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315話

既に二人が争って数分。

お互いに力を競い合うように殴り、斬り、そして血を流しあった。


だがどちらも決着のつくような一撃を放つことは無い。

お互いにその行動を防御し合い、潰しているというのが正しいか。


「貴様、前とは見違えるほどの力を持ったか」


剣と槍、その鍔迫り合いの最中。

男はそう問うように聞く。


「お前を倒すために授けられた力だ」


槍で押し、奴の身体を後ろへと弾く。

ふわりと着地すると男は持っていた剣を浅く持ってぷらぷらとゆすって見せた。


「?」


「貴様たちの言うところの剣戟、技術といったものか。

 あの白銀共が使っていた剣術を見せてやろう」


「何・・・?」


その言葉に身構える。

EOSの大体の技は頭に入っているが、それはあくまで知識としてだ。

目の前にいる男の身体能力、それと使う技術次第では防ぐのは困難になる。


何を使ってくるつもりだ。


「大剣技『インパクトスラッシュ』」


剣の軌道が上方へと向く。

同時にその動きは急激に速度を上げた。


(上段からの振り下ろし、ダメージ比率は高いがパリィのタイミングも甘い。

 ・・・狙うは)


溜めるような仕草で剣を上段に構え、そしてそのまま振り下ろしてくる。


「ここだ!」


盾で剣の軌道を防ぐように構え、そのまま力をいなすように動かす。

力を横に逸らされた剣はそのまま地面へと突き刺さる。


(今なら隙だらけ、一撃を)


死に体と化したその身体に向かって攻撃を見舞う。

余裕そうなその顔が一瞬だが曇り、身体を強引に動かすような仕草を見せていた。

だが、遅い。

回避できないその攻撃を腹部に受け、槍の先端が完全に突き刺さった。


「ふ・・・その程度か?」


やはり、ダメージ自体はそれほどではないと見える。

人体で言えば腹部は急所に当たるが、今のこいつにとってはそうではない。

ならば、全身にダメージを与えるのみ。


「余裕顔だが、これはどうだ!」


持ち手を強く握り、ある仕掛けを作動させる。

ガチリ、と重い金属音が響くと槍の先端が爆発音を響かせた。


「何・・・ぬお!」


先端が射出する仕掛けの槍は前も使っていたが、これは更に改良したもの。

身体に刺さったままのそれは、男を引き連れながら後方へと吹っ飛んでいく。


「まだまだ!」


これには更に仕掛けが施してある。

射出された先端と持ち手の間は鎖でつながれている。

つまり、物理的につながっているのだ。


男が未だ吹っ飛んでいることを確認し、明後日の方向へと持ち手を振るう。

すると空を舞っていたその身体が急制動を起こす。


「貴様、何を」


鎖は金属音を立てながら男を振り回す。


「!」


一瞬目に入った巨石に向かって得物を振る。

丁度自分の上方を飛ぶように男の身体が過ぎ去り、そして狙う先である石に向かっていく。

しなりを付け、加速しながら男は石へと激突した。


その衝撃で巨石に見えていたそれは粉々に砕けた。


「終わりじゃないぞ!」


刺さる手ごたえはまだある。

このまま一気に奴の身体をずたずたにする。

再生が追い付かないほどのダメージを一気に与え、そのまま・・・!


――――――――――――――――――――


外側から攻撃を仕掛けようとしていた我々はその機会を見計らってはいた。

だが、予想以上に隙が無い二人の戦いにその行動への決断が出来ずにいる。

既に様々な準備は完了してはいたが、石を投げることはまだ出来ていなかったのだ。

そして今に至る。


「トーマ・・・」


目の前で起こっている戦いは常に流動的だ。

その流れ、勢い自体はトーマが握っていると言っていい。

反撃の余地を許さず、一気呵成に攻め立てている。


だが、それも時間の問題であろう。

いずれ縛めを解いた奴が反撃を始めることは明白だ。


「優勢、じゃ、ないよね?」


「その通りだ・・・見えるだけで先延ばしになっているだけの事」


鎖を振り回し、男を何度も地面へと叩きつけている。

その度に大地が揺れ、木が振動していた。


「蓄積はしているだろうが、ほんの一瞬で奴は回復する。

 無駄になるか、或いはそれが突破口となるか」


「ダメージが残るってことは倒せる可能性があるってことだよ。

 ・・・拘束が解けた瞬間、持てる力を持って攻撃するべきだと思うけど。

 僕たちも準備は完了しているし、役に立つ瞬間はあるはずだよ」


八霧の言った持てる力、それはゼロームの最終兵器を指している。

高濃度の魔力を直接叩き込み相手を消滅させる、文字通りに。


だが、奴の能力と今の状況を鑑みれば出力が足りないと言える。

考えている理論が正しければ、傷くらいはつくだろうが致命傷にはなりえない。

そしてそれはあくまで何もせず直接打ち込んだ場合だ。


「八霧君、この身体を使って兵器の魔力を増幅するつもりだ。

 この身体の全てをもって奴を消滅させる」


「それって・・・」


「一度きりしかできないだろうし、この身体も崩壊するだろう。

 だから外すわけにはいかん、それでだ」


本来ならば自分の身体にその魔力全てを宿して一気に放出するつもりだった。

それによって力が増幅した魔力をぶつけ、消滅させる。


しかし、今の自分の身体では増幅途中で朽ちる可能性がある。

それだけ身体も限界にきているのだ。

だから。


「八霧君、もしもの時の為の道具を」


装飾も何もついていない杖を渡した。


「これは・・・?」


「振れば、私の身体に宿した魔力をその方向へと放つものだ。

 その時に私の意思が残っていなかった時に使ってくれ。

 無いとは思うが、万が一があるからな」


出来れば自分でやりたい。

だが・・・出来ない場合の保険は残しておくべきだろう。

幸い目の前にはそれを実行できる人物がいる。

ならば託す、第二の手を。


「Gさん・・・」


杖を受け取った八霧はそれを懐へと忍ばせた。

それでいい、後はタイミングを合わせて奴を屠るだけ。


「この身体も限界が近い、チャンスはそう多くないだろうな」


たまに目が霞むようになってきた。

身体に蓄積したダメージのせいもあるだろうが、

それ以上に蘇った弊害とも言えるものが身体に現れつつある。


全身を包む倦怠感と、身体を蝕むような鈍痛が先ほどから響いている。

自身でしか理解できないだろうが、これは身体が崩壊を始めているのだろう。

・・・元々強引によみがえった身、いずれ朽ちることは分かっていた。


目線をトーマと男に向ける。

未だ拘束されたまま鎖によって地面に叩きつけられている男と、

それを巧みに操ってダメージを叩きだしているトーマ。

だがその一方的に見える戦いも終わりに近いだろう。


そう思うのは振り回される男の顔が一瞬、ニヤリと笑ったからだ。

ダメージ与えたから、どうなるのだ?とでも言いたいように。


「チャージを開始する、八霧君離れておけ」


「・・・」


無言で距離を取る八霧。

さあ、後は兵器の魔力を利用して奴にぶつけるだけだ。


全身に力を籠め、体内に流れる魔力を渦のように体中に流す。

そして兵器の発動を指示するクリスタルを握り、砕く。

これでこの場に魔力が・・・。


「来たか・・・ぐぅ!」


天から降り注ぐ光の柱。

それは魔力の塊であり、ゼロームの最終手段でもある兵器の正体。

本来なら浄化の光ともいえるその魔法、だが。

今の奴に使った所で皮膚を焼くことすらできない。


いま、それを身体に受け吸収している。

なるほど最終兵器というだけあってその魔力は夥しい。


「おおぉ!く・・・これは」


魔力の光がさらに激しくなり体内へ入ってくる量も桁違いに多くなる。

身体中で何かが蠢き、そして溶かすような感覚が頭を襲う。

手も足も感覚が薄くなり激痛と共に魔力が膨れ上がっていく。


奴に致命の一撃を喰らわせる、その高みに上るまでは死ねはしない。

この攻撃で奴を屠るその時までは。


読んで下さり、ありがとうございました。

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