359話
「トーマ様、何をお隠しになっているのですか?」
「・・・」
一応、カーテンなどから外を覗いて人がいないかを全て確認する。
・・・いないな、これなら大丈夫か。
「先ほど入った情報で、うちの領土内の村が冒険者たちに乗っ取られたそうだ。
一部の村民がそれに乗じてさっき正面門まで押しかけてきていたんだ」
「まあ・・・」
「ここにラティが来ている以上、騒動は広げたくない。
お互いにとってあまりいいことにならない事は確かだからな」
だから秘密裏に事を進めようとしていた。
だが感づかれた以上は隠していた方がまずいというものだ。
「それで、大丈夫なのですか?そのご様子だと懸念があるようにも見えますが」
「あるにはあるが、向かわせたあいつらなら大丈夫だ。
・・・それより君の護衛にばれた方がまずいかも知れない」
騒動にでもなれば確実に俺達に反対派の貴族連中が騒ぐに決まっている。
それだけならいい・・・だが市井に影響がでないかが不安なのだ。
やれあの場所は危険だから交易を止めろだとか、
行かない方がいいと旅人達を制止することだってあり得る。
そうなれば領地の人々の生活への影響は計り知れないだろう。
「私は何も聞いていません、そうですよね?」
「助かる」
ラティはにこりと笑うと、目の前に置かれていたティーカップに手を掛けた。
「この地は、安定していると聞きましたがそういう問題は出るのですか?」
「小さいものならいくらでも、こういう問題はどこでも出るかと思う」
対面の席に座り、ティーカップに手を伸ばした。
「そう、ですかやはりそうなのですね。
こうして現地に赴いてみなければ分からない事もあると」
「?」
「いえ、書面上ではどの場所も問題なしで順調だと書かれてばかり。
ですが、実際はそうではない・・・ということでしょう?」
そりゃそうだ。
上への報告で難色を示されるようなことは書かないだろうな。
ある程度真実を織り交ぜておきながら当たり障りのない感じで報告する、
それが当たり前であり現場の知恵というものだからな・・・うん。
「・・・その為にも今回ここに来たと」
「ええ、これを機に他の領地も年単位で回ろうかと思っています。
そのための先駆けとして今回の件、計画させてもらいました」
なるほど、その始めがこの場所ってわけか。
しかし他の奴らからすれば冷や汗ものの催しになりそうだな。
下手に腹を探られれば埃も立つ、隠しているモノがばれてまずい立場になる奴もいる。
まあ・・・それで多少国が綺麗になるのならいい事だが。
「それにしても、トーマ様の事なので一緒に行くものだと思いましたが」
「立場上、それは出来ないかと思いますよラティリーズ様」
「そうですね」
その言葉に苦笑して返した。
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「・・・なんか変な気分」
リサはまじまじとドールを見つめていた。
どこからどう見ても領主と同じ顔、同じ体格。
後ろから見ても前から見ても絶対に分からないほどに似ている。
「トーマさんを完璧に再現したから・・・ただ」
「ただ?」
リサは興味津々とばかりに神威の言葉を待っている。
その目線に多少照れる様子を見せながら神威は話し始めた。
「代わりにしかならない、当人の真似は出来てもそれ以上は無理。
これはドールの限界というか、人間との越えられない境という奴」
「そうなの?」
「見た目も考えも同じでも当人以上にはなれない。
コピーはコピーでしかないから」
絶対の自信があるようで、神威のその言葉には力が籠っていた。
横でその話を聞いていたセラエーノも何度か頷いて肯定してる。
「だよね、真似事だけじゃ本物にはなれないし。
私の工房で神威ちゃんのドールを使ってるけど、やっぱり私よりは劣ってるもの」
仕事は完璧にこなすんだけどねぇ、とも呟く。
「オリビアやセニアは自分で考えて行動できる。
だけど、新しく作った子たちは全員がそうじゃない。
・・・違いが分かるまで大分かかりそう」
「んー・・・そっちで分からない事は私にも分からないな。
ドールの専門家じゃないし、どうにもね」
そう話していると、馬車が止まった。
どうやら目的地に着いたようで、外を眺めたセラエーノは降りるように指示を出していた。
「じゃあ、行くよ」
自身のドールの背中を叩く。
すると目に光が入りすくりと立ち上がった。
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表向きは視察という形で来たんだけどね。
まあ相手からすればあんなことがあった後に領主が本拠地に来てるんだ。
・・・説明するまでも無く対処しに来たと思っているだろうけど。
「いい、皆。作戦通り事を進めるから。
何があっても勝手な行動をしない事、いいね?」
図面通りに事が運べば相手の目をすべてこちらに向けられる。
救出部隊もそれだけ楽になるという事だ。
「なあ、セラエーノさん」
「何、リギラ君」
「本当にやるのか?一応・・・変な噂とか立たないよな?」
「・・・まあ、立ったとしても誤報だってトーマさん自身に話してもらえばいいよ。
それより、事が事だから派手にやりなさいよドールさん」
「ああ」
頷いて返すドール・・・もといトーマさん。
ああ、もう調子が狂う。
いつも上の立場の人だから命令するのが変な気分だ。
ま、まあとにかく作戦を開始しよう。
村の正面に馬車を目立つように付けたので確実にバレているはず。
後はこのまま道を真っすぐに歩いていけばいい。
まずはドールが先行していくように歩く。
私たちはその後ろからゆっくりとついていく。
「・・・本当にかかるの?」
リサがそう聞いてくる。
不安になるのもそうだ、ついさっき村の広場に入ったのだけど。
・・・村が静かで何も音が聞こえてこない。
「神威ちゃん、斥候役のドールはなんて?」
「潜んでいる」
やっぱりか、どこかでこちらを見ているのだろう。
なら・・・攻撃はもうすぐだ。
わざと敵の罠にかかってやろうじゃない。
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「まさか・・・領主直々に来るとは」
村長宅の一室、人質に取った女性と子供を集めてナイフを向ける男達。
その中に先ほどの騒動の中心人物であるリーダーと呼ばれた男がいた。
「この地の領主は自身で解決したがるらしいからな。
だが、一番のお偉いさんがこんな危険な場所に出るなんて」
自分の首を絞めるようなもんだぜ、と部下は言うが。
少々厄介な状況になったとも言える。
本来なら特使か何かを寄こして交渉に来るものだとばかり思っていた。
交渉した末に多少の金品と共に撤退する、そう考えていた。
相手も事を荒立たせたくは無いはず、金でおさまるのなら円満だと。
・・・だが、ああやって出向かれた以上そうはいかなくなったようだ。
「お前たち、人質は絶対に渡すな。
そいつらが奪われれば俺達はおしまいだ」
領主、及びその護衛としてあの子供共がついているという事実。
これは相手方も相応の戦力をこちらに回してきたという事になる。
特にあの領主を守るように兵を配備しているはず、ここは・・・。
「一部戦力を残して奴らを囲んでおけ。ここの守りだけは万全にな。
それとあの術士にも連絡を入れておけ」
あいつの首さえとればこっちのものだ。
・・・指名手配は免れないが、時間を稼いで逃げるくらいはできるだろうさ。
「しかし・・・本当に領主だったのだろうな?
よく似た影武者という可能性もあるんじゃないか?」
「いやいや、門の前であった男に間違いないって。
影武者だとすれば鏡映しだぜ?」
「・・・そうか」
まあ、どちらでもいい・・・とにかく奴が大将首。
それを取れば活路が見えることには違いない。
国に反逆している身、やれるところまでやってやろうではないか。
その後は・・・逃げるだけだ。
読んで下さり、ありがとうございました。




