32話
13回戦、14回戦と順調に進んでいく。
16回戦が終わったのは、夕方過ぎ。
これで・・・本戦の全ての人間が決まった。
1回戦勝者『ラクリア』。
長剣とレイピアの二刀流の剣士。
数々の魔物を屠った『双異剣のラクリア』。
2回戦勝者『ドノヴァ』。
フランベルジュを持つ、傭兵騎士。
『無慈悲の獣』の異名を持つ顔をフードで隠した男。
3回戦勝者『ジーラス』。
刃を潰したツヴァイヘンダーを持った、傭兵騎士。
ドノヴァとはライバル同士、通称『武器砕きのジーラス』。
4回戦勝者『ソフィア』。
鞭を自在に扱う、設置系魔法使い。
ドSだという噂が立つ、妖艶な女性。
5回戦勝者『ランキ』。
大型の棍棒を振り回す、パワーファイター。
『悪鬼』の異名を持つ戦場の乱暴者。
6回戦勝者『レンドガ』。
北欧のヴァイキングのような狂戦士。
恵まれた体躯から繰り出される斧技は、敵をバターのように斬り捨てる。
7回戦勝者『カロ』。
刀と脇差を腰に下げた、侍のような風貌の男性。
居合斬りという異国の技を使い、数多くの猛者と立ち合ってきた。
8回戦勝者『エッジ』。
曲刀二刀流のソードダンサー。
カロを狙い、今期大会に参加した男。
9回戦勝者『ブロギン』。
病み術士と呼ばれる、スケルトン。
『病魔の主』の異名を持つ。
10回戦勝者『トーマ』。
白銀の全身鎧を来た、ラティリーズ専属騎士。
今大会のダークホース。
11回戦勝者『ゼフィラス』。
優勝候補筆頭の聖騎士。
人格、実力ともに超一流の騎士。
12回戦勝者『八霧』。
トーマの従者、錬金術師。
独自の薬品で敵と戦う薬師。
13回戦勝者『ドリー』。
弓とダガーで戦うエルフ。
ゼロームでも有名な弓の名手。
14回戦勝者『ディラー』。
ロンギヌス騎士団の槍騎士。
イグニスが引き抜かれた後、頭角を現した重装騎士。
15回戦勝者『ハインツ』。
流れの傭兵団『狼の牙』の団長。
重厚なグレートソードを肩に担いだ戦士。
前大会の準優勝者。
16回戦勝者『フェイ』。
木刀を持つ魔法剣士。
自らの力で強化した木刀を武器に戦う。
これで全員だ。
明日から、彼らと戦う『本戦』が始まる。
俺も、八霧も、あのゼフィラスも勝ち残った。
本戦で当たることになるかもしれない。
そう考えると、少し楽しみになってくる。
「ふぁ・・・んぅ?」
ずっと寝ていた神威が起きた。
「よく寝れたか?」
「んん・・・!」
伸びを一つすると、周りを見る。
夕方過ぎで、辺りも暗くなり始めていた。
「・・・どうなったの?」
「ゼフィラスさんも、八霧さんも勝ち残りましたよ!」
7号がそう言う。
「勝ち残った・・・か、なんだか不完全燃焼だけどね」
俺の隣に座っていた八霧が声を上げた。
そちらを見る神威。
「でも、トーマと戦える。・・・私も、見るの楽しみ」
「そう?じゃあ・・・頑張らないといけないかな」
そう言って、八霧は俺を見た。
「ああ、全力で来い」
そう言うと、二人して笑いだす。
その様子を見ていた神威にも笑みがこぼれていた。
――――――――――――――――――――
夕方が過ぎ夜のとばりが落ちてきた。
俺達は、一度ギルド拠点に戻ることにした。
夕食を作ろうか、とも考えていたからだ。
道具袋には食材も入っている。
EOSでは、料理は一時的にステータスを向上させる能力向上のシステムしかなかった。
だから俺にとって食材は、手には入るが役に立たないもの、その認識だった。
しかし、こっちの世界で食材として使えるのなら、使うに越したことはないだろう。
腐るかも知れないし、使い切った方が得だ。
八霧もそれには同感していた。
余った物を、文字通り腐らせるのはもったいないと、そう言う意見だ。
それに・・・食堂で食べるのもいいが、自分で料理を作りたいという気持ちもあった。
一人暮らしが長かったせいか、自分で料理を作るのが当たり前になっていたからだ。
「じゃあ、トーマさんが料理を作るんだ?」
「舐めるなよ?一人暮らしが長いと・・・料理も出来るんだぞ?」
と言っても、人に食わせて金をとれるようなレベルじゃない。
あくまで、食べられるものが出来る、位の能力だ。
トーマというキャラだって、料理スキルは初級止まりだ。
そんなことを話しながら、ギルド拠点の広間まで歩いた。
そして、あることに気づく。
出る時には無かった、あるものが広間の中央に置かれていた。
「・・・なんだ、これは?」
2m程の竜の銅像。
俺よりも少し高い位のその像には全体に宝石がちりばめられ、
キラキラと輝いていた。
竜の目には、一際大きい宝石が嵌められている。
「八霧、お前の・・・じゃないよな?」
「うん」
「神威も、違うか?」
「ん・・・知らない」
7号が運んでくるはずもない。
一体、誰がこれを。
そう思いながら、竜の頭付近を見ていた。
しかし、見事な銅像だ・・・装飾を見ても高価な物だというのは分かる。
不意に、その竜の瞳が光る。
その光が、徐々に強くなっていく。
「・・・皆、離れろ」
不穏な気配を察知し、全員にそう命令する。
皆が一歩後ろに引き、各々に身構えた。
瞳の光が強くなり、やがて銅像を中心に魔法陣が床に現れた。
「魔法・・・!」
背中の槍に手を掛ける。
八霧も棒を取り出していた。
神威は7号と共に戦闘態勢に入っていた。
何もない空間に亀裂のようなひびが入る。
そのひびが広がり、空間に穴が開いた。
丁度、俺達がここに来た時に使った・・・ゲートのような。
全員に緊張が走る・・・が。
そのゲートのようなものから顔を出した人物を見て、俺は力が抜けた。
「あら・・・?」
青白い髪をサークレットで纏めた美しい女性。
リルフェア、その人だった。
――――――――――――――――――――
リルフェアと・・・後ろについてきたラティリーズが拠点に現れた。
ラティリーズが出ると同時に、ゲートは消滅した。
「転移装置なんだけど、成功したみたいね」
「転移装置?この・・・銅像が?」
「ええ」
リルフェアが頷く。
「ちょっと、色々立て込んでいてね。
もしかしたら、貴方のここを、ラティリーズの避難場所にするかも知れないわ」
・・・避難場所?
「ラティリーズの部屋の方が安全じゃないのか?」
あの場所は他の空間からはほぼ隔離されている。
入るためには隠れることが出来ない廊下を歩き、扉を抜ける必要がある。
窓からの侵入も不可能だ、窓際に魔法防御が掛けられ一筋縄では突破できない。
だが、リルフェアの話は・・・外部からの脅威ではなかった。
「ええ、ゴルムの怪しい動きが活発化しているの」
聖堂騎士団の団長が怪しい動き。
・・・そうか、内部の問題か。
「怪しい動き・・・か」
八霧がそう呟く。
「・・・あら、貴方はトーマの従者ね?」
そう言えば、八霧とリルフェアが話すのは初めてか。
儀式のときに後ろにいたので、会う事自体は初めてではないはず。
「はい、リルフェア様。八霧と申します」
そう言って、片膝を床に付ける。
「ああ、別に構わないわ。トーマにもそう頼んでるから、楽にして」
八霧が俺の顔を見ると、姿勢を元に戻した。
そして、俺に尋ねてくる。
「どういうことかな、トーマさん?」
「・・・堅苦しいのは嫌だと言われた。
だから、口調は無理に変えないことにしたんだよ」
ああ、と納得する八霧。
「じゃあ、僕も・・・よろしくお願いします、リルフェアさん」
そう言って、頭を下げる八霧。
八霧の横にいた神威も、おずおずと話をしだす。
「神威・・・です、よろしく」
神威の顔を見ると、リルフェアは顔を微笑ませた。
「あらあら、貴方が噂の人形師ね。
トーマから話は聞いてたし、見てたけど・・・」
そうか、前に話していたな。
「?」
神威は首を傾げながら、リルフェアの顔を見ていた。
「あなたの自動人形、見せてもらえないかしら?」
その一言を聞いた神威はピクリと反応すると。
「興味・・・ある?」
少し、顔を輝かせてリルフェアに聞き返した。
「ええ、とっても」
リルフェアが微笑む。
神威も心なしか、笑っているように見える。
「皆、起きて」
神威の右手に装備している指輪が光る。
すると、神威の個室から音が聞こえ始めた。
・・・ラティリーズとリルフェアの驚く顔が目に浮かぶ。
読んで下さり、ありがとうございました。




