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336話

リルフェアが店の奥の部屋に入る。

その姿を見た全員が一瞬呆けた顔を見せたが、次の瞬間には佇まいを戻した。


「今日はお忍びだからそうかしこまらないで。

 それに、表じゃ引退した身だからね」


「そうは言っても、一国の重要人物であることには変わりありません」


ジーラスがそういう。

周りもその言葉に頷いて返していた


「それに、ここなら私が襲われる確率は限りなく低いわ」


「・・・低い?」


割と自身があるようにそう言い切るリルフェアに疑問を覚える。

確かに治安は他に比べていい方だが完全完璧というわけじゃない。

盗賊はいるし、殺人事件だって多少だが起こる。


そんな中で襲われないと言い張れるのか・・・?


「あら、領主様は何も知らないようね」


「・・・何も聞いてないからな」


誰か護衛でもつけているのか?

だとしても、報告も何もないしついているとは思えないのだが。


「神威ちゃんの作ったドール、それを領地全ての街や村に配備。

 それを介して情報収集をしている、までは良いわね?」


「その通りだ」


これはリルフェアとラティに話を通してある。

概要を簡潔に述べるくらいだったが。


「そのドールに重要人物警護のシステムが組まれているらしいの。

 ここに来るまで影から見守ってくれていたわ」


「・・・」


ああ、そう言えば確か設計資料にそんなことが書かれていたような。

実際に実装していたとは思わなかったし、

その現場を見た事も無かったので気づかなかった。


「それならば安心、ですね」


「ええ、首都にいるよりも安全かも知れないわ。

 だからここにいる間は身の安全は保障されているわけ」


試しに外をちらりと見てみると、遠巻きにドールが確認できた。

あれは、試作されたうちの一体だったはず、

背格好はオリビアたちに似ているが黒っぽいコートでそれがわかる。


俺の視線に気づいたか、一つ頭を軽く下げていた。


「まあ・・・その話はとにかく。八霧君、おめでとうね」


「ありがとうございます」


お祝いの言葉を言い終えたリルフェアは、一つパンと手を叩いた。


「さあ、私も参加させてもらうわ」


「酒盛りに、ですか!?」


ぎょっとした顔を見せるジーラス。

ドノヴァもレンドガも驚いた顔自体は見せなかったが、

その言葉に多少の驚きは感じていたようで身体を少し動かしていた。


「いけないかしら?こういう場でもないとゆっくりとお酒なんて飲めないもの」


「いいんじゃないか」


未開封のワインを取り出し、空のグラスを渡す。

こんな時くらいじゃないとゆっくりと酒の一つも飲めない立場なのは分かる。

じゃあ、それを邪魔するのは野暮ってもんだ。


「ありがと、トーマ」


「普段は気を抜けない分、この場は存分にな」


「あはは・・・リルフェア様と飲むことになるとは夢にも思いませんでしたよ。

 トーマ殿、私にもいただけるか」


ジーラスのグラスにもいくらか注ぐ。


ああ、これでいい。

この場は無礼講というもの、文字通りに。


――――――――――――――――――――


「意外に飲めるのね・・・リルフェア様」


俺もそれには驚いた。

プリラもかなり強い事は分かっていたが、それ以上かもしれない。

まあそうはいうが、実際にはプリラの周りにも大量の酒瓶が転がっている。


俺も似たり寄ったりだが。


「ふが・・・ぐおぉぉぉ」


酒に強そうなレンドガは既に夢の世界に旅立っていた。

一番最初に寝たのだが、それでも一般人からすれば驚異的な量を飲んでいる。

新人歓迎会でこの量飲んだら病院に担がれるくらいには腹に入れたはずだ。


「ジーラス、お前との戦いはまだ終わってない」


「そうかそうか、じゃあもう一杯行くぞ」


いつの間にかドノヴァとジーラスは飲み比べを始めていた。

決着つかずで二人共顔を赤くしながら何度も注ぎ合っている。


「あははは!それ以上飲んだら二人共ぶっ倒れるぜ!」


フェイもその二人に交じって飲んでいる。

楽しそうで何よりだ・・・というよりも少しうるさい。


「やれやれ、節度を守って飲んでほしいけどね」


「八霧」


多少あきれ顔でそう言う八霧。


「僕は苦手だから飲まないけどさ」


一応年齢的には飲めるくらいにはなっているし、この国では飲酒可能なのだが。

元々酒というものが得意じゃないらしく飲まないとのこと。


「セラエーノも来るっていってたんだがな」


深夜を回り始めていたが来る様子が無い。

仕事が終わらないのだろう、こういう席には絶対来たいはず。

強引に終わらせてでも来るはずだ。


なんて思っているとリルフェアが口を開いた。


「ここにいるみんな、本当によくやってくれたわ」


「・・・生きてるだけ不思議だがな」


どこかで一つ掛け違えただけで何人死んでいてもおかしくない状況だった。

それを主要な人物は死なずに済んだのは奇跡に近い。


「そうね・・・ほんとうに・・・ええ」


流石にあれだけの飲酒をすれば眠くもなるだろう。

多少舟をこぎ始めたリルフェアに、プリラが毛布を掛けた。

それに抗うことなく、そのまま机に突っ伏して寝息を立て始めている。


「トーマさんはまだ大丈夫?」


「ああ、それより他の奴らは・・・寝始めたか」


気づけばドノヴァ達も床やソファーに転がっていた。

起きてるのは俺やプリラ、酒を飲んでいなかった八霧達だけだ。

・・・一気に静かになったな。


「そう言えば外のドールはまだ近くにいるのか?」


そう言いながらカーテンを捲って外を見まわす。

辺りは真っ暗、多少の明かりが遠くに見えるくらいで何も見えやしない。

まあ護衛役として付いてきたのだから近くで隠れているとは思うが・・・。


「・・・?」


ふと、廊下側から足音が聞こえてくる。

侵入者かとも思ったが大した音はしてない、

窓などを破って入られたわけではないだろう。

じゃあ・・・。


「や、ごめん!遅くなった」


「セラエーノ?」


合鍵らしきものを握りしめたセラエーノが、神威を背負って現れた。

顔色は良いが汗を掻いているその姿は、どれだけ急いだのかを物語っていた。


「最期の注文がなかなか終わらなくてさ、さっきようやく仕上げたんだ。

 ・・・神威着いたから降りて大丈夫」


「うん」


背負われていた神威はするりとその背から降りる。

地に足を付けると同時に後ろからドール達が入ってきた。


「ごめんね八霧君、こんな時間にお邪魔してさ」


「いいけど・・・もうほとんどお酒無くなっちゃったよ」


「大丈夫、持参してきたからね」


そう言ったセラエーノは大量の瓶を道具袋から取り出した。

・・・いや、元あった分よりも多いような気がするが・・・?


「さあ、飲ませてもらうよ」


早速、一番近くの酒瓶に手を伸ばすなり蓋を外して飲み始めている。

・・・グラスにも注がずにそのまま。


「やー!仕事終わった後のお酒は最高だね」


「あんまり酒に強くないんだから、飛ばさない方がいいぞ」


「大丈夫、大丈夫。弱めのだから」


そうは言うが一気に飲むのは身体に悪い。

羽目を外すのはそれで構わないのだが、倒れられでもしたら心配というものだ。


「って、リルフェア様もいたんだ」


既に眠りの世界に入っているその人物を見つけたセラエーノ。

一度何かを考えるそぶりを見せると何度か頷いて見せた。


「大変な立場だよね、こんな時じゃないと羽目なんて外せないだろうし。

 私達に比べれば背負っているものも馬鹿でかいだろうし」


「・・・ああ」


俺達は俺達で背負っているものはある。

だが・・・彼女に比べれば小さいものだろう。


「だから支えていかないといけない」


「まぁね、出来ることは限られるだろうけどさ」


夢の世界で何を見ているかは知らないが。

その顔はとても安らかだった。

読んで下さり、ありがとうございました。

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