すら見えない。

電源が落ちた機械のような、一切の覇気を放っていないそれを見た男。

自分が仕留めたと思っていたものが偽物だったと分かり、落胆しながら気絶した。


「言う通り、ホントに脆かったわね・・・うん」


トーマさんの見た目をしてこれだから拍子抜けもいい所。

力無く倒れているそれは正に人形というものだったが。


だが、目を引くという大目的は達成できている。

そう言う意味では大活躍と言っていいわね。


「丁度別動隊も侵入したようだし、後は仕上げを見守るのみ」


あっちの作戦で死の呪いを使う術士も捕まえる算段になっている。

これだけ目を引けば必ず成功してくれるはず・・・よね?


――――――――――――――――――――


その頃、別動隊を指揮していたテネスは一つの懸念を胸に秘めていた。


(呪いの術士、その姿が未だに見えないですね)


リーダーの位置も、人質の場所も分かっている。

だが本命の一つであるその術士が見つかっていない。


「どうしましょうか、テネス様」


「死の呪いは対象を確実に殺す呪文、

 下手に攻勢に出てこの中の誰かが死んでは元も子もありません。

 居場所が確定するまで攻撃は控えるように言ってください」


時間はまだある、それに。

偵察として送った最後の斥候がまだ戻ってきていない。

その子の報告を聞いてからでも遅くはないだろう。


「彼らが逃げる算段をしているのは計算の内です。

 ならば、最重要となるのは術士、その身の安全のはず」


人質を持っていく可能性もあるが、それ以上に死の呪いを使う者を優先するはず。

彼らにとっては生命線ともなりかねない存在だ・・・或いは。


(我々の目を引くためにわざと置いていくという手もありますがね)


だがそれは彼らにとって奥の手を失うに等しい行為のはず。

そう簡単に切るという選択肢は取らないはずだ。


・・・とにかく術士を見つけなければいけない。

連れて行くにせよ、そうではないにせよ。


「テネス様!最後に戻った斥候からの報告が・・・術士を見つけたそうです」


「いい報告です、では行動を開始しましょう。

 攻撃部隊は行動を開始、人質を最優先にするよう伝達してください」


既に相手の陣形及び戦闘経過はボロボロに近い。

相手は逃げ切れるとでも確信しているようだが、既にそれは詰みになっている。


「窮鼠猫を噛むとも言いますから優勢だからと油断しない様に通達を。

 後手に回らなければ先制できるはずです、事が起きる前に潰しましょう」

読んで下さり、ありがとうございました。

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