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329話

いつの間にか眠っていたようだ。

朝方だったのが既に日が完全に上がり、眩しいほどに輝いていた。

既に昼に近い、寝すぎたか。


「おや、起きましたか?」


「ああ・・・ん?」


寝ている間に崩れた体勢を直すと、ある事に気づいた。


「なんで神威が増えてるんだ?」


いつの間にか、本当にいつの間にかにそこにいた。

寝ている間にプリラの脇に神威が増えていたのだ。

どこで乗せたんだ・・・というより止まった事にも気づかないほど寝てたのか。


「道中全員合流する予定になってますよ、ほら」


馬車の後ろを開けると、背後からもう一台の馬車がこっちを追ってきている。

中には誰か乗っているようだが、姿は見えず鞭を持つ御者のみ見えていた。


「後はセラエーノとエリサを拾うだけなのですが。

 どうやら買い出しに行っているらしく、先に行ってくれと」


「そうか」


じゃあ、あっちには八霧だけが乗ってるのか。

こっちに乗ればよかったんじゃないかと思うが・・・。


「元々エリサとセラエーノがあっちに乗る気でしたので、

 それに借りてしまっている以上使わないともったいないですし」


「まあ、そうだな」


「それよりもセラエーノとエリサが合流していたら、

 あっちは賑やかになってそうでしたね」


「賑やか、というよりはセラエーノが茶々入れるような気がするが」


その言葉でお互いに苦笑した。

戦いも終わったんだ、あの二人もゆっくりと距離を縮めて行けるようになる。

ゆっくりならいいが数か月後には子供が出来ていてもおかしくはないか。


「そう言えば、俺以外で怪我が酷い奴はいたのか?

 入院しただとか聞いてないからあまり心配はしていなかったが」


「そこまで酷い子はいなかったけど、御前試合関係者達には結構いたそうよ?」


「死んだ者はいなかったそうですが、今でも入院している人もいるらしいですね。

 怪我が治り次第褒賞と爵位を与える手はずになっているようですね」


フェイやレンドガ、ドノヴァにジーラス達も貴族になるのか。

名目上そうなるだけで彼らならそこまで変わらないだろう。


暫く馬車が走っていると、急に振動が少なくなってきた。

畦道から整備された道に切り替わったことはそれで分かったのだが、

それはつまり街に近づいているということだ。


「そろそろだな」


馬車の窓から外を見る。

その様子は復興を始めている王都が映っていた。


あの戦いで直接的な被害自体はほとんどなかったらしいが。

それでも一部地域は魔物の襲撃を受けて半壊した場所もあると聞いた。

馬車で走るこの道もその地域らしく、崩れた家や壊された防壁が目立つ。

だが、行きかう人の顔は明るい。


「皆、明日の為に必死になってますね。

 これもこの世界が守られた証拠とも言えます」


「大変そうだが、な」


「大変ということは生きているということですよ。

 滅ぼされては何も残りませんでした」


復興はまだまだ先になるだろう。

だが、何れは何もかもが直る。

人が明日を目指す限りは。


――――――――――――――――――――


馬車止めに馬車を置き目的地へと歩く。

ええと、まずはリルフェアの元へ行って色々と手続きだな。


「領地はトーマさんが管理運営することになっています。

 つまり我々の領地全てはトーマさんの名義となりますからね?」


「つまり俺の管理下で領地全てを収めることになっているんだろ?

 難しい話はよく分からんが、代表としてリルフェアから賜る。

 んで、メンバー全員で共同して経営していく、といった所か」


「ええ」


始め聞いたときはどう断ったものかと思ったが、

断られた方が面倒事が多くなるとのことだ、双方共に。


一番の勝利の立役者へ褒美も出さない、

それによって恩賞目的で動いた貴族などが自分は貰えないのでは?

そう考えることによって国に対する不満が募って反乱するかもしれない。

今そんなことが起きては余力が足りず戦火が長引く可能性もある、

だからこそ不満の芽は摘んでおきたいということらしい。


まあ、こちらとしても領地を貰えること自体は有難い話ではある。

領地があれば八霧の店を開くことだって簡単になるし、

神威の為にドールの工房を作ることも可能だ。

何よりメンバーの為に資産が出来るということは生きていく上で有利となる。

・・・今後もこの世界で生活するにも金は必要だからな。


「この決定、不満を口にする奴もいるだろうな」


「まあ・・・そうですね。我々は貴族連中からすれば平民ですし」


「大丈夫よ、多分」


「プリラ?」


「口だけの人間なんて口論にも値しないわ、私たちは英雄なんだから。

 実を持っている人材には誰も敵わないものよ」


口だけ?

ああ、まあ、そうか。

彼らは今回の事で大っぴらに不満など言えるはずが無いか。

最後まで戦い抜いたのは俺達と傭兵、そして義勇軍、聖堂騎士の生き残り達。

国からすれば上級市民などと言えない奴らばかり。

聖堂騎士はそこまでではないと思うが、実情はそうだ。


全員平民、それが世界を救ったのだ。

と言っても一部の貴族はその身を戦場に置いたはず。

・・・ほんの、ごく一部の話だが、な。


――――――――――――――――――――


「トーマ、今回の件に関しては感謝以外言えることが無いわ」


俺達はリルフェアがいるカテドラル・・・ではなく。

損傷が少ない郊外の要塞の奥で謁見をしていた。

カテドラルは前の襲撃での損傷がひどいらしく、修復中。

それが終わるまではこの要塞を住居としているらしい。

そのため、謁見室も随分質素なものだった。


「やるだけのことはやった・・・んだが、それでも被害がな。

 すまない、もう少しうまくやればここまでの事にならなかったと思うのだが」


「それはないわ、皆が全力と命を懸けたからこそ生き延びたの。

 だからこれが最善、この状況自体が最善の結果よ」


最善、そうだな。

そう思って、明日も生きていくしかないだろう。

家族を失った者、友人を失った者、持つもの全てを失った者。

だが今も生きているのだ、失った者たちは。

亡くなった者の為にも、明日を生きていくことが何よりの慰めとなる、か。


「それで、領地関係の話は既に聞いていると思うのだけど」


「初めて聞いたときは耳を疑ったがな、本当なんだよな?」


「ええ、一応王の方にも確認は取ったけど二つ返事で了承していたわ」


リルフェアは座る位置を正すようにすると、背筋を伸ばした。


「トーマ、今回の件は国民を安心させると同時に国自体の動きを抑止する策。

 前者は功績の大きいものにそれ相応のものを与えたという事実、

 後者は貴方の危険性を少しでも和らげるための政策よ」


「・・・危険?」


意外な言葉だった。

今までこの国に牙を向けたことなどない、はずだが。


「・・・世界を滅ぼす力を持った者を屠った存在。

 それがいかに危険な存在かは説明するまでも無いわ」


「・・・」


ああ、そうか。

そうだ、その通りだ。

今の俺は世界を破壊できる力を持っていると国中から思われていてもおかしくない。

何せその力を持つ男を倒したのだからな。

てっきり、貴族当たりの牽制の為かと思っていたがそうではないらしい。


「だからこそ、領地を持たせて完全な臣下として私の元に置く。

 これで感情的にも味方と思わせるの、貴方を『ゼローム』の剣だと思わせて」


「俺の意思は多分、関係なくそう思われるんだろうな」


これは本人が何と言おうともそう思われるということだろう。

こいつは危険だ、だから排除しなければならない。

そう思われても不思議じゃない立場にいる。

だからこそ、先んじて手を打ち自分の配下とすることでその必要は無いと示す。

・・・考えとしてはこんな感じだろう。


何もせずにいるといつの間にか悪者にされて攻撃されかねないな、確かに。


「それと、領主としてあまり大きな動きは見せない方がいいわ。

 貴方にそんな気が無い事はよくわかっているけど、対外的に、ね?」


「ああ、暫くはおとなしくしておくつもりだ」


「・・・トーマ殿、そのことで提案なのですが」


無言で傍に佇んでいた参謀の一人が口を開いた。


「ん?」


「しばらく休暇という形で休まれてはいかがでしょうか?

 戦中の怪我が未だ癒えず、治療のためにしばらくは休むと言えば納得するかと」


「いい考えね」


休暇か、確かにそれなら大人しくしておくには最適だ。

・・・まあ、実際は休むつもりはないし身体のなまりを取っておくにもいい。


「では、暫く休暇を与えますトーマ。

 一応、身体に気を付けるのよ?」


「・・・ああ」


意外な形で休暇が取れることになってしまった。

社会人であった時ならば嬉しくも感じただろうが今はそこまでじゃないな。

・・・とにかく出来ることはやっておこう、目立たない程度に。

読んで下さり、ありがとうございました。

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