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332話

女性、つまり天界の代行が去ってから数日経った。


色々な考えが頭をよぎっては消える。

これからどうするか、領主として何をすべきか。

仕事として意味を成して全力を尽くしていけるか、そして実行していけるか。


そう思いながら、今日はプリラ主導で再建している教会に来ている。

考えていても仕方ない、そう思いながら職務をこなすことにした。


「・・・見違えるほど立派になったな」


最後に見た時は廃墟と見まごうほどに廃れていた。

というよりもその状態でよく教会として使われていたな、と思ったほどだ。


それが今や新築かと思わんばかりの輝き。

ボロボロだった庭ごと綺麗に再建されていた。

既に公開しているのか一般市民の出入りも見える。


「あら、もう来てたの?昼過ぎに来ると思ってたんだけど」


「それは公式の訪問だ、今は個人として見に来た。

 ・・・それに地下に拠点を併設しているんだろ?」


拠点の話は書記長などには通していない。

あくまでメンバー内の秘密の場所として作っている。

現地の人には離せない内容などもあるだろうし、何より。

メンバー全員が自由に使える秘密基地というものが欲しかった。

有事の際に集まることもここならできる。


「ええ、と言っても本当に大したものじゃないわ。

 寝る場所とキッチン、広間が一つあるだけで特殊なものは何もないし」


「それでいいのさ、むしろ必要なものだけ置いておく方がいい」


二人で教会に入る。

すると、中で祈りを捧げている市民が複数見えた。


「ご本尊もようやく造り直せたの、今日初めての祈りの日よ」


プリラの言うご本尊とは、教会の奥に飾ってある女神像の事だ。

前に置いてあったものは損傷こそ少なかったものの、それでも痛みが激しかった。

なので教会の総本山の方から許可を取って新たな神像を作ってもらったというわけだ。

・・・まあ、そこそこの金額がかかったが。

市民の感情を考えれば安い出費というものだろう。

この混乱した状況を収めるためにも宗教というものも一つ役には立つだろうし。


「・・・それよりも、まずは拠点だな」


屋内、シスター達が寝食をするさらに奥の突き当りの壁。

一目にもつかないようなこの袋小路の通路の壁に、それはある。

その壁には一つの絵が飾っているのだが、

その下には白色のネームプレートがある。

このプレートに、八霧の作った石をかざすと・・・。


壁の下が反応。

僅かに音を立てながら、階段が出現した。


「良く出来てるな」


「テネス謹製の隠し扉よ」


階段を下りていくと、すぐに光が漏れるドアが目の前に現れた。

既に他のメンバーが到着していたらしい。


「さあ、お披露目と行きましょうか」


――――――――――――――――――――


「ようこそ、トーマ」


「・・・リルフェア?」


そこには意外な人物がいた。

この場所を知らないはずの人物が。


「テネス、これはどういうことだ?」


リルフェアの横に佇んでいるテネスにそう声をかける。


「後々知られて色々勘ぐられるよりは先に知らせておいた方がいいかと。

 別に後ろ暗い事をするわけでもありませんし。

 それに認知されていた方が損は無いかと思いまして」


「それはそうだが」


少なくともリルフェアという国でも重要人物に知られていれば、

いざという時に頼りになるだろう。

・・・と言っても、もう秘密基地ではなくなってしまったが。


「私はそろそろお暇するわ、この教会の再建で顔を見せに来ただけだから」


そう言うと、リルフェアは階段を上がっていった。

顔を見せに来ただけ・・・?


「テネス、リルフェアの護衛にはどう話したんだ?

 何も話していないとしたら今頃焦っていると思うんだが」


「大丈夫ですよ、ゼフィラスさん一人だけ護衛に付けたお忍びですから」


「・・・いや、俺達が来た時にゼフィラスの姿は見えなかったぞ?」


「それはそうでしょう一応お忍びで来ているわけですから。

 どこかに隠れていたはずですよ、あれでも有名人の一人ですからね」


そうだ、確かに有名人だ。

しかし、どこかにいたのだとすれば俺たちの姿を見られてもおかしくは無い。

この場所がばれる可能性もあるだろうが・・・まあゼフィラスなら大丈夫か。


「さて、メンバーのみになりましたし会議と行きましょう」


テネス、八霧、神威にエリサ。

プリラは上で何かしてからくるようだし、セラエーノも同じだ。


「で、何が議題だ?」


「これからの事ですよ。一応は領地の発展が最重要になるかとは思いますが。

 それとは別にここで話したいことがあります」


広間の端にあるホワイトボードを中央まで持ってくると、

スラスラと綺麗な字でその議題名を書き始めた。


「・・・ああ、なるほどな」


そこには宵闇さんとGさん、そしてギルダーの墓を建てる旨の言葉が書かれていた。


「国の資金とは別に、我々の持ち金で作ろうかと考えてますが。

 皆さんはどうですか?」


全員の顔に困惑や、迷うような顔は見えない。


「賛成だ、場所は宵闇さんが眠る北方のどこかでいいだろ?」


「そうだね、うん。あまり豪勢じゃなくて質素なものでいいかも。

 あの二人だとそこまで高そうな墓は喜びそうにないし」


「ん・・・」


八霧も神威も同意の様だ。

断る理由なんかない、勿論まだ来ていない二人もだ。


「分かりました、では準備を進めておきますね。

 トーマさん、日取りなどの打ち合わせをしておきましょう」


「ああ」


――――――――――――――――――――


それから、墓作りはスムーズに進んだ。

場所は北方、かつて災竜という存在が初めて現れたその土地。

そして宵闇さんが転移し、散った場所。

その近くの小高い丘に、3つの墓が並んだ。


石を削り出し、積み上げられて造られた簡素だが造りこまれた墓。

名前もきちんと刻んである。


「これで、三人共に安心して眠れるでしょうね」


「二人は天界に・・・いや、言いっこなしか」


どこにいようがこういうのは形が大事だ。

少なくともあの二人も今回の戦いでの功労者。

・・・墓くらいだれも文句は言わないだろ。


「リルフェアとラティまで来るとは思わなかったが」


どこで漏れたか・・・というよりは恐らくテネスが言ったのだろう。


「・・・宵闇さんの血を継いでますし、そういう意味では祖先にあたりますから。

 彼女たちも来る理由は十分にあると思いまして」


「ああ」


墓前で目を瞑っている二人。

冥福を祈っているのか、或いは感謝を伝えているのか。

それは分からなかったが二人の顔色に曇りはない。


「でも、いい場所を選んだね」


「だろ?ここは見晴らしがいい、天気がいい日には首都付近まで見えるかもな」


今日はそこまで天気がいいわけではないので、遠目では確認できない。

だがここはそれほどに見晴らしのいい場所だ。

三人が眠るにはいい場所だろう。


「宵闇さんもGさんも最後まで己を通した。

 ギルダーも利用されたとはいえ罪悪感の中で死んでいった」


「うん、褒められもしないけど貶すことも出来ないね・・・。

 僕はそこまで好きじゃなかったけど・・・でも、死んでしまうとなんだか、ね」


あいつも、闇の中で必死でもがいて散った。

そう言う意味では利用されただけの哀しい存在だったかもしれない。

だから、せめて墓くらいは作ってやってもいいだろう。


「さて、墓参りはこれくらいにして帰りましょうか?

 そろそろ経たないと拠点に着くころには夜になってしまいます」


「よし、引き上げるか。リルフェアの警備に経つと伝えておいてくれ」


「は・・・!」


傍に控えていた兵士が走っていく。

・・・やはり国のトップ、どこまで行っても警備がつくもんだな。

そう思いながら自分たちの乗る馬車へと歩いていく。


あと数歩で馬車に乗るというところで暖かい風が吹いた。

振り向くと、墓の前に誰かが立っていた気がした。

三人の男が、いたような気がしたのだ。


「トーマさん?」


「いや・・・何でもない」


行こう、前に。

既に去った三人の為にも。


読んで下さり、ありがとうございました。

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