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340話

人混みを避けながら何とか目的地の前まで到着した。

途中何度か市民に声を掛けられることもあったが、

大した騒ぎにならなかったのは幸いといった所だろう。

・・・最悪大騒ぎになって前に進めない事も考えたが、な。


「疲れたね・・・うん」


「八霧、お前結構人気者だよな」


女性の大半は八霧に話しかけていた。

頬を染めながら。

・・・その度エリサが鬼の形相を見せていたのは内緒だ。


「ええ・・・エリサがいるのにそれは・・・ねぇ」


「当の本人共はそう思ってないってことだ」


そこまでしつこくなかったからよかったものの、

ストーカーなんかがくっ付いてきたら質が悪い。


まあ・・・とにかく目的地には付いた。

目の前に広がるホールがそれだ。

結構いろんな人影が出入りしているところを見るに、既に準備は進んでいそうだな。


「ええと、確か夕方辺りに正式に開けるんだよね?」


「俺達はその前に来てくれってことだったからな」


現在出入りしているのは役員や手伝い達だ。

それを示すように腕章を付けている。

ゼロームの紋章を刻印した布製だが、しっかりとした出来のそれを。


「正面からは入らない方がいいわねぇ」


「裏口なんてありましたっけ・・・始めてくるので何とも」


歩いていれば分かるだろう。

・・・あまり目立つ場所には無いはずだが。


――――――――――――――――――――


「いやはや、生きている内にこんな祭典に参加できるとはのぉ」


「じっちゃん、早くいかないと!」


目の前を老人とその孫であろう子供が手を引っ張りながら走っていく。

足腰が弱っているように見える老人は、その勢いに何とかついていっている。


「平和になったのですね、本当に」


「随分前から平和になっていたわよ、リーゼニア」


リルフェアは呆れた顔でそう返す。


「いえ、その、こうして活気のある街を改めて見るとつくづくそう思いまして」


「そうね・・・一時は壊滅寸前まで追い込まれたのだから。

 ここまで戻るにはかなりの時間と力を使うことになった。

 でも、みんな生きているし前に進んでいる」


ゼローム国王が王権をリルフェアに返したため、

リーゼニアの立場は姫ではなくなった。

とは言え以前と同じ扱いは受けており、それはリルフェアも認めている。

国のトップが急に変わるのはいい影響もあれば悪い影響もある。

特にリーゼニアは国民の人気も高い方であり、

王族から離れるという事実から来る反乱も一部では噂されていた。


実際はそんな反乱を起こす力を持った者もおらず、

危惧されるだけされて取り越し苦労となった。


「あの、リルフェア様」


「何?」


「今回のパーティーにシャルードを呼んでいると聞いたのですが」


「ええ」


すんなりと肯定し、頷いてそう返すリルフェア。


「いえ、あの、シャルードですよ?

 現在ヘルザード政府からも半軟禁状態だと聞きますし。

 それにその・・・なんというか」


「・・・分かってるわ、だからこそ呼ぶのよ。

 彼だって戦乱を引き起こした一人だけど、完全に自分の意志ではなかった。

 このまま放っておけば一生彼は軟禁されたままよ」


その言葉にリーゼニアは怪訝そうな顔を見せた。


「救う、おつもりですか?」


「そうじゃないわ、ただチャンスは誰にでも与えられるものよ。

 それにね、この提案は色んな人が絡んでいるの」


「え?」


――――――――――――――――――――


その頃、パーティー会場ではあわただしく準備が行われていた。

本来こういう催しは貴族限定だったり、平民のみだったりするもの。

それらすべてが入り乱れた宴会など初めての催しであった。

現に指揮を執っている人間も頭を抱えながら指示を飛ばしている。


「うわー・・・大変そう」


丁度料理の準備の最中だったようだ。

ホールど真ん中に鎮座する大型のテーブル周りに大量の料理が用意されている。

美味しそうな匂いがこちらまで届くが、それ以上に気になるのは。


「半分も終わってないようだな」


大きなテーブルの上にはその半分くらいしか用意が出来ていない。

皿などはきちんときれいに並べられてはいるが、

メインとなる料理自体が間に合ってないように見える。

・・・さっきからメイド服姿の女性が何度も往復しているところを見るに、

猫の手も借りたいほどの忙しさになっているのだろう。


「手伝った方がいいかな・・・?」


「プリラ、料理は出来るよな」


「ええ、エリサちゃんと手伝ってくるわ」


「私も何か手伝うよ」


プリラとエリサ、セラエーノは厨房に向かっていった。


「俺達も手伝えることがあるはずだ、探してみよう」


その場に残るメンバーはその言葉に頷いて返して見せた。


――――――――――――――――――――


会場の準備が進んでいると、そう報告を聞いたので一度見に行くことにする。

今日は夕方から盛大なパーティーになる、それこそ国家最大規模の。

故に、様子も気になりはした・・・どこまで進んでいるのかと。


「・・・ちょっとまずいかもしれないわね、これ」


「り、リルフェア様!?お越しになられていたのですか」


メイドの一人に気づかれた。

一応フードを被ってこっそりに見に来たのだが、分かる人にはすぐにばれるらしい。


「準備、間に合うのかしら?」


「そ、それはその・・・全力で事に当たっています。

 何とか間に合わせるよう全員の力を結集していますので」


「・・・」


準備時間は十分に取ったはず。

なのに、どうして遅れが・・・?


「本来ならば別の場所から料理を調達する予定だったのですが、

 そちらの店の調達予定がかなり少なく見積もっていたらしく」


「ほとんど用意できなかったって、ことね」


「はい、申し訳ありません」


今更後の祭りだ。

・・・それより気になるのはその報告を貰っていないことだ。

料理長が故意に隠した、という可能性が高いかもしれない。


「料理長は?」


「休憩に入っていますので、少し経ったら戻られるかと」


「そう」


話を聞いておきたかったが、まあそれは後でもいい。

今は準備の方が優先だ。


「人員を増やしてもいいから間に合うようにしなさい。

 足りないものがあるなら直ぐにでも調達できるよう手配するわ」


人員を増やせばその分加速するはず。

現場は今見た部分でしか分からないが、マンパワーを付ければ自ずと・・・。


「料理を並べる時は重いやつを先に運んでおけ!

 その方が後で並べやすくなるぞ」


「了解しました!」


一人の青年が隣を通っていく。

カートの上に大量の肉類を乗せた皿を載せながら。


「飲み物はどうしましょうか?」


「いちいち配ってたらいくら人がいても足りなくなる。

 今回は市民も入ることを考えれば、自分で注いで貰った方がいいな」


「あの・・・それは貴族様も一緒で?」


「特別扱いは無しだ、不満は俺の所にでも来させればいい」


随分な物言いをするリーダーがいたものだ。

この場に貴族の一人でもいれば文句の一つも言われるところだが。


「あら、トーマじゃない」


「視察に来てたのか?ラーナ、お前は向こうの掃除を頼む」


「あ、は、はい!」


今まで話していたメイドが走り去っていく。

・・・ちょっとお邪魔したかしら。


「この様子ならギリギリ間に合いそうな所だ」


「手伝っていたのね」


「来た時にはかなりやばそうだったからな・・・。

 手伝わないわけには行かないだろ」


当然、とばかりにトーマは顔を引き締める。

ああ、そうだこういう人だ。

困っていたらいつでも助けてくれるのだ。


「私も手伝おうかしら」


「それは勘弁してくれ、これ以上騒ぎになったらそれこそ間に合わなくなる」


・・・やっぱ、そうなるわよね。

仕方ない、このまま戻りましょう。


もう、ここは大丈夫だろうし。


読んで下さり、ありがとうございました。

次回更新は2週後になります。

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