35話
明朝、太陽が昇る前に目が覚めた。
今日が、本戦の日・・・決戦の日だ。
緊張しているわけでは無いが、早く起きてしまった。
ジョギングでもしてくるか。
そう思い、寝間着を着替える。
動きやすい服装で、外に出た。
まだ暗く、太陽も見えない時間だったが。
俺と同じように、ジョギングをしている一人の人物がいた。
・・・トリスだ。
「朝から、鍛錬とは感心だな」
並走するように、隣に並ぶ。
俺の姿に気づいたトリスは、走りながら頭を下げた。
その行動で、足元が少しふらついていたが。
「お、おはようございます!トーマ様」
「ああ、おはよう」
走りながら会話をする。
「いつもこんな時間に走っているのか?」
「は、はい・・・先輩たちに一日でも早く追い付きたいので」
なるほど、見習いとはいえ見事な心意気だ。
「だが、誰かと一緒にやった方がいいぞ?一人だと、見えないものもあるからな」
「はい・・・でも、見習いなので、誰も相手にしてくれなくて」
その言葉を聞き、俺は足を止めた。
「相手にしない?」
「ええ、見習いに構う時間は無いと」
トリスも足を止めると、俺を見た。
その目は、とても寂しそうに見える。
「・・・」
同じ騎士団の仲間だというのに、無視する?
それはおかしくないか・・・彼も、騎士団も一員だろう。
だったら、無視するのはおかしな話だ。
トリスは汗を首に掛けていたタオルで拭く。
「だから頑張って、皆に追い付きたいんです。
僕が強くなれば、皆さんにも認められると思うので!」
そう語るトリスの目は、とても澄んでいた。
「・・・そうか、トリスはすごいな」
たった一人でも、騎士になりたいと精一杯努力している。
しかし・・・聖堂騎士がトリスを無視する理由が分からないな。
何か、問題でもあるんだろうか?
「トーマ様の方がすごいですよ!本戦にも出場するなんて!
僕も・・・いつかあの舞台に」
そう言うトリスの顔は、輝いていた。
出られるように、努力すればいつしか叶うだろう。
彼のような努力家なら、尚更だ。
「ああ、頑張れよ・・・トリス」
そう言って、トリスの肩を叩く。
「はい!」
とてもいい表情で、トリスは頷いた。
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トリスと別れ、しばらくジョギングしたら朝日が上がってきた。
光がカテドラルを包むと、ステンドグラスが眩しく輝く。
・・・一端、闘技場に行ってみるか。
誰と戦うのかも、気になるしな。
闘技場内では、抽選の準備が始まったばかりだった。
16人の誰が、どのタイミングで戦うのか未だに決まっていないようだ。
現に、目の前に張り出されている予定表には線は引いてあるが、
名前の記入はまだだった。
昨日の受付にいた女性が、くじを作っている。
なるほど、あれで決めるのか。
なら・・・俺は見ない方がいいだろう。
そう思い、もう少し走ることにして闘技場を後にした。
朝食前には、拠点に戻った。
すると・・・コンロ辺りで何かをしているセニアがいた。
「セニア?」
「・・・」
黙々と、鍋の蓋を開けては中のものを確認している。
様子を確認しては、魔法の火の加減を調節していた。
その手際は見事のほかない、料理が得意なのか?
集中しているようで、俺の声は聞こえなかったと見える。
「・・・セニア?」
隣まで近付いて、2度目の名前を呼ぶ。
「え、あ・・・はい!」
隣にいた俺を見ると、驚いた表情をするセニア。
そして、頭を一度下げた。
「ご、ごめんなさい・・・まだ、名前になれてなくて」
「ああ・・・そういうことか」
呼ばれていないと思っていたのか。
それはそうか・・・昨日の今日で名前が変わったんだ。
すぐさま順応できる人の方が少ない。
「トーマ様。何か御用ですか?」
「いや、台所(仮)で何をしてるのかと思ってな」
「あ、お料理です!」
そう言うと、鍋の蓋を開けてきた。
その中には、何か赤いものが入っていた。
何かを煮立たせているようにも見える。
「ジャムを作ってたんです。マスターの好物のイチゴジャムですけど」
ああ、苺か。
道理で赤いはずだ。
甘酸っぱい匂いが部屋に広がる。
「しかし、セニアは料理が上手いな」
ジャム作りは難しいはずだ。
火加減によっては焦げ付くし、初心者向けとは言いづらいはずだ。
「そ、そんなことないですよ?料理スキルを高く設定されているだけです」
「そうなのか?」
「はい、ドールのスキルツリーは複数あるんですけど。
そのうちの一つ、『メイド』が私のスキル構成です」
・・・たしか、セニアは近接攻撃型にスキルを組まれていたはず。
メイドとは、一切関係ない気がするが。
「その構成は、攻撃型と関係あるのか?」
「はい、『メイド』の最終スキルは『鞭特性S+』と『サポートS』です」
そうか、鞭特性を取るために、メイドのツリーを選んだのか。
神威も考えてるな・・・。
しかし、メイドの最後のスキルが鞭特性とは。
ゲーム製作者は何を考えてるんだ。
話していたら、鍋から少し焦げる臭いがしてきた。
「あ・・・」
急いで鍋の蓋を開け、かき混ぜるセニア。
・・・これは、邪魔をしてしまったな。
「うん、大丈夫です。トーマ様、瓶か何か持っていませんか?」
鍋の様子を見たセニアがそう言う。
「瓶?」
腕を組み考える。
俺は戦闘職特化だ、基本薬品関係には手を出していない。
つまり、瓶を使う事が無いのだ。
八霧なら、余っている空瓶は大量に持っているはずだが・・・。
使用済みの回復ポーションの瓶なら、多少は持っているが。
ジャムを入れるつもりなのだ、洗っていても使用済みは避けた方がいい。
「トーマさん?帰ってたんだ」
丁度いいところに、八霧が帰ってきた。
手には、麻袋・・・その麻袋の口からは草や花が見えている。
「八霧、薬草採取でもしてたのか?」
「うん。こっちの材料を集めてたんだよ。運動も兼ねて」
そう言うと、持っていた麻袋を降ろした。
「八霧さん、瓶を持っていませんか?」
セニアがそう問いかけると、即座に空の瓶を取り出す八霧。
「こういうの?」
「あ、えっと・・・」
しかし、その瓶の形は。
フラスコのような形だ、ジャムを入れるには向かないだろう。
「八霧、ジャムに最適な円筒状の瓶は無いか?」
「ああ、ジャムを入れるんだね。
・・・どうりで、甘い匂いがすると思ったよ」
そう言うと、八霧は道具袋から円筒状の小さい瓶を取り出した。
丁度良さそうな大きさだ、これなら問題はないだろう。
「保管用の瓶だから、長持ちするはずだよ?」
八霧が瓶をセニアに手渡す。
セニアは一度頭を下げると、鍋のジャムを瓶に入れ始めた。
そして、何かに気づいたように
「そうだ、お二人の弁当も作っておきますね!」
「お昼?」
八霧がそう返す。
「はい、御前試合の途中で食べるお昼御飯ですけど・・・いらないですか?」
そうか、御前試合は朝方から夜更けまで一日通して行う。
必然的に、昼休憩もあるわけで。
・・・昼食を食べるという事を考えていなかった。
「皆で、一緒に食べましょうね?」
「ああ、それがいい」
運動会の昼食のイメージが頭に浮かぶ。
例え、競い合っていても飯は仲良く食べるものだ。
「そうだね・・・うん、僕も楽しみだよ。
ちなみに、おかずは?」
興味津々という感じで、おかずについて尋ねる八霧。
「色々作る予定なので、お楽しみに」
そう言うと、ジャムを全て瓶に入れるセニア。
同時に、鍋を洗い出した。
・・・今からおかずを作り始めるのだろう。
「さて・・・俺はもう一度闘技場に行ってくるが。
八霧はどうする?」
「僕も見に行くよ、誰と当たるか・・・気になるしね」
八霧も行くことを同意したので、一緒に見に行くことにした。
もうすぐ、本戦が始まる。
俺か八霧か、それともゼフィラスか。
・・・勝ち残るのは、果たして誰になるだろうか。
読んで下さり、ありがとうございました。




